第70話 お昼寝デート その1
今日は朝から雨が降っている。6月後半に入ったので梅雨の季節だ。春真は傘をさして目的地に着いた。洋服などが濡れていなことを確認する。そして、インターフォンを鳴らした。家の中にピンポーンと鳴る音が聞こえる。ドアがガチャリと開いた。
「おはようございます、先輩! 今日は雨ですねぇ。先輩のせいです」
出迎えたのは伶愛。今日は二日連続でデートの日なのだ。なぜか雨が降ったのは春真のせいにされる。
「おはよう伶愛。雨は俺のせいじゃないぞ。梅雨前線のせいだ」
伶愛がニコニコしながら春真を家の中に迎え入れた。春真は靴を脱ぎ始める。
「先輩のせいですよ。昨日、お昼ご飯をあっさりと決めたじゃないですか。優柔不断の先輩がすぐに決めるのが悪いのです。私はちゃんと予想してましたからね。雨かもしれないって」
「ただ天気予報を見てただけだろ。偶然だ偶然」
「本当に偶然なんですかねぇ。まぁいいです。さっさと上がってくださいな」
促してくる伶愛を春真はじっくりと見つめる。今日の服装はちょっと大胆だ。彼女が来ているのはぶかぶかの黄緑色のTシャツ。某作品の何でも知ってるおねーさんのようだ。着崩しながら可愛らしく着こなしている。大きめのTシャツなので肩が大きく露出しており水色の紐が見えている。Tシャツの裾からは白く綺麗な艶めかしい太ももしか見えていない。ショートパンツか何かを穿いているのかもしれないし、穿いていないのかもしれない。春真からはわからない。伶愛に似合っており、そしてとても扇情的な格好だ。
春真にじっくりと見られて伶愛は嬉しそうだ。
「せんぱぁい・・・そんなに私が可愛いですかぁ?」
「・・・ちょっと過激ではありませんかね?」
「あはは。私も結構恥ずかしいですね。母が勝手に買ってきたんですよ。”お家デートはコレよ!”って言ってましたね。あっ、安心してください。ちゃんとショーパン穿いてますので」
伶愛がTシャツの裾を捲ってショートパンツを見せてくる。しかし、それもお尻の形がわかるようなピッタリとしたデザインだ。丈もほとんどない。艶めかしい太ももが、これでもか、と強調されている。
「太もも好きな先輩にご褒美です! ふふふ。膝枕の約束もしていましたからね。私が飽きるまでしてあげますよ。もちろん、お触り自由です!」
伶愛はTシャツの裾を下ろし、今度は見えている水色の肩ひもをアピールする。
「それとこれは見せブラです。存分に見てください。今日は水色です。ですが、見せブラなのに私が持っている中で一番過激なんですよねぇ」
「・・・理性大丈夫かなぁ」
「私としては今日でもいいんですけど」
「うっ・・・やるとしても最後までしないからな」
「そこら辺はお任せします。では、私のベッド・・・おっと間違えました。私の部屋へレッツゴーです!」
わざとらしく間違え、伶愛は春真の腕に抱きついて自分の部屋へ案内を開始した。
春真が伶愛の部屋に入るのは今回で二度目である。前回と変わらず、部屋全体が綺麗に可愛らしくまとめられている。そして、ほのかに伶愛のあまい香りが漂っている。二人は床に座り込んだ。
「さて、何をしましょう? いちゃいちゃします? らぶらぶします? それとも、いちゃらぶします?」
「なんだその三択は!?」
「意味通りです! 内容は変わりません!」
伶愛が胸を張ってドヤ顔をしている。どんな顔をしても可愛らしい。
「じゃあ、その三択はちょっと後にしよう。心の準備が必要だからな。まずはゲームで勝負でもするか? ほとんど他のゲームで勝負したことなかっただろ?」
「おっ、いいですね。どうせなら勝った人が負けた人に命令しましょう!」
「またやるのか。負けても知らないぞ」
「今度こそ勝ってやりますよ! いろいろなゲームで遊んで、先に三回勝った人が勝ちにしましょう!」
「たった三回でいいのか?」
思ったよりも少なくて春真は伶愛に問いかけた。
「遊ぶゲームごとにルールを決めるんです。例えば、イノモンバトルで先に五勝したほうがこのゲームでの勝者、とかです」
「いいだろう。じゃあ、負けた人が次のゲームを選んでルールも決めることができる、ということを提案する」
「わかりました。それでいきましょう。最初は何にします?」
「イノウモンスターでいいんじゃないか? 今言った、先に五勝したほうが勝ち」
「了解です」
二人は携帯ゲーム機を取り出し、イノウモンスターを始める。伶愛はゲーム機を持ったまま寝転ぶ。そして、春真の太ももを枕にしながら戦うモンスターを選んでいく。春真は全く気にしない。
「シングルバトルとダブルバトル、どっちにします?」
「シングルで。数は決めていいぞ」
「はーい。じゃあ、六匹で」
春真と伶愛はモンスターを選び、対戦していく。相手のモンスターを予想し、相手の裏をかき、白熱した戦いが行われた。途中、春真の判断力を奪うために伶愛が悪戯を仕掛けたことは割愛する。
