第45話 廃れた聖堂 その13

 

 アストレイアとスプリングの二人は『始まりの街ファースト』に戻ってきていた。大聖堂の修道女シスターにクエスト完了の報告をするためである。


「戻ってきました大聖堂!」


「今回はどうする?」


「腕に抱きつくだけにしておきましょう」


 嬉しくてニヤニヤが止まらないアストレイアがスプリングの腕に抱きつく。そして、手をつなぎ指を絡ませる。二人の左手の薬指にはシンプルな銀色の指輪がはめられている。


「さあ、行きましょう」


 二人は慣れることのない豪華絢爛な大聖堂の中へ足を踏み入れる。二人が大聖堂に入ると、クエストの依頼主の修道女シスターが近づいてくる。露出度の高い修道服を着こなした豊満な体つきの修道女シスターだ。彼女はアストレイアが抱きついていないほうのスプリングの腕に抱きつく。スプリングの腕が柔らかな感触で包まれる。


「おかえりなさい♡ クエストは終わった?」


 修道女シスターがスプリングに話しかける。アストレイアは修道女シスターを睨みつける。


「あ! ちょっと! 先輩から離れてくださいこの痴女!」


「さあダーリン一緒に来て! 私と気持ちいいことしよ♡」


 修道女シスターはアストレイアを無視する。


「無視するな! 人の旦那から離れなさい!」


「うるさいなぁ。それに旦那ってどういうこと?」


「ふふん! 私と先輩は結婚したんです!」


 アストレイアが左手の薬指にはめられた指輪を見せつける。


「じゃあダーリン。離婚届を提出しに行こっか♡」


 修道女シスターはスプリングの腕を引っ張りどこかへ連れて行こうとする。アストレイアはスプリングの腕を逆方向に引っ張る。


「先輩をどこに連れて行く気ですか!?」


「離婚宣言所」


「先輩は渡しません!」


「あなたみたいな万年発情娘にやるもんですか!」


「痴女に言われたくないです!」


 スプリングの前でアストレイアと修道女シスターが睨み合う。


「あの~修道女シスターさん。先にクエストの報酬をください」


「わかった♡ じゃあ一緒に来て」


「だからどこに連れて行く気ですか!」


「ベッド♡」


「残念ながらここではできませんよー。本当に残念でした」


 アストレイアは修道女シスターを煽るように言い返す。それに対し、修道女シスターはアストレイアを目で馬鹿にする。


「あれれ~? お子様な勇者様は知らないのかな~。許可を与えれば私の体を触ることができるんだよ~。誰かさんとは違って、豊満で柔らかい私の体を。それにあなたたちプレイヤーと私たちNPCはキスすることで子供も作れるんですよ~」


「なんですって!?」


 初めて聞く内容にアストレイアは愕然とする。


「だからたっぷりと私と子作りしよ? ダーリン♡」


 修道女シスターはスプリングに甘えてくる。


修道女シスターさん。そんなことよりも龍神の神殿について教えてください」


 スプリングは冷静に修道女シスターに申し出る。


「あれ? 気づかなかったの?」


 修道女シスターはキョトンとしている。


「クエストで綺麗にしてもらった場所が龍神様の神殿だよ。恋愛を司る龍神様の聖堂。地下にある礼拝堂チャペルが龍神様の神殿。最近龍神様が力を取り戻したから、もう新しくなってると思うよ」


「えぇ!」


 スプリングは驚く。まさか、アンデッドが溢れるあの聖堂が龍神の神殿だとは思わなかった。修道女シスターの言う通りだと、今は新築のように綺麗になっていることだろう。


「というわけで、もう一つの報酬をあげるね♡」


「聞き終わったんで帰りますよ先輩!」


 アストレイアはスプリングを引きずり、大聖堂の出口へと向かう。


「魔王様! その暴力女に暴力振るわれたらすぐに私のところに来てね! 私が心も体も癒してあげるから!」


 修道女シスターがスプリングに向けて投げキッスをする。修道女シスターの言葉を聞いたアストレイアのこめかみに青筋が浮かび、スプリングの腕を離して修道女シスターに詰め寄る。


「誰が暴力女ですって?」


「あなただよ。胸が小さい勇者様!」


「あなたはおっぱいしか取り柄のない牛じゃないですか! この乳牛!」


 修道女シスターのこめかみに青筋が浮かび、アストレイアに詰め寄る。


「はぁ? 誰が乳牛だって?」


 修道女シスターとアストレイアが睨み合う。


「乳牛が嫌なら雌ブタですね。その大きく太った体にはちょうどいい言葉です。それとも発情した雌オークですかね」


「はぁ? 誰がブタだって? オークだって? あなたみたいな貧相な体にはわからないだろうね。私にはあなたにはできない男性の喜ばせ方ができるんだよ。それにあなたもしかして胸にパッド入れてる?」


「そんなもの入れてません!」


「あらごめんね。何もしなくてもその小ささなのね。大きくてごめんね?」


 大きな胸を強調させてアストレイアに謝る。言葉では謝っても、修道女シスターはアストレイアを煽ってくる。

 アストレイアからブチッと何かが切れる音がした。アストレイアは優しく微笑む。しかし、目は全く笑っていない。冷たい怒りに燃えている。


「ねぇ、知ってますか? おっぱいが大きいと将来垂れ下がるんですって。・・・可愛そうに」


 修道女シスターからブチッと何かが切れる音がした。修道女シスターも優しく微笑む。しかし、目はわかっていない。冷たい怒りに燃えている。


「あなたの愛って重いよねぇ。魔王様疲れないかな? ヤンデレ女」


「あなたは誰彼構わず誘惑してるじゃないですか。簡単に浮気しそうですよね。 尻軽女」


 二人は顔を突き合わせガンを飛ばす。


「あなた昔この大聖堂を爆破したんだって? 気が短い女」


「また消し飛ばしてあげましょうか? ちっとも学習しないおバカさん」


 二人はお互いの胸倉を掴み上げる。


「「あ゛あ゛ん?」」


「もしかして、その破れてる服がファッションだなんて思ってます? 頭大丈夫ですか? あぁ! 頭の中からっぽで、体だけが取り柄でしたね」


「私に似合っているでしょ? あなたも着てみる? あぁごめんなさい。まな板には似合わない洋服だった」


「知ってます? 先輩はおっぱいが大きい人は嫌いみたいですよ。私のおっぱいしか興味ないそうです」


「すぐ飽きるでしょ。今は私の彼をあなたに貸してあげる」


「先輩は私のです。このビッチ!」


「私処女ですよー。そんなこともわからないの? この雌猿!」


「「あ゛あ゛ん?」」


 二人は睨み合って、周囲の目を憚らずしばらく言い合っていた。

      






















































「あの~? 俺帰っていい?」


「「ダメ!」」


「はい・・・」

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