第61話 春真と伶愛の初デート その4
昼食を終えた春真と伶愛は移動して目的地の服屋の前まで来ていた。目の前には大きな商業ビルが建っている。
「大きいところだな」
「ですねぇ」
予想以上に大きかった商業ビルに二人は思わず立ち尽くす。様々な広告やディスプレイがわかりやすいように展示してある。老若男女問わず多くの人が出入りしている。その一階部分が全て目的の服屋である。
「さあ! 私に似合う水着と下着を選んでくださいね! レッツゴーです!」
つないだ手を引っ張り、伶愛は突撃していく。春真は引っ張られながら楽しそうに歩いていく。
店の中に入ると、多くの人が洋服を見ている。着飾ったマネキン人形が立ち並び、なぜかフラっと立ち寄りたくなる商品配置だ。店内には穏やかな音楽が流れ、装飾も温かく心地よい雰囲気を醸し出している。長時間滞在していたくなる。
二人がきょろきょろしていると、一人の店員が近寄ってきた。二十代くらいの若い女性店員だ。
「いらっしゃいませ。何かお困りですか?」
女性店員が何か意味ありげに伶愛を見る。伶愛もその視線に気づいたのか、意味ありげな視線を返す。
「はい。超絶お困りです!」
女性店員はフッと視線を緩める。急に接客モードの雰囲気を変え、親しげな雰囲気を感じる。
「ふふふ。いらっしゃい。初めまして。
志保が可愛らしく二人に挨拶をする。
「初めまして。東山伶愛です」
「えーっと、藤村春真です。初めまして?」
にこやかに元気よく挨拶をする伶愛と、困惑して疑問形になる春真。店員に親しげに自己紹介をされるとは思っていなかったようだ。少し警戒するが、何となく彼女に既視感がある。
「伶愛ちゃんと春真君ね。まずはどこから見る?」
「先輩どうします? 水着から? それとも下着?」
「まず、普通の洋服から見てもいいか? いろいろ見てみたい」
「了解です」
「わかった。それじゃ案内するね」
志保に案内されながら二人はついていく。親しげな店員を見ながら春真は伶愛に囁く。
「なぁ? あの店員さん、やけに親しくないか?」
「ですね。私のお友達です」
「友達って。さっき初めましてって言ってただろ」
「まぁまぁ。気にしないでください。それよりも私は今から先輩の着せ替え人形です。存分に遊んでくださいね」
「着せ替え人形って」
「全部脱がせますか?」
「しません!」
「先輩が着替えさせてくれます?」
「しません!」
「では、明日、家で」
「し、しないから!」
そんなやり取りをしていると、前を歩いていた志保から笑い声が漏れる。
「ふふふ。二人とも仲がいいね」
春真は恥ずかしさで顔をそむける。気づいたら周りは若い女性ものの洋服でいっぱいだ。
「このあたりが女性ものだよ。私は少し離れたところにいるから、何かあったら遠慮なく呼んでね。試着室はあっちに並んでいるから。じゃあごゆっくり~!」
試着室の場所を指さして教えた志保は二人に微笑んで離れていく。
「なぁ? あの人なんか見たことある気がするんだが?」
「そんなことよりも服を選んでください。さあさあ!」
伶愛に促されるまま、春真は彼女の服を選んでいった。
▼▼▼
「くっ! 洋服を選ぶのがここまで過酷だとは思わなかった・・・」
試着室から出てきて、疲労感を漂わせながら疲れきり、悔しさにまみれた人物が弱々しく呟いた。
「ん? どうした?」
ニコニコで元気いっぱいな人物が、レディース服を手に持って問いかける。
「アニメや小説では女子の買い物についてきた男子は疲れ果てるのが常識ですよね!? どうして先輩は元気いっぱいになって、私が疲れ果てるんですかっ!? 普通逆ですよ!」
理不尽な、と息を荒げて、心底不思議そうな顔をしている春真に詰め寄る。
「一体何着試着したと思ってるんですか!?」
「ちょうど五十着だけど」
「数を聞いているのではありません! どうしてそんなに元気なんですかぁ!」
伶愛は叫び疲れて肩で息をしている。
「そう言われても、夏稀と雪によく付き合わされているから。一日中ずっとなんてよくあるし。最初の頃は疲れたけど、今では物凄く楽しいぞ」
「夏稀ちゃん・・・雪ちゃん・・・先輩のこと調教しすぎだよ。先輩のほうから積極的に選んでくれるとか、これはこれで超嬉しいじゃん」
ブツブツ呟く伶愛の言葉は春真には届かない。
「いや~流石伶愛だな。実に選び甲斐がある」
文字通り着せ替え人形で遊んだ冬真は気に入った服を買い物かごに入れている。
「あの、先輩それは・・・」
「俺が気に入った服。五着くらいかな」
「えぇっ!?」
「大丈夫。俺が払うから。伶愛はあまり服を持ってないだろ」
実は伶愛はあまり洋服を持っていない。最低限の服を着回し、浮いたお小遣いをラノベや漫画に費やすオタク少女なのだ。
「それはそうですけど。私が払います!」
「気にするな。今日はデートだし・・・その、今度は俺が誘うからその時にでも着てくれ」
後半の言葉を恥ずかしそうに告げた。春真は顔を赤くし視線を逸らす。伶愛も爆発的に顔を赤らめ、もじもじしながら一言言った。
「・・・はい」
お互いにチラチラと視線を合わせながら甘い空気を漂わせていると、志保が近づいてきた。
「伶愛ちゃん、春真君。相変わらず仲がいいね」
「志保さ~ん! 先輩が・・・先輩がかっこよすぎて死んじゃいそうです!」
伶愛が志保に抱きついていく。
「よしよし。いつものことだからね。水着とかはこれからでしょ。それに夏休みにお泊りに行くんだから。春真君をたっぷりと誘惑しなきゃ」
志保が子供をあやすように優しく頭を撫でている。
春真はやはり志保に見覚えがあってモヤモヤする。
「あの~。吉田さんは俺とどこかで会ったことありますか?」
「あら? こんなに可愛い彼女さんがいるのにナンパかな?」
「先輩!」
「違うから! 伶愛も睨むな!」
二人は慌てて否定する春真を見て悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「冗談だよ。
志保は意味ありげな口調で答えてくる。しかし、春真は志保が何を言いたいのかわからない。伶愛もニヤニヤしたまま教えるつもりはなさそうだ。
「さて、そろそろデートのメインだよ。水着と下着、どちらから行く?」
「水着で」
春真はできるだけ刺激な少ないほうを選択する。伶愛が逃げられないように腕を掴んでくる。
「さあレッツゴーです! 先輩はどんな水着を選んでくれるんでしょうか!」
「それは見てみないとわからないな。デザインが可愛くても伶愛に似合ってないと意味ないからな」
「くっ! 何気ない言葉でも、嬉しい!って思ってしまうチョロい自分が憎いです・・・。あっ先輩! 大胆な水着を選んでもいいですよ。二人だけの時に着てあげます」
「それは・・・考えておく」
「はいはいお二人さん! 全部聞こえてるよ。じゃあ案内するね」
志保は気にせず、いつものようにイチャイチャしている二人を水着コーナーへ案内し始める。二人は顔を赤らめて素直に志保の後をついていった。
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