第62話 春真と伶愛の初デート その5
色とりどりの細い布が並んでいる。周りの客も女性ばかりだ。ここは女性の水着コーナー。
春真はものずごく居心地が悪い。
「ここが女性の水着コーナー。って見たらわかるか。奥にはちょっと過激な水着もあるからね。隣は男性ものだから春真君の水着を選ぶのもいいかも」
志保が場所の説明をする。
「サイズとか在庫とか、何かあったら言ってね。春真君、伶愛ちゃん、頑張ってね」
そう言い残し、志保は離れていった。残された二人は顔を見合わせ覚悟を決める。
「さて先輩。着せ替え人形パート2ですよ」
「周りの女性の視線が痛いが気にしない。もう純粋に伶愛の水着姿を楽しむことにするよ」
陳列されたカラフルな布を眺めていく。ビキニだったりワンピースだったり様々な種類がある。春真は軽く見渡し、一つの水着を手に取る。
「最初は白のシンプルなビキニですか。なるほど」
「まあ、ちょっと着てみて」
二人は早速試着室に向かう。向かう途中、気になった水着を見つけては立ち止まり、寄り道を何度もしながら試着室へたどり着いた。伶愛が靴を脱いで試着室へ入る。そして、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「先輩も一緒に入ります?」
「入らん! さっさと着ろ!」
「そんなに私の水着姿が楽しみですか」
「はいはいそうだから、さっさとカーテン閉めろ」
投げやりに答え、春真はカーテンを閉めた。伶愛がちゃんと閉まっているか確認してから着替え始める音がする。試着室の前に取り残された春真はとても気まずい。布が床に落ちる音がする。
「先輩・・・少しお話があります」
カーテンの向こうで伶愛が着替えながら話しかけてきた。
「なんだ?」
「夏休みの旅行で、海で泳ぐって言ってましたよね。海は止めていいですか?」
伶愛と春真は夏休みにお泊まり旅行に行くことになっている。その際、春真が伶愛の水着姿を見たいということで海で泳ぐことになったのだ。今日はそのための水着を選びに来ている。
「別にいいけど。理由は?」
「単純に塩でベタベタ、砂でドロドロになりたくないです。日焼けしますし」
「あぁ~それは考えていなかった」
「というわけで、ホテルの近くに大きな屋内プールがあるそうなので、そこへ行きましょう!」
「プールあるのか。んじゃ、そうするか。ゲームの世界にも海はあるし」
春真は頭の中の旅行の計画を変更する。海よりもプールのほうが安全だ。流される心配もない。屋内ということなので天気の心配もない。海よりもプールのほうがいいだろう。それに『Wisdom Online』の中にも海は存在する。塩や砂、日焼けや溺れる心配もない。
「先輩先輩! 今私、下着姿ですよ!」
「説明しなくていいから!」
「先輩が気まずそうですから、私がわざわざ話しかけてるんですよ! 感謝してほしいです」
「それは・・・助かる」
「それで下着はどんな色だと思いますか?」
「知らん!」
「直接見たいということですね! あっ今、全部脱いじゃいましたので私の下着姿は見れませんね・・・・・・・・カーテン開けます?」
「開けません!」
「と言いつつも?」
「開けません!」
「では私が開けます。バーンッ!」
カーテンが勢いよく開いた。明らかに水着を着る時間はなかった。春真は目を背けるが、伶愛のクスクス笑いを聞いて恐る恐る彼女を見る。そこには少し恥ずかしそうに体をもじもじとさせている伶愛の姿があった。もちろん、水着を着ている。程よく肉がつき、しかし余分なところがないバランスが取れた体つき。肌は白くきめ細かい。男の視線を引き付ける美少女が上半身はビキニでスカートを履いたまま立っている。
「実はだいぶん前に着替え終わってました。結構恥ずかしいですね」
「伶愛・・・綺麗だ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
伶愛は顔が赤く染まっている。視線も彷徨わせ、春真のほうを見れない。
「あれ? でも下は?」
「何言っているんですか。下まで着たらダメなんですよ。商品ですから」
春真は、それもそうか、と納得する。
「完全な水着姿は旅行の時にお預けです」
悪戯っぽく微笑む伶愛を春真は観察する。
「ん~似合ってるは似合ってるけど・・・」
「あれ? お気に召しません?」
「伶愛の肌が白いからちょっと物足りないかな。シンプルすぎる。フリルみたいなのがついてたら違ったかもしれないけど」
「なるほど。これが純白の下着だったらどうですか?」
「なぜそこで下着の発想になる!?」
「いいから答えてください!」
「えぇ・・・下着だったらもうちょっとデザインが入ってるだろ。それならいいと思うぞ」
真っ白な下着姿の伶愛を想像して律義に答える春真。伶愛はその言葉を聞いて悩み始める。
「ふむ・・・純白の下着もありですね。後で選んでくださいね。あっ、黒の扇情的な下着はどうですか? 清楚な白と艶美な黒。どっちも男性には人気ですよね」
「後で選ぶから今は水着に集中してくれ」
「はーい」
元気よく少し嬉しそうな返事をして伶愛が着替えるためにカーテンを閉める。すぐにカーテンから顔だけを出した。
「そういえば先輩。私の下着姿想像しましたね? それに私の体を舐めまわすようにじっくりねっとりと見てましたよ」
「うっ・・・」
「先輩のえっち」
可愛らしくウィンクをして、スッと顔がカーテンの奥に引っ込んだ。相変わらず春真を揶揄う時の伶愛は生き生きとしてとても可愛らしい。春真はそんな彼女に何度見惚れたことか。
しかし、春真は揶揄われたらやり返す主義だ。えっちな春真は伶愛にある事実を告げる。
「伶愛は服を畳んでたみたいだが、下着を一番上に置くな。バッチリ見えたぞ。次からはしっかりと隠せ」
先ほど、上半身水着姿で立っていた伶愛の背後に畳まれた衣服が置いてあった。その一番上にあった薄いピンク色の可愛らしいデザインのブラ。お年頃の春真はしっかりと記憶に刻み付けた。
一瞬試着室の中が沈黙し、伶愛が奇声を上げた。
「にゃぁぁぁあああああああああああ!」
そして、試着室でドタバタと慌てる音が春真の耳に聞こえた。
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