第71話 お昼寝デート その2

 

 お家デートをしている春真と伶愛。二人はゲーム勝負をしていた。いろいろなゲームで対戦し、先に三勝したほうが勝ち。勝者は敗者に何でも命令することができる。

 今の成績は一対一。先ほど負けた春真が次のゲームを選択し、ルールを決めることができる。


「どれにしようかな~。伶愛が苦手なゲームってどれだ?」


「これです」


 伶愛がゲームを選択して画面を見せてくる。そこには銃と不気味な顔が映し出されている。春真は嫌な予感がする。


「伶愛さん? 詳しい内容を聞いてもいいですか? 嫌な予感がするので」


「いいですよ。シューティングゲームです! 相手はゾンビですが」


「却下!」


 春真は即座に却下する。彼はホラー系が大嫌いなのだ。ゾンビなんて見たくもない。そんなことはわかっている伶愛が別のゲームを進めてくる。


「これはどうですか? さっきとは違いただのシューティングゲームですが、対戦形式で遊べます」


「おっいいな。じゃあこれで」


 春真がゲームを選択した。携帯ゲーム機で遊べるらしい。二人は操作を始める。再び伶愛が春真の太ももを枕にした。そして、操作しながらのんびりと聞いてくる。


「せんぱ~い。ルールはどうしますか~?」


「う~ん。伶愛はしたことあるんだろ?」


「そりゃ当然です。持っているゲームの中では苦手なほうですけど」


「俺は初めてなんだよな。五回くらい練習してもいいか? 六回目に一発勝負で決着をつけよう」


「ほうほう。たった五回で操作に慣れるつもりですか。初心者でも容赦しませんよ!」


 二人は練習で対戦を始める。初めは全く操作できなかった春真は瞬く間に上達していく。一回目よりも二回目、二回目よりも三回目と、回数を重ねるたびにどんどん上手になっていく。五回目の対戦では伶愛と互角に戦えるほど上手になっていた。

 恨みと羨望で伶愛の顔が歪んでいる。


「くっ! このリアルチートめ!」


「ふはははは! 何とでも言うがいい! 次は一発勝負だぞ。覚悟はいいか?」


「始めましょう」


 二人は本番を始める。カウントダウンが減り、対戦がスタートする。スタート直後に伶愛のキャラが周囲をマシンガンで撃ちまくる。


「ヒャッハー!」


「ちょっ! うわっ! あぶねっ!」


 今までに見たことないプレイスタイルに春真は驚く。何とか回避した彼は遠くに逃げて隠れる。彼のプレイスタイルは遠距離からの狙撃だ。

 伶愛のキャラクターがライフルを放り投げて新たな武器を取り出す。次はロケットランチャーだ。再び撃ちまくる。着弾したところから大きな炎があがる。


「うわっ! 焼夷弾かよっ!」


 春真はその場から慌てて逃げ出した。しかし、逃げることに気を取られて伶愛の姿を見失ってしまった。きょろきょろとあたりを探す。


「先輩。チェックメイトです」


 ハッと春真がキャラクターを振り返らせるがもう遅い。いつの間にか背後にいた伶愛のキャラクターにゼロ距離のヘッドショットを決められる。春真のキャラクターは即死した。

 この勝負は伶愛の勝ちである。


「私の勝ちです! ふふふ。二対一。もう後がないですよ、せ~んぱい!」


「次だ次! 勝てばいいんだろ勝てば!」


「私に勝ちを譲ってくれてもいいんですよ?」


「簡単に譲るつもりはない! 次のゲームはこれだ! マリージカート!」


 春真がゲームを選んで画面を見せてくる。伶愛は頷いた。


「いいでしょう。受けて立ちます。ルールはどうしますか?」


「キャラは好きなのを選んで順位が高かった人が勝ち。先に五勝した人がこのゲームの勝者、ってことでいいか?」


「了解です」


 二人はキャラクターを選んでいく。


「俺はマリージだな」


 春真はゲームの名前にもなっているキャラクターを選ぶ。春真が決めたキャラクターを聞いて伶愛も自分のキャラクターを決めた。


「では、私はピッチピチ姫です」


「理由を聞いていいか?」


「別に理由はないですよ。ただ、先輩がマリージなので恋人の姫を選んだだけです」


「・・・これ以上深く聞かないことにする」


「・・・そうしてください」


 二人の間に何とも言えない空気が漂う。二人は少し頬を赤くしながらスタートの開始を待つ。

 カウントダウンがゼロになった瞬間、一斉にスタートする。始めてすぐに伶愛のキャラクターが遅れ始めた。どんどん春真から離されていく。何度もコースから外れて落ちたりしているようだ。圧倒的な差をつけて春真が勝利した。伶愛はぶっちぎりの最下位。

