第84話 素材集め その8
大変長らくお待たせいたしました。
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レイドボスモンスター『ライオネル』を討伐した次の日、スプリングはアストレイアと手を繋いで街の中を歩いていた。
腕に抱きついたアストレイアが、スプリングの顔を下から覗き込むように見つめる。
「せ~んぱいっ! 今日は何をしますか~?」
可愛らしい顔にスプリングがハッと見惚れてしまう。
しかし、ブンブンと顔を振って気を取り直す。
「どうするかなぁ? 昨日のドロップアイテムを売るのもいいけどなぁ。でもなぁ。結構いいアイテムだったんだよなぁ」
スプリングは悩む。
昨日倒したのはレイドボスモンスター。大勢の人数で挑むボスモンスターである。それを二人で倒してしまったので、報酬や経験値が二人で総取りになったのだ。
ウハウハだったのは言うまでもない。
「じゃあ、いっそのこと使っちゃいます? そろそろ装備を新しくしてもいいんじゃないですか?」
「おっ! それいいな! 採用!」
アストレイアの提案にスプリングが指を鳴らして賛成する。
そうと決まったら早速行動だ。
アストレイアとスプリングは近くのベンチに座って調べ物を始める。
「ふむふむ。今回手に入れたライオネルの毛皮は現時点で最高ランクの性能ですね。流石今までで一回しか倒されなかったモンスターです」
調べ物が得意なアストレイアが、猛烈な勢いで情報を集め、まとめている。
「じゃあ、それを使うのは決定。後はなんかないか? レアリティが高いやつとか」
「えーっと、『宝石蚕』というボスモンスターの超絶レアドロップの『宝石シルク』というものがありますね。性能は現時点で魔法防御系最高ランク。物理耐性も結構高いですね。場所は、南の『港町ハーバー』の前ですね」
「ハーバーか……確か南の最前線だったよな?」
「はい。東の『イースト』、西の『ウェスト』、北の『ノース』が各方角の最前線の街なんですが、南だけが『サウス』を見つけていないんですよね。だから現時点では南の最前線はハーバーです」
プレイヤーたちは躍起になって攻略に勤しんでいる。
しかし、最近は各方面で攻略が滞っているらしい。
何でも、壁が遮っていて通れないらしい。アップデート待ちか、と噂されているほどである。
スプリングは考えをまとめる。
「そういえば、俺たちはイースト、ウェスト、ノースは行くだけ行ったよな?」
「はい。街に行くだけ行きましたね。その先は行ってませんが」
「じゃあ、『宝石蚕』を狩って、ハーバーに行くか。港町に行こう!」
「港町でデートですね!」
「…………おぅ!」
スプリングが恥ずかしそうに頷いた。
二人は攻略を目的としていない。二人の主な目的は観光である。
綺麗な景色を見に行き、二人でデートする。
デートが二人の最優先事項である。
計画が決まった二人は、ベンチから立ち上がり、仲良く手を繋いで『港町ハーバー』へと向かうことにする。
道中、スプリングはアストレイアに尋ねる。
「なあレイア? 各最前線はどうなっているんだ?」
「カミさんからの情報や掲示板によると、北端の街『ノース』の先は一日中星空が輝く丘らしいですよ。時々オーロラが出るとか。モンスターは鉱石のゴーレム系が多いそうです。通称『星降る丘』。流れ星も落ちるそうです。とっても綺麗だそうですよ。今度行きましょう!」
「りょーかい」
水色の瞳をキラッキラさせたアストレイア。行きたい行きたい行きたい、と全身からオーラを放っており、スプリングは苦笑しながら受け入れた。
まあ、拒否するつもりは皆無だったが。
デートの約束をして機嫌が更によくなったアストレイアが説明を続ける。
「東端の街『イースト』の先は、一日中太陽が輝くエリアだそうです。断崖絶壁の先に、空中に浮かぶ島々があるとか。島の一つにある花畑が綺麗だそうです。カミさんによるとデートにぴったりだとか。通称『真昼の浮遊島』。今度行きましょう!」
「りょーかい」
再び行きたいオーラを放ったアストレイア。
スプリングは、頭の中の計画帳にお花畑デートと刻み込んだ。
お弁当を持って行ってピクニックもいいな、と思い始める。
「西端の街『ウェスト』の先は、霧に覆われた森だそうです。ここは普通に時間が流れていますね。でも、霧の森に入ると、いつの間にか出口に戻ってくるか、死に戻るそうです。モンスターの姿は捉えられていませんが、シューシューと音が聞こえたとか……。通称『迷いの森』。外から眺めるぶんには幻想的で綺麗だそうです。ここも行きましょう!」
「お、おう。って、さっきからなんか情報がおかしくないか?」
アストレイアがキョトンと首をかしげた。
「えっ? おかしかったですか? カミさんから貰った『ペーパーが選んだ最前線のデートスポット集』なんですけど」
「………………やっぱりそういう情報だったか。俺は普通に攻略情報を聞いたつもりだったんだが…」
「今まで私たちはこうだったじゃないですか! でもでも! 次は攻略情報ですよ!」
アストレイアがエッヘンと胸を張って少しドヤ顔をした。
あまりの可愛さにスプリングは思わず見惚れてしまう。
「今、私たちが向かっている『港町ハーバー』は文字通り海に面した街です。お魚が美味しいそうですよ。港もありますが、ちょっと離れた場所には白い砂浜があるそうです。モンスターも出ないので水着を着て遊べるんです! よし! 行きましょう! 決定です!」
「………それはいいけど、どこが攻略情報?」
ガックリと肩を落としたスプリングに、アストレイアが可愛らしくキョトンと首をかしげる。
「……先輩の攻略情報?」
「俺はもう既にレイアに攻略されてるから!」
思わずスプリングが天に向かって叫び、アストレイアが頬を赤く染める。
周りのプレイヤーたちがいちゃつく二人を見て、睨む。スプリングを。
アストレイアが軽く咳払いをする。
「えー、コ、コホン! 『港町ハーバー』の先にはですね、ウミガメ型のボスモンスターがいるんですけど、そのボスを倒しても次の街にたどり着けないそうです。予想される街『サウス』は海のど真ん中にある島だとか、海の中にある島だとか言われていますが、未だに発見できていません」
少し頬を赤く染めたアストレイアが胸を張ってドヤ顔をする。
「ちゃんとした攻略情報を言ってあげましたよ! これで満足ですか!?」
「あーはいはい。ありがとありがとー」
スプリングはいい加減に返事をしながらアストレイアの頭を撫でる。
頭を撫でられたアストレイアは、顔を幸せそうに蕩けさせながらムスッとした声を出すという器用な芸当をする。
「むぅ! 心がこもっていません! 頑張って情報を集めて報告しました。なので、私を甘やかすことを要求します!」
頭を撫でられて既に顔が蕩けているアストレイアをスプリングはお姫様抱っこをした。
いきなりのことでアストレイアは目をパチクリとさせる。
「これでいかがでしょう、俺のお姫様」
超至近距離でスプリングがアストレイアを見つめる。
アストレイアは満足そうだ。
「うむ! 余は満足じゃ! さあ、先輩レッツゴー!」
頑張ったお姫様を抱いたスプリングは、目的地の港町ハーバーへと向かって歩いて行った。
途中、物凄く視線を集めたのは言うまでもない。
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