第81話 素材集め その6 ライオネル戦

 

「レイア行くぞ!」


「はい! えーっと…技名は適当に、魔法の雨あられ!」


 適当に選択したアストレイアの魔法がライオネルに向かって飛んでいく。彼女は無詠唱で魔法を発動できるのだ。わざわざ技名を言う必要はない。

 レイドボスモンスターのライオネルは、王者の風格を漂わせ、避けることもなくすべての魔法を受け止める。ダメージは極わずか。ライオネルは魔法耐性を持っているのだ。


『ニャォォォオオオオオオオオオオオオオオン!』


 ライオネルが天に向けて咆哮する。口を大きく開けたライオネル。余裕綽々な態度。しかし、その目が大きく見開かれた。


「喰らいやがれ!」


 スプリングが剣を輝かせながら空から降ってきた。ライオネルの口の中めがけて剣を振るう。毛皮に覆われていない口の中を狙った攻撃。攻撃が届くと思われた瞬間、ライオネルの口がパクンッと閉じた。


「なにっ!?」


 剣は閉じた口に当たり、火花が上がる。ダメージはほぼゼロ。フフンッとライオネルは得意げだ。

 攻撃が失敗したスプリングはすぐさま空中で姿勢を変え、ライオネルの目に向かって突きを放つ。


 ガキンッ!


 剣先がライオネルの瞼に当たって跳ね返される。直前で瞬きしたのだ。ライオネルはそのままスプリングへ頭突きを仕掛けるが、彼はその勢いを利用してアストレイアの下へと戻っていった。

 スタッと着地したスプリングはライオネルを睨む。煽るようにパチパチと瞬きしている姿にムカッとする。


「レイア。あいつ俺たちの話を聞いてるぞ。わざと口を開いたり、攻撃が当たる直前で瞬きしてる」


「チッ! 無駄に高性能なAIですね。パターンBへと移りましょう」


 ライオネルの周囲に大量の土の塊が出現する。スプリングは剣を構えた。


『ニャン!』


 土の塊が二人に向かって放たれる。常人ならば防げない土の弾幕を、スプリングはことごとく斬り捨てる。自分とアストレイアに当たるものだけを瞬時に把握し、神業的な技術とスピードで斬り裂いていく。

 スプリングの後ろにいるアストレイアは一切動かない。彼を信じ切って何も防御をしない。むしろ、次の攻撃の準備をしている。

 スプリングが全ての魔法を斬り裂いたところで、アストレイアが魔法を放つ。


「いっけぇ! えっーっと…魔法のシャワー!」


 大量の魔法が放出される。今回は主に火属性の魔法と水属性の魔法だ。大量の魔法がライオネルの巨体へと着弾し、周囲が蒸気で包まれる。視界を奪われたライオネルが混乱している。


『ニャオン!?』


 訳がわからず混乱するライオネル。その耳がわずかな音を聞き取った。空中から風を切る音。


「無刀流」


 回避行動を起こすがスプリングのほうが早い。ライオネルの背中に向かって掌底を繰り出す。手のひらが背中に触れた瞬間、スキルを発動させる。


「インパクト!」


『ニャァァアアアアアアアアア!』


 スプリングの掌底。手のひらから放たれた魔力がライオネルの体内で爆発する。ゼロ距離の体内破壊攻撃。物理攻撃に耐性があるライオネルの毛皮でも、体内を直接攻撃されたら守ることは出来ない。ライオネルは衝撃で地面に叩きつけられた。HPが大きく減少する。

 そこに、杖を掲げた少女が美しく唱える。


「プリズムバインド」


 あらゆる属性のバインド攻撃。ライオネルを地面に縫い付けて動けなくする。必死でもがくが、レイドボスモンスターでも魔法特化のアストレイアの魔法拘束を破ることができない。