あっという間に時間は過ぎ、とうとう決着がついた。勝ったのは春真だ。
「よっしゃー! これで五勝! 俺の勝ち!」
「くぅっ! どうして私の命中率95%の技が外れて、命中率30%の先輩の技が当たるんですか!」
「運がよかった。運も実力の内だ!」
「チートですチート! リアルラックチートですよ!」
伶愛は愚痴を言うが勝負は勝負だ。この勝負は伶愛の負けである。次のゲームを選んで、ルールを決める権限は伶愛にある。伶愛は次のゲームを選ぶ。
「次は木琴の達人で勝負です! ルールは二人同じ曲を弾いて点数が高い人が勝ち。最初は必ず先輩から。一度弾いた曲は選んだらダメです。今回も五勝したほうが勝者です」
「曲は全部俺が決めていいのか?」
「ふむ。交互に決めていきましょう。そして、難易度は相手が決めましょう。最初は先輩からどうぞ。私が難易度を決めます」
春真はじっくりと曲を選んでいく。沢山ありすぎて選択に迷う。知らない曲が多すぎる。最終的に選んだのは春真が好きなアニソンだ。
「ほうほう。世界最強の吸血鬼のアニメの曲ですね。先輩が好きなアニメでしたよね? 特に主人公の監視役の後輩ヒロインがお気に入りだったはず」
伶愛は慣れた手つきで難易度を最大にする。
「聞きなれた曲だからな。先に言っておくぞ。妨害は禁止だ」
「了解です」
春真は集中し、真剣な表情で曲を弾いていく。難易度最大のため、普通の人では目で追うのも難しいスピードだが、並外れた動体視力と反射神経でことごとく演奏していく。タイミングもほぼばっちりだ。ほとんど完璧な演奏で春真の番が終わる。次は伶愛の番だ。
「ふっふっふ。私はこの曲が十八番なのです」
伶愛は不敵に微笑み演奏を開始する。動体視力と反射神経は春真には到底及ばない。しかし、積み重ねた練習の成果と完璧な記憶力で演奏していく。伶愛はあっさりと最後まで完璧に演奏した。当然伶愛の勝利だ。
「まずは一勝ですね」
伶愛がドヤ顔をする。僅差で負けたので春真は悔しそうだ。
「くっ! まだ負けたわけじゃない!」
「ふふふ! 次は私が曲を選びますね。あえて先輩が好きな曲で勝負しましょう。呪われた血の一族がヒロインのアニソンです。あれ? そう言えば、これもさっきのアニメと同じ声優さんですね。後輩ヒロインですし」
「偶然だよ偶然。難易度はもちろん最大で」
春真が演奏を始める。今回も驚異的な動体視力と反射神経でほぼ完璧に演奏をし終わったが、次の伶愛がまた完璧な演奏で勝利する。再び伶愛はドヤ顔をしてくる。
「伶愛・・・まさか!」
「これも十八番です。ふふふ。先輩が好きなアニソンは全て完璧に演奏できますよ。どやぁ!」
「うわぁ・・・これは勝てるか? ・・・もう諦めて自分の好きな曲を選ぼう」
口では諦めたと言っても負けるつもりはない。春真は好きな曲を選ぶ。知らない曲よりは点数が取れるからだ。もしかしたら伶愛がミスをして勝てるかもしれない。ほんのわずかな望みに賭ける。
「これはエイプリルフールの曲ですか。また同じ声優さんですね。このアニメ、画もシナリオも綺麗ですよね。私何度も泣きました」
「これは俺も泣いたな。あぁ・・・見たくなってきた」
「今度一緒に見て一緒に泣きましょう! 難易度は最大っと」
二人は演奏を始めるが、この勝負も僅差で伶愛が勝った。伶愛のドヤ顔が止まらない。彼女をくすぐってそのドヤ顔を壊してやりたいが、春真は必死で我慢する。その代わり、後で絶対にしようと心に決めた。
「今度の曲は・・・この曲です! 死に戻りの主人公のアニメです。神曲ばかりですよね。私は銀髪のハーフエルフ推しです」
「俺は青髪の鬼メイド」
「先輩鬼がかってますね。でも、アニメの先は・・・」
「言うな! 言うんじゃない! 第二期も決まったけど考えるだけで・・・うわぁ・・・考えちゃった」
涙目で春真が伶愛に抗議する。伶愛は心の中でニヤリと笑う。春真の心を動揺させ、ストレートで勝ちを狙う作戦だ。
「ふふふ。これからメインヒロインが活躍するのです。鬼の双子の妹万能メイドは・・・あっ!」
「や、やめろ~! 本当にやめてくれぇ~! 泣く! これ以上言われたら俺は泣く!」
「まだその子、生きてるじゃないですか。
伶愛の一撃で春真は撃沈する。盛大に落ち込んで動揺している。動揺した春真は演奏に集中することができずに散々な結果となった。その結果を見てさらに落ち込んでいる。その隙に伶愛はパーフェクトで演奏を終わらせた。
その後、最後に冴えないゲーム制作サークルの曲を選んだが、動揺が抑えられなかった春真は伶愛に完敗した。これで木琴の達人はストレート勝ちで伶愛の勝利である。
勝負は一対一。二人のゲーム勝負はまだまだ続く。
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