 伶愛の顔は仏頂面だ。不満げな雰囲気で春真の太ももという枕から起き上がった。


「・・・先輩」


「なんだ?」


「邪魔しないでください」


 伶愛がキッと睨みつけてくる。しかし、春真には一切心当たりがない。


「邪魔?」


「もしかして気づいてなかったんですか!? カーブのたびに先輩の体が傾いていましたよ! 何で体まで曲げるんですか!?」


「えっ!? 俺そんなことしてたのか?」


「気づいていなかったんですね。次は起き上がってやります。さっきの私とは違いますからね。本気モードです」


 伶愛の目が本気だ。画面に集中して、話しかけるな、というオーラを放っている。春真は少し気圧された。

 その後は本気になった伶愛が怒涛の走りを見せた。あらゆるショートカットや惚れ惚れするテクニックで走行する。春真も持ち前の動体視力と反射神経で伶愛の走りに喰らいつく。

 四勝と三勝で、伶愛があと一勝すればこのゲームに勝ちとなった。春真にはもう後がない。

 最終周。春真がリードしてゴール前に向かっている。すぐ後ろには伶愛がいる。ゴールが見え始めた。後は直線を走り抜けるだけ。春真が勝利を確信した瞬間、伶愛が叫ぶ。


「ここです!」


 伶愛のキャラクターがアイテムを使い急加速をする。そしてそのまま、ゴールの直前で春真のキャラクターを追い抜いた。最後の最後で逆転し、伶愛の勝利である。


「決まりました! 私の勝利です! やったぁー!」


「負けた・・・最後の最後で追い抜かれるなんて・・・」


「ふふん! 私を本気にさせるからです。これで五勝。先輩の負けです」


 先に五勝したことでこのゲームの勝者が決まった。勝者は伶愛だ。

 そして、ゲーム全体の勝ちが三体一になったため、伶愛の勝利が決まった。勝者の伶愛には敗者である春真への命令権が与えられる。


「待ちに待った命令権の獲得です! 何にしようかな~!」


 伶愛はとても嬉しそうだ。一カ月前にも命令権をかけた勝負をして二回とも負けていたのだ。彼女の顔がにやけている。


「別に今すぐ決めなくていいからな。期限はないから」


「わかっていますよ~! うふふ。笑いが止まりません」


 伶愛が顔を押さえるが緩んだ頬は戻っていない。余程嬉しいらしい。


「取り敢えず、保留です。ゆっくりと考えますね」


「了解。何でもいいからな」


 ふと、春真は時間が気になった。時間を忘れてゲームに熱中していたのだ。時計を見るともうお昼だ。二、三時間はゲームで遊んでいたらしい。時間に気づくとお腹が減ってくる。


「もうお昼だな」


「えっ! 本当ですね。気づきませんでした」


 同じように時間を忘れていた伶愛が時計を見て驚いた。まだ少し顔を緩めながら春真に問いかける。


「お昼ご飯はどうします? 私、料理できませんよ」


「今日はどうするつもりだったんだ?」


「それは・・・先輩に作ってもらおうかなぁっと。先輩の料理は美味しいですし」


 おずおずと伶愛が答えた。春真は嫌な顔を一切せず、むしろ嬉しそうに伶愛のおねだりを受け入れる。


「いいぞ。リクエストはあるか?」


「親子丼食べたいです! ちゃんと材料があることは確認してます!」


「じゃあ、親子丼にするか」


「わーい!」


 立ち上がった春真に伶愛は抱きつく。二人は手を繋いでキッチンへと向かった。


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