「ねえ先輩?」


 自らの傍に降り立った彼にアストレイアが問いかける。


「『無刀流インパクト』って何ですか? ただの掌底と魔力を爆発させただけですよね? なんですか無刀流って! 中二病ですか? ぶふっ!」


「う、うっさい! レイアも『魔法の雨あられ』とか『魔法のシャワー』とか、ダサい技名を言ってたから。それに偶にはこういうのもいいだろうが!」


「ダ、ダサくないです! あれは技名とかじゃなくて、適当に言っただけなんですから!」


「ふぅ~ん? でも、『プリズムバインド』って何だ?」


「先輩を真似してみたんです! これはダサくないですよね? 虹の拘束って書いてプリズムバインドって読みます。ずっと昔に考えていた甲斐がありました」


「へぇー。『虹の拘束プリズムバインド』ねぇ。ずっと昔に考えていたのか。中学二年生の時か?」


「し、しまった。口が滑った。先輩忘れろ~!」


 スプリングに飛び掛かるアストレイア。そのままポカポカと彼の身体を叩き始める。スプリングはニヤニヤと笑ったまま彼女を眺めていた。


「くっ! こうなったら、この鬱憤をあの駄猫にぶつけます!」


 アストレイアは、キッとライオネルを睨みつけた。様々な属性の魔法拘束にもがいていたライオネルがビクッと身体を震わせる。


「うふっうふふ。さぁ~て、水責めの時間ですよぉ~」


 巨大な水の塊を出現させたアストレイアがニコッと微笑む。ライオネルはブルブルと恐怖で身体を震わせ、ウルウルとした瞳で懇願し始めた。尻尾も力なく垂れ下がっている。


『ニャオ~ン』


「あはっ♪ 恨むなら先輩を恨んでくださいね~!」


「なんで俺!?」


『ニャウ!』


「俺を睨むな!」


 余計なとばっちりを受けたスプリングはアストレイアを睨むが、彼女は口笛を吹いて誤魔化している。にっこりと微笑んで水の塊をライオネルの口と鼻へ近づけて覆いつくした。


『ブクブクブクッ!』


 目に見えてライオネルのHPが減っていく。必死で空気を求めて喘いでいるが、アストレイアは暗い笑みを浮かべたまま容赦しない。不気味な笑い声も口から漏れている。


「フフッ…ウフフフフ……」


「アストレイアさん? 大丈夫ですか?」


「おっと失礼しました。先輩、楽しいですね! これで水を熱したらどうなるのでしょうか?」


 輝く笑みを浮かべながら、水責めという残酷な拷問を続けているアストレイアを見て、スプリングはちょっと引く。顔が少し強張っている。

 ライオネルが苦しみで暴れだし、手当たり次第に魔法を放つ。しかし、全てスプリングに防がれた。


「ちょっと! 暴れないでください!」


「ああもう! 『次元斬り』!」


 スプリングが剣を振るうとライオネルの巨体が一瞬だけズレた。防御を素通りして、あらゆる次元ごと斬り裂く斬撃。防御無効の攻撃だ。ライオネルのHPがごっそりと減る。


「なるほど! 空間系の魔法を使えばいいんですね! 『空間断層』!」


 ライオネルの巨体が空間ごとズレた。今度は二つではなく三つに。ダメージを受けたライオネルが暴れまわる。

 アストレイアは各属性による拘束と巨大な水の塊による水責め、そして、空間魔法を同時に使用している。彼女の放つ魔法は、システムアシストを受けた操作ではなく、完全マニュアル操作。アストレイアは全ての魔法を自分で操作しているのだ。常人には不可能な芸当。神業と言っていい。スプリングが身体能力に秀でているのなら、アストレイアは思考能力に秀でている。


「よしっ! このまま倒しちゃいますよ!」


「もしかして、フラグか?」


 突如、ライオネルの巨体が輝きだし、ブチブチッと魔法拘束を力で引き千切る。


「やっぱり。うそぉ~ん」


 自由になったライオネルは水の塊から顔を抜くと、ブルブルと顔を振って水滴を飛ばし、ニヤリと笑った……気がした。


『ニャォォォオオオオオオオオオオオオオオン!』


 解放されたライオネルが大声で咆哮し、地面に大きな魔法陣が描かれた。


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