第85話 素材集め その9
『ここから先はボスエリアです。ボスに挑戦しますか?』 『YES』
アストレイアとスプリングは手を繋いでボスエリアに侵入する。
ここのボスは『宝石蚕』。港町『ハーバー』はここのボスを討伐しないと到着することはできない。
二人がボスエリアに入ると、そこは森の中だった。
背の高い樹々に囲まれて、戦闘用に少し木が生えていないスペースがある。
そこに、十メートル近くもある巨大な幼虫が動いていた。モシャモシャと樹々の葉っぱを食べている。
幼虫の皮膚はプラチナのように白銀に輝いていた。『宝石蚕』の幼虫だ。
その幼虫を見上げてアストレイアが声を上げる。
「おぉー! デフォルメされています!」
幼虫はちょっと可愛らしくデフォルメされていた。
あまり現実に近づけると嫌悪感を抱く人が多いので、可愛らしいデザインになっていた。
プレイヤーに親切だ。
「忠実に再現されていなくて安心したよ。流石にこれだけ大きいと俺でも無理」
「ですよねー。私も無理です」
アストレイアとスプリングはモシャモシャと葉っぱを食べる芋虫を見上げる。
どうやら攻撃するまでボスモンスターは襲ってこないようだ。
だから二人はボスの幼虫を眺めながらお喋りをする。
「ではレイアさん。注意事項をどうぞ」
「はい。まず、蚕は一匹二匹と数えるのではなく、一頭二頭と数えるそうです。昔は家畜として扱われていたからだそうですよ」
「へぇー知らなかったぁ…………って、今聞きたいのはそんな雑学じゃない! ボスの情報を教えろ!」
「もう…せっかちですねぇ。まあいいでしょう! まずひと~つ! ボスエリアにある四つの魔法石を拾いましょう!」
魔法石とは魔石に魔法を込めた石のことである。魔力を使わずに魔法を放つことができる使い捨てのアイテムだ。それほど珍しいものでもない。
よく見ると、木の根元に輝く石を見つけた。赤と青と緑と黄色の四つの魔法石だ。
スプリングは四つの魔法石を拾うとアストレイアの元へ戻る。
「拾ったぞ。なんでここに魔法石があるんだ?」
スプリングは首をかしげるが、アストレイアも首をかしげる。
「さあ? わかりません。使わなければ戦闘が終わった後も持って帰れるそうですよ。価値はほとんどありませんが」
「魔法は何が入っている?」
「えーっとですね。緑の魔法石には
「普通の低級の魔法だな」
「そういうことです。まあ、貰えるだけ貰っておきましょう。そして、情報二つ目! 『宝石蚕』は姿が変化するモンスターです! 先輩はボスのあのHPバーが見えますか?」
「六本あるな」
モシャモシャと葉っぱを食べている芋虫の上に六本のHPバーが浮かんでいる。
「そうです! 六本あるのです! HPバーが二本なくなると、無敵モードに入り、樹々に糸を吐いてせっせと繭を作り始めるのです。繭を作り終わったら無敵モードが解除され、物理と魔法耐性が物凄く上がります」
「『宝石シルク』の繭か」
「そういうことです。そして、またHPバーを二本消すと、今度は羽化します。『宝石蚕』の成虫です。綺麗な姿のようですが、魔法を使ったり、状態異常の鱗粉をまき散らすようです。結構えげつないらしいです」
相手にしたくねぇ、とスプリングは思い、顔をしかめる。
状態異常の回復アイテムは持ってはいるが、倒しきるまでに何回使うか想像したくない。
アイテムもいい値段するのだ。
スプリングはポンっとアストレイアの肩を叩いた。
「いざという時は頼んだ」
「えっ? 私を盾にするんですか? 酷い…」
ウルウルと瞳を潤ませて上目遣いをするアストレイア。スプリングは思わず見惚れてしまう。
しかし、泣き始めたアストレイアを見て、スプリングは慌てふためく。
「ま、待て! 俺はレイアを盾にしようとか思っていないから! いざとなったら風の魔法で鱗粉を吹き飛ばして欲しかっただけだから!」
「知ってますよ」
アストレイアは嘘泣きを止めて、ニコッと悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
あまりに上手すぎて本当に泣き始めたと思っていたスプリングは、彼女の暴露でキョトンと固まってしまう。
「知って………知ってたのか?」
その様子を見てアストレイアはクスクスと笑う。
「ええ、もちろん。先輩を揶揄っただけです! 見事に引っ掛かりましたね!」
ようやく揶揄われたことに気づいたスプリングは、プルプルと身体を震わせ始める。
アストレイアはとてもとても楽しそうだ。
「とっても可愛かったですよ♡」
その言葉が止めだったようだ。
「うるさい!」
スプリングは拗ねたように顔を逸らす。その先にアストレイアは回り込む。
「あれ? 先輩拗ねちゃいました?」
スプリングは逆方向に顔を逸らす。
「………拗ねてない」
「拗ねてるじゃないですか! この可愛い笑顔に免じて許してください! にぱぁ!」
アストレイアが輝く笑顔を浮かべる。可愛い笑顔を見たスプリングは思わず見惚れて固まってしまう。
固まったスプリングの顔の前で手を振っても反応がない。
「あれぇ~? せんぱぁ~い? ラグってます? 強制ログアウト? お~い! チョロいせんぱぁ~い! 起きてますかぁ~? チュ~してやりますよぉ~!」
「そうか。ならしてもらおうかな?」
「きゃっ!」
突然復活したスプリングが、アストレイアの腰を抱きよせて至近距離で囁いた。
予期せぬ出来事でアストレイアはキョトンとする。そして、至近距離にあるスプリングの顔に驚いて慌てふためく。
「どうした? キスしてくれないのか?」
「あ、あのっ! そ、それは……」
「じゃあ、俺がしてやる」
「えっ!? んぅ~~~~~~~!」
やられたらやり返す主義のスプリングがアストレイアの唇を塞ぐ。
バタバタと暴れていたアストレイアも、少しすると脱力し、スプリングの唇を受け入れる。
身体のすべてをスプリングに委ねた。
しばらくスプリングはアストレイアの柔らかな唇を堪能する。
二人の唇がゆっくりと離れた。
アストレイアの頬はピンクに染まり、瞳は熱っぽく潤んでいる。
スプリングが悪戯っぽく微笑みかけた。
「どうだ? やり返せたか?」
「せ、先輩のばかっ! あほっ! えーっと、ばかっ!」
「レアは可愛いな」
「うぅ~~~~!」
嬉しい気持ちはあるが、やり返されて悔しさもある。アストレイアは頬をぷくーっと膨らませて、唸り声をあげながらムスッとスプリングを睨む。
「た、たった一回くらいのキスじゃやり返せたことにはなりません!」
「そうか。ならたくさんしてやる。レアが音を上げるまで」
「そ、それはちょっと! んっ! 先輩んぅっ♡ ちょっとあむっ! んふぅ~~~~! んぅっ! んぅ~~~~~~っ!」
容赦なくスプリングはアストレイアにキスを施す。
ボスのことなどすっかり忘れて、今は目の前のアストレイアにキスの雨を降らせていく。
最初は抵抗していたアストレイアも、次第に諦め、スプリングにキスを返していくのだった。
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