第65話 春真と伶愛の初デート その8
試着室のカーテンが開き、伶愛の姿が現れる。恥ずかしげにもじもじとする純白の下着をつけた伶愛。水着とほぼ同じ格好なのに全く違う印象だ。彼女の姿が眩しく見える。
「うぅ・・・恥ずかしいですね」
春真は伶愛の姿を見て固まっている。じっと見られているのに気付いた伶愛が胸のあたりを手で隠そうとする。隠せば隠すほど、なぜだかより一層艶めかしく感じる。
「あんまりジロジロ見ないでください」
「あぁ・・・悪い・・・」
春真が顔を赤くして、ようやく視線を逸らした。でも、チラチラと伶愛に視線を向ける。
「そ、それで、どうですか? ご感想は」
「えっと・・・俺この後耐えられる自信がないんだけど」
「私を襲いたい、ということですか?」
「・・・まあな」
「ふふふ。そうですか。私を襲いたいですか。これはキープですね」
伶愛はあっさりとカーテンを閉めて試着室に隠れた。春真も助かった。あれ以上伶愛の姿を見ているとどうにかなりそうだった。試着室の中でごそごそと着替える音がする。
「先輩、次は黒いきますか?」
着替えながら伶愛問いかけてきた。
「おう。でも、黒とか持ってないのか?」
「あぁ~。私、意外と持っていませんね。よく考えると白も持っていませんでした。淡い色は多いんですけどね」
「そうなのか?」
ちょっと意外だ。春真は少し驚く。女の子は白とか黒とか持っているだろうと思っていたのに。
「今、意外だと思いましたね? 白はたまたまですが、黒とか濃い色は着づらいんですよね。透けちゃうので制服の中に着れませんし」
「あぁ・・・納得した」
確かに、濃い色は制服の上から透けて見えてしまう。しかし、透けるのも男心をくすぐる。
カーテンが開いて着替え終わった伶愛がジト目をしてくる。
「今、透けるのもいいな、とか思いませんでしたか?」
春真はブンブン頭を振って否定する。ジトーッと見てくる伶愛から思わず目を逸らしてしまった。やっぱり、と伶愛がため息をついた。
「別に先輩の前だけなら透けようがノーブラだろうがいいんですけどね」
「えっマジ?」
春真も思春期の男子だ。伶愛の言葉に思わず反応してしまい、伶愛をじっと見つめてしまう。そんな春真に悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「冗談です♡」
揶揄われた春真はガックリと項垂れる。伶愛はにこやかに微笑んで春真に近づくと、耳元で囁いた。
「嘘ですよ♡」
「えっ?」
顔をあげた春真はにこやかに微笑んでいる伶愛を見る。ノーブラとかを見せてもいいという言葉が嘘なのか、冗談という言葉が嘘なのか、春真はわからない。伶愛は微笑んだままだ。
「あれ? もういいの?」
志保がサイズが違ったものを置き直してきて戻ってきた。
「あっ・・・邪魔しちゃった?」
「いえいえ大丈夫ですよ。先輩が私に揶揄われるて固まるのはいつものことですし」
「やっぱり揶揄ったんだな!」
「ふふふ。どうなんでしょうね。どっちだと思います?」
「・・・知らん!」
「先輩が拗ねちゃいました。拗ねた先輩も可愛いですね」
「・・・うるさい」
「ふふふ。何度も言いますが、私はするよりもされるほうが好みですからね」
「はいはい。俺が見たくなったら剥ぎ取ってやる」
「お待ちしてますね」
そんなことするつもりはない春真とそれをわかっている伶愛。二人のいつも通りのやり取りだ。まぁ、伶愛は少しだけされたい気持ちもあるが、それは春真には黙っておく。
唐突に二人だけの空間を作り出す春真と伶愛を志保は慣れた様子で見守っている。
「あっ志保さんごめんなさい」
「大丈夫だよ。いつものことだから。それで、次はどうする?」
「黒だそうです」
「おっ! 王道だね。男の子は白と黒が好きみたいだし。なんでだろうね?」
「なんででしょう?」
志保と伶愛が春真に視線を向ける。二人に見つめられた春真は頭を下げてお願いする。
「ノーコメントでお願いします」
「うふふ。了解。それじゃ、次のところに案内するね。と言ってもすぐそこだけど」
