第83話 かまってちゃん
『おかえりなさいませ』
無機質な合成音が響き、春真は現実に戻ってきた。レイドボスモンスター『ライオネル』を無事に討伐し、報酬を確認した二人は、時間的にログアウトする時間になったのだ。
VR空間から帰還し、VRゴーグルを取り外せるようになった。
春真は左右からの心地良い温かさを楽しみながら腕を上げてゴーグルを外す。
ゴーグルを外した春真に可愛らしい妖精二人がじっと見つめていた。
「夏稀さん? 雪さん? 何をしているんだい?」
春真は自分の脇の下にすっぽりと収まっている妹の夏稀と幼馴染の雪に問いかけた。二人は可愛らしい笑顔でニコッと笑う。
「お兄ちゃんの抱き枕です!」
「・・・春にぃが私たちの抱き枕とも言う」
春真の身体にむぎゅっと抱きついている夏稀と雪。二人は彼の身体から離れるつもりはないらしい。気持ちよさそうに抱きついている。
「ゲーム中に俺の身体に異常があったら強制ログアウトなんだけど」
呆れを含んだ声で二人の少女に叱りつける。
VR空間にダイブ中に現実の身体に誰かが触ったり異常があった場合は強制ログアウトされるのだ。
それを知っているはずなのに、夏稀と雪は春真の身体に抱きついている。
「私たち妹はお兄ちゃんの付属品なんだよ! 異常って判断されるわけないじゃん!」
「・・・んっ! だから、強制ログアウトがされなかった」
ドヤ顔をする夏稀と雪。夏稀は”私たち妹”と言っているが、実際には雪は幼馴染である。
二人の言葉を聞いた春真は困惑する。
「そういえば、二人が抱きついているのになんでログアウトされなかったんだ? 俺の身体に触れられたら強制ログアウトされるのに、なんでだ!?」
「妹だから!」
「んっ!」
春真は得意げに言う二人の謎理論に納得しかけるが、詳しく考えてもわからないのは確実なので、考えることを止める。そして、夏稀と雪に再び問いかける。
「で? 何で俺を抱きしめているんだ?」
「「抱き枕だから!」」
「いや、そういうことじゃなくて・・・って、俺は抱き枕じゃない! 離れろ!」
引きはがそうとするが、二人は春真の身体にむぎゅっと抱きついたまま離れない。
数分頑張った春真は、結局二人をはがすことができず、諦めて二人の抱き枕と化す。
「ふぅー。このまま寝そう」
「んっ。安眠枕」
「そりゃどうも。二人とも何かあったのか? こうしてくっついてくるのは珍し・・・くないか。お風呂に突撃するような妹と幼馴染だし」
「別に理由はないよ~。しいて言うなら・・・」
「春にぃ、かまって?」
可愛い顔でおねだりする夏稀と雪。
そういえば最近二人に構っていなかったと春真は気づいた。伶愛とデートに行ったりゲームしたりして二人との時間を作っていなかった。だから、抗議のために二人はゲーム中の春真のベッドに潜り込んだのだろう。
春真はふぅっと息を吐くと妹と幼馴染をぎゅっと抱きしめる。
「わかった。俺は何をすればいい?」
「そのまま寝てて!」
「・・・いつもは伶愛の抱き枕だけど、今日は私たちの枕」
「れ、伶愛って何であいつのことを・・・!?」
「んっ! お見通し」
「私たち妹をなめるなと言いたい」
伶愛とのことは何故か知らないが、二人に全てバレているらしい。デートのことも二人にバレていた。
春真は何も言えなくなる。どこまでバレているのか恐怖する。
夏稀と雪が悪戯っぽい笑顔で春真を見つめる。
「さて、お兄ちゃん? 現役JKに抱きつかれたご感想は?」
「現役JKって言われても妹と幼馴染だぞ。別に何も」
「・・・押し付けられたおっぱいの感触は?」
「えっ? 押し付けてる?」
バコッ! ボコッ!
背中に般若が浮かんだ夏稀と氷の女王を従えた雪が、ニッコリと微笑んで春真のお腹を殴りつけた。二人の拳がめり込んで春真は余りの激痛に悶絶する。
「最低!」
「んっ! 失礼!」
「ゴホッゴホッ! と、とぼけて誤魔化す男の心情を理解してくれ・・・」
「お兄ちゃんは乙女の心情を理解するべきです!」
雪が夏稀の言葉に賛成し、コクコクと頷いている。
妹と幼馴染だからと冗談を言ったつもりだったが、乙女の二人には通じなかったらしい。春真は反省する。
「ごめんなさい」
「うむ!」
「んっ!」
「でも、最低なお兄ちゃんに私たちも成長したということを証明すべきだと思います! どうでしょうか雪さん?」
「んっ! 夏稀さんに賛成!」
「全会一致で可決されました。というわけで、とりゃっ!」
「・・・んっ!」
春真の手にふにっと柔らかな感触がした。夏稀と雪が春真の手を動かし、自らの胸に導いたのだ。
訳がわからず手を動かしてしまう春真。これが男の本能だろう。
自らの手が二人の胸に置かれていることに気づいた春真は手を離そうとするが、物凄い力で二人に掴まれ離すことができない。
「どうだ! 妹だって成長してるのです!」
「んっ! ちゃんと大人になってる」
「私のほうが胸は大きい!」
「・・・でも、私のほうが感度がいい」
「「伶愛 (ちゃん)には負けるけど!」」
「わかった! わかったから離せ!」
焦ってあたふたとする兄を見て夏稀と雪はクスクスと笑いながら手を離してくれた。
この数秒で春真は長距離走を走ったかのように疲れた。ぐったりと脱力する。
「こんなこと他のところでは絶対にするなよ! 他の男にもだ!」
「大丈夫! お兄ちゃんにしかするつもりないから!」
「・・・私たちの身体は春にぃ専用。えっちなことする?」
「しない! ・・・何故ショックを受けている?」
断られた衝撃で、ガーンッとショックを受けて固まっている雪。夏稀も似たような表情だ。
「・・・男子高校生は性欲の塊。野獣なのに」
「お兄ちゃん。性欲ある?」
「あるわ! 普通にあるから!」
「「どれどれ・・・」」
「って触ろうとするな! この変態妹と幼馴染!」
股間に手を伸ばしていた二人の手をペシッペシッと叩いた春真。ツッコミを入れてゼェーゼェーと荒い息をする。
夏稀と雪は春真を揶揄えてケラケラと楽しそうに笑っている。
「・・・俺を揶揄うなら部屋から放り出すぞ!」
「「ごめんなさ~い!」」
二人は大人しくなって、すっぽりと春真の脇の下に収まり、彼の身体にむぎゅっと抱きつく。
春真は仕方なく二人の身体を抱きしめると、今日は三人で寝るのだった。
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