第82話 素材集め その7 ライオネル戦

 

 地面に巨大な魔法陣が描かれ、何かが召喚されてくる。体長5メートルくらいのメスライオンが五匹と体調50センチほどの子ライオンが10匹召喚されてきた。

 魔法陣が消え去った後、メスライオンと子ライオンが天に向かって咆哮する。子ライオンが吠えている姿は可愛らしくて癒される。


「赤ちゃんライオン可愛いですね」


 アストレイアが頬を赤くして和んでいる。

 しかし、メスライオンたちはガルルと唸り声を上げて威嚇している。


「そう言えば、ライオンって群れを作るんでした。ハーレムでしたね」


『ニャフ!』


 アストレイアの言葉を聞いたボスモンスターのライオネルがドヤ顔している。最近のAI技術は進歩している。ムカつくほどのドヤ顔だ。

 スプリングは何故か同情した顔つきでライオネルへと話しかけた。


「お前も女性関係で苦労してそうだな」


『ニャウニャウ!』


 マジでそうなんすよ、と言わんばかりに深く深く頷くライオネル。周りにいる5匹のメスライオンに吠えられて、顔を真っ青にしたライオネルがペコペコと頭を下げている。群れのボスでもメスには逆らえないらしい。どこの世界でも女性は強いようだ。ボスモンスターの威厳がなくなっている。

 同情しているスプリングの隣から薄ら寒い冷気が漂ってきた。


「先輩? お前、とはどういうことでしょうか? 先輩は女性関係で苦労しているのでしょうか? 詳しく話を聞かせてください」


 スプリングが猛烈に慌て始める。アストレイアは瞳から光が消えている。


「あっ、いやっ、言葉の綾というか、夏稀と雪がいろいろと……」


「ふぅ~ん? いろいろとは?」


「お風呂に突撃してきたり、布団に潜り込んできたり……」


「それくらいは許しましょう」


「あ、ありがとうございます」


 スプリングはホッと息を吐いた。普通なら怒られることだと思うのだが、と彼は思うが、怒られたくはないので黙っておく。

 ちなみに、夏稀と雪がお風呂に突撃してくるときは水着着用である。まあ、極めて過激な水着だったり、マニアックなスクール水着だったりするのだが、スプリングは口に出さない。

 ライオネルはメスライオンにお説教されたまま動かない。というか動けない。ぺこぺこと頭を下げたままだ。暇になった子ライオンたちがスプリングとアストレイアに飛び掛かってくる。

 体長50センチという少し大きめのモフモフたちがジャンプするが、二人に空中で捕まえられる。


「きゃー! 先輩モフモフですよモフモフ! きゃー!」


「お、おぉ。それは良かったな」


 モフモフを捕まえて一気にテンションが上がったアストレイア。珍しい彼女を見てスプリングはちょっと見惚れる。

 スプリングは自分の手の中にいる子ライオンに視線を向ける。クリクリした可愛い瞳。モフモフした黄色い毛皮。モガモガと抜け出そうとしているが、全く抜け出せず、短い手足と尻尾をフリフリしているだけだ。


「………可愛いな」


「ですよねですよね!」


『ガウガウ!』


『ギャウ!』


 スプリングの瞳がキラリと光った。アストレイアの瞳もキラリと光る。


「ふっふっふ。日々レイアをモフモフして鍛え上げられた俺のモフリ技術テクニックを見せてあげよう!」


「ふっふっふ。時々先輩をモフモフして鍛え上げられた私のモフリ技術テクニックを見せてあげましょう!」


 そして二人は同時に子ライオンをモフモフし始める。


「「それっ! モフモフ~!」」


『『ギャッ!? ギャウ~♡』』


 二人の手の中にいる子ライオンたちは一瞬ビクッとして、すぐに身体を脱力させてモフモフを受け入れる。可愛らしい顔を更に緩ませて、ゴロゴロと甘えてくる。

 残り8匹の子ライオンたちは困惑する。スプリングとアストレイアの腕の中にいる2匹の子ライオンは襲い掛かることなく二人に甘えているのだ。それはそれは気持ちよさそうに。

 オロオロとしている子ライオンたちにアストレイアが告げた。


「そこのモフモフたちよ! モフられたかったら一列に並ぶのだ!」


 顔を突き合わせて話し合った子ライオンたちは、平等に4匹ずつスプリングとアストレイアの前に並んだ。行儀よく一列に並び、お座りしている。


「行儀いいな」


「ですね~。先輩、感心している場合じゃないです! 折角順番待ちしてくれているのですからモフモフしてあげないと!」


 アストレイアの方には、いつの間にか撮影用の天使人形が出現している。このモフモフを撮影しているようだ。


「そうだな。モフモフしないとな」


 二人はしばらくの間、時間を忘れて子ライオンたちをモフモフしていた。

 どれほどの時間が経っただろうか。ようやくメスライオンたちからのお説教が終わったライオネルが戦闘中だったことを思い出した。周囲を見渡し、敵二人を探す。そして、見つけたのは子ライオンたちに囲まれて寝そべるスプリングとアストレイアの姿があった。倒されているわけではない。子ライオンたちに甘えられてお昼寝をしているようだ。


『ニャウッ!?』


「おぉ? やっとお説教が終わったみたいだな」


 地面に寝ていたスプリングが、身体の上に乗った子ライオンを抱き上げて起き上がる。アストレイアも上体を起こした。子ライオンたちは残念そうだ。


『ガウガウ!』


 メスライオンが吠えると子ライオンたちが嫌々二人の身体から離れてメスライオンの下へと向かった。もふもふがぁ~、とアストレイアが悲しそうに小さく呟いた。


『ガウ!』


 まるで、子供たちの相手をしてくださってありがとうございます、というように頭を下げるメスライオン5匹。子ライオンたちも親の真似をする。それにつられたスプリングとアストレイアも頭を下げる。


「気にしないでください。私にもお気持ちはよくわかります。こういう時はお説教と調教が必要ですよね」


「おいっ!」


 思わずスプリングが声を荒げる。


『ガウ!』


『ニャッ!?』


 本当にそうなんですよ、と同意して頷くメスライオンたちに、ライオネルが、えっ、というように驚いている。

 そして、地面に大きな魔法陣が描かれた。またライオネルの仕業か、とスプリングが警戒するが、何かがおかしい。ライオネル自身が一番驚いてキョトンとしているのだ。

 魔法陣の輝きに包まれていくメスライオンと子ライオンたち。光をあげて少しずつ消えていく。再び頭を下げた群れは完全に消え、魔法陣も消え去った。

 ライオネルは何が起こったのか訳がわからず呆然としている。


「………………メスライオンたちが勝手に帰ったのか?」


「どうやらそうみたいですね」


 スプリングとアストレイアがライオネルに向かって武器を構える。群れを失ったライオネルが慌てて構えるが動揺を隠しきれていない。


『ニャ、ニャゥ~?』


 果てには可愛らしく命乞いまでし始める。これがレイドボスなのかと疑ってしまう光景だ。

 しかし、二人は武器を下ろさない。


「まあ、うん、問答無用ってことで」


「えっと、ごめんなさい?」


 スプリングの剣戟が、アストレイアの魔法が、ライオネルの巨体を襲った。空間が斬れ、魔法が爆発する。


『ニャ、ニャウ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!』


 エリアにライオネルの悲鳴が響き渡った。

 こうして、今まで一度しか倒されていないレイドボスモンスター『ライオネル』はあっさりとスプリングとアストレイアによって倒されたのだった。


『Congratulations!』


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