志保が指さした先にいくつか黒の下着が並んでいる。三人が近づいていく。春真には三つの下着が気になった。一つ目はシンプルな下着。二つ目はブラの端っこにピンク色の蝶の模様が描かれ、ショーツにピンクのリボンがついている下着。三つ目は少しレースで飾られた下着。想像したらどれも伶愛に似合いそうだ。
「ふむ。この三つですか」
「・・・伶愛ちゃん。よくわかったね」
春真が何も言っていないのに、気になった下着がもうすでに伶愛の手の中にある。
「先輩わかりやすいですからね。ふむふむ。どれも可愛いですね」
「伶愛はどれがいいとかあるか?」
「そうですね。私が持っているのはシンプルなのが多いので、これは止めたほうがいいかもしれないです」
そう言ってシンプルな黒の下着を戻す。志保は伶愛の言葉が意外だったようだ。
「そうなの? 春真君を誘惑するために、可愛らしいのとか過激なのを持ってると思ってたけど」
「母からも勧められていたんですけど、学校で着ることが多いのでシンプルなものになるんですよね。先輩とは
「なるほどねぇ」
伶愛と志保は会話をしながら試着室のほうへ歩いていく。春真は置いてけぼりにされて、二人の後を黙ってついていった。試着室に着いた伶愛は早速中に閉じこもる。
「じゃあ試着してみますね」
「はーい。サイズが合わなかったら言ってね。メーカーによって微妙に違うから」
「わかりました」
伶愛と志保が離しているとあっという間に時間が過ぎる。その間春真は黙って突っ立っていた。
伶愛がすぐに着替えてカーテンを開ける。
「じゃーん! 先輩どうですか?」
伶愛が着ていたのは、蝶の模様が描かれている下着。伶愛の白い肌で黒い下着が強調され、とても艶めかしい。大人っぽい妖艶さを醸し出している。
「・・・似合ってるよ」
「そうですか。自分でも新鮮です。黒もいいですね」
自分の身体を眺めながら伶愛が着た感想を述べた。さっさとカーテンを閉めて次の下着に着替え始める。
「えっ? これだけ?」
余りの早さに志保が呆然とする。
「ここへ来てわかったんですけど、あの・・・お互い死ぬほど恥ずかしいんです。これ以上時間が経ったらお互い何をするかわからないので」
「なるほど」
春真の真っ赤な顔を見て納得する。普段からイチャイチャしている二人だが、実際には二人とも初心で恥ずかしがり屋だ。
着替え終わった伶愛がカーテンを開ける。レースで飾られた大人っぽいデザインの下着を身に付けている。
「どうでしょうか?」
春真は一瞬伶愛の姿を見ると即座に視線を逸らす。
「決定ですね」
伶愛が即座にカーテンを閉めて試着室に戻る。カーテンを開けてから五秒程しか経っていない。
「えぇ! 二人とも・・・私には理解できないよ」
「あはは。先輩はわかりやすいですからね」
試着室の中から伶愛の声が聞こえてくる。
「春真君にもっと見てもらわなくてよかったの?」
「見て欲しいは欲しいですけど、二人きりの時にじっくりと見られたいですね。全身見てもらえますし。それに、お店だと恥ずかしすぎます」
「ごめん。私、邪魔だよね」
「いえいえ。志保さんはこのままいてください。ぶっちゃけると、これ以上見せると理性が崩壊しそうなので。何かあったら止めてください」
「春真君を?」
志保が春真の顔を覗き込んでくる。大学生くらいの見た目の志保から見られるととても気まずい。
「確かに俺が特に危ないですけど、伶愛の理性も危なそうですよ。必死で我慢して表には出していませんが」
「えぇ!」
志保が驚く。志保の目には普段通りの伶愛に見える。
「あはは。先輩にはバレてましたか。所構わず、かまってちゃんになりそうですね」
「伶愛はいつもだろ」
試着室のカーテンが開いて伶愛が出てくる。
「いつもですけど、より一層かまってちゃんになりそうです。明日はちょっと抑えられそうにないので、先輩、よろしくお願いします」
「了解」
試着室から出てきた伶愛が春真の腕を掴む。春真の顔を覗き込んで可愛らしくウィンクする。
「さて、選ぶのはあと一セットですね。最後は何色がいいですか?」
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