第44話 廃れた聖堂 その12

 

『Congratulations!』


 新婦ブライドマミーと新郎グルームリッチが消えた後、アストレイアとスプリングにアナウンスが流れ、リザルト画面が表示される。二人はしばらく呆然と立ち尽くしていた。


「二人とも逝っちゃいましたね」


「だな」


「向こうでも幸せに過ごせるといいですね」


「そうだな」


 アストレイアとスプリングの二人は自然と手をつないで指を絡ませ合う。そして、またしばらく天井のほうを見て無言で立ち尽くしていた。



 ▼▼▼



 立ち尽くしていた二人だが、時間がたち気持ちを整理するとリザルト画面を確認し始めた。


「おぉ! 格上のボスやモンスターを倒したので経験値がすごいことになっています」


「そうだな。スキルは全然上がっていないけど」


 二人はステータスを確認してよろこぶ。そして、次はアイテムを確認する。


「『腐った肉』に『ゾンビの目玉』がたくさん。うへぇ~。気持ち悪い」


「敵はアンデッドでしたからね。武器とかボロボロで呪われていますよ。後で浄化しますね。腐った肉とか目玉とかどうしますか?」


「錬金術には使えるらしいから、今度アマルガムさんに売っておくよ」


「了解です」


 二人は黙々とアイテムの確認を行う。


「おっ! 『呪いの指輪』だって」


「私にもありますね。説明にも『呪われた指輪』しか書いていません。付けたら取れなくなりそうです。先輩付けますか?」


「つけねぇーよ!」


 アストレイアは呪いの指輪を具現化させる。黒く禍々しい指輪だ。


「先輩先輩! 先輩のも出してください! 私が浄化します。何か効果があるかもしれませんよ」


「そうだな。確認しておくか」


 スプリングも呪いの指輪を具現化させる。アストレイアと同じように黒く禍々しい指輪だ。


「ではでは、『解呪』もうひとつ『解呪』!」


 アストレイアが魔法を発動させ、指輪にかけられた呪いを解く。呪いを解かれた指輪は銀色に輝くシンプルなデザインの指輪だ。


「何か変わったかな? ん? アイテム名が『指輪』だけだって。説明も『ただのシンプルな指輪』だけ。あっ、でもこれ女性用だ」


「私のは男性用ですね」


「レイア付けるか? 効果ないけど」


「そうですねぇ。・・・あっ! 付けるならいいアイデアがあります!」


 アストレイアはスプリングを引っ張ると聖壇の前に連れて行き、向かい合わせに立つ。


「おい。もしかしてさっきのをやるつもりか!」


 カンのいいスプリングはアストレイアがしたいことを一瞬で悟る。


「いいじゃないですか。練習ですよ練習」


 アストレイアはニヤニヤしている。そんな彼女を見てスプリングはため息をついた。彼は諦めて彼女のしたいようにさせる。

 アストレイアは少し恥ずかしそうに咳払いをする。


「えーコホン! さっきとはちょっと言葉を変えますね」


「というかよく言葉を知っていたな」


「結婚式は女の子の憧れですから調