第72話 お昼寝デート その3

 

 昼ご飯を終えた春真と伶愛は、再び伶愛の部屋へ戻ってきた。伶愛は幸せそうな顔をしている。


「いや~先輩の料理は美味しいですね。今すぐお婿さんに来て欲しいです」


「・・・何口走ったのかわかってるのか?」


「先輩! 結婚しましょう!」


「あ~はいはい。ゲームあっちの世界では結婚してるからな」


「むぅ! 先輩の反応が面白くないです」


 伶愛が拗ねている。そして、床を指さす。どうやら座れということらしい。春真は大人しく座った。春真の足の間に伶愛が座ってきた。そのまま春真の胸にもたれかかる。


「う~ん。今のは先輩が恥ずかしがると思ったんですけどね。どうして何も反応しなかったんですか?」


「何か・・・慣れた」


 伶愛がバッと振り向く。彼女の顔が驚きで染まっている。


「まさか・・・! これが倦怠期というものですか!」


 春真は伶愛の頭を優しく撫でる。


「倦怠期のカップルはこんなに密着して座らないからな。多分だけど。それに最近誰かさんが余裕がなくなると下ネタを言うようになってきたからな。それに比べたらまだましだ」


 自覚があるのか誰かさんが顔を赤くしながら小さく呟く。


「・・・女の子だって性欲はあるのです。先輩が私を刺激するのがいけないと思います」


 春真は悪戯っぽく笑って、振り向いている伶愛の顎の下に手を添える。所謂、顎クイだ。


「俺が何をしたって言うんだ。詳しく教えてくれ」


「こんなことですよ~~~~! ばかぁああああああああああ!」


 伶愛は顔を真っ赤にしながら春真の胸をポカポカ叩いてくる。力を込めていないので痛くはない。春真は可愛らしい反応をする伶愛を見て悶えている。彼女はそれに気づかない。

 しばらくすると伶愛が落ち着いた。可愛らしく拗ねて春真と視線を合わせない。


「先輩のばか! あほ!」


「はいはい。俺はバカでアホですよ」


「ヘタレ! 誑し! 変態! ドМ! ヘタレ!」


「うぐっ! 地味に心に突き刺さる。というか、なんでヘタレを二回言った!?」


「ご自分の胸に聞いてみたらどうです?」


「・・・ごめんなさい。俺はヘタレです」


 心当たりがありすぎの春真はあっさりと白旗をあげて降伏する。それを見た伶愛はなぜか得意げだ。

 落ち着いた伶愛がぐったりと春真にもたれかかった。


「ふぅ~。興奮して疲れました」


「あれ? 何でこうなったんだっけ?」


「先輩が私を刺激してきたからです。あんまり刺激しすぎるとシェリーさんみたいに襲いますよ」


「スレッドさんが逆ナンされた話って本当だったのか?」


「みたいですよ。出会った初日にシェリーさんが襲ったそうです。すごいですよねぇ・・・じゅるり」


 草食動物を狙う肉食獣のような瞳で、伶愛が涎を拭う動作をする。春真の顔は何も変化しない。無表情のまま伶愛の頭に手刀を落とす。


「あうっ!」


「はいはーい。ライオンの皮を被った可愛い子猫さん、大人しくしてくださいね」


「・・・先輩、そこは狼の皮を被った羊と例えるところじゃないですか?」


「伶愛は子猫だろ? よくすりすりしてくるし。今みたいに」


「ほえ?」


 伶愛は可愛らしい声を上げて春真を見つめてくる。彼女は春真の体に頬をこすりつけていたのだ。伶愛は、あっ、と何かを思い出した。


「先輩。ちょっと待っててくださいね」


 四つん這いになりながら自分の机に向かう。際どいショートパンツや艶めかしい太もも、大きいTシャツがダラーンと垂れていて服の中が見えそうだ。春真は慌てて目を背けた。伶愛は机の引き出しを何やらゴソゴソと探っている。何かを見つけると自慢げに見せつけてくる。


「じゃーん!」


「・・・ネコミミ?」


「そうです! ネコミミカチューシャです!」


 伶愛は猫耳カチューシャを頭につける。彼女にとても似合っている。伶愛は春真に猫耳姿を見せつける。


「どうです? 似合ってます?」


「あ、あぁ。可愛いよ。でも、なんでそんなの持ってるんだ?」


「夏稀ちゃんと雪ちゃんの二人とふざけて買いました。あの二人も持ってますよ。先輩がお願いしたらつけてくれると思いますよ?」


「お願いしないから!」


「でも、私たち三人のコスプレショーをするんですよね? その時にネコのコスプレを多分しますよ?」


 春真はハッと思いだした。体育祭で勝ち取った三人への命令権でコスプレしてもらおうと思っていたことを忘れていたのだ。命令権を使わないと彼女たちは何をするかわからない。簡単なコスプレをお願いして命令権を消費しようと考えていたのだった。まだ夏稀と雪には言っていない。


「忘れていましたね?」


「忘れてた。まだあの二人には言ってない」


「まぁ、まだいいんじゃないですか? 期限決めていないので」


 猫耳カチューシャをつけた伶愛が四つん這いになって、ゆっくりと春真に近づいてくる。


「先輩には一足先にネコミミをお披露目です。ゲームあっちではもうお披露目しましたけど。ほらほら~私を可愛がってもいいんですよ」


 伶愛は気づいていないが、だらりと垂れ下がったTシャツの胸元から中が全て春真に見えてしまっている。水色の大人っぽいデザインのブラに隠された胸の膨らみに視線が吸い寄せられる。春真は理性を総動員させて伶愛から視線を逸らす。しかし、伶愛は自分のネコミミ姿から目を逸らしたと勘違いしたのか、ニヤリと笑みを浮かべて揶揄ってくる。


「せんぱぁい・・・もっと私を見てくださいよぉ~。もしかして、私のことが可愛すぎて見れないんですかぁ?」


「ばか! 気づけ! 服の中が見えてるから!」


 伶愛がハッと自分の胸元に気づき、慌ててTシャツを押さえる。そして、静かに春真に問いかける。


「・・・先輩、見ましたよね?」


「・・・はい」


 春真は正直に答える。伶愛は服を押さえて顔を赤らめながら定位置に戻った。春真の足の間に座り、彼の胸を背もたれにする。腕を掴んで自分のお腹に巻き付ける。


「・・・別に怒ったりしませんよ。昨日も沢山見せましたし。それにこれは見せブラです。見られても大丈夫です!」


「・・・本当にそうか?」


 春真はずっと疑問に思っていたことを伶愛に問いかけてみる。


「その・・・結構過激なデザインだったよな? 選んだの愛華さんだろ?」


「はい。それがどうかしましたか?」


 まだ顔が赤い伶愛が可愛らしく首をかしげる。


「考えてみろ。あの愛華さんだ。絶対何か企んでる。その下着、見せブラなんかじゃなくて・・・その・・・恋人に見せても大丈夫な下着、所謂勝負下着というやつだと思うぞ。多分だけど」


 伶愛はゆっくりと春真の言葉を理解し始める。そして、顔が羞恥に染まっていく。ぷるぷると身体が震え、限界が来た伶愛は春真から離れようとする。しかし、春真ががっちりと抱きしめているため抜け出すことは出来ない。


「せ、先輩! 離してください! 離してくださいよ!」


「だ~め! 離すもんか!」


 彼女を愛でる絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。春真はぎゅうっと彼女の身体を抱きしめる。


「うわぁぁあああああ! 見ないでください! 私を見ないでください! いやぁぁああああああああ!」


 逃げ出すことができなかった伶愛は春真の体で顔を隠す。余程恥ずかしいのだろう。じっとしていられない様子でバタバタと暴れている。


「伶愛・・・可愛いな」


「むぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 春真の甘い囁きに伶愛が可愛らしく唸り声を上げる。顔をぐりぐりと押し付け、絶対に離れないという風にぎゅ~っと抱きしめてくる。

 春真は可愛らしい反応をする伶愛を愛でながら優しく抱きしめ、彼女が落ち着くまで頭を撫でるのだった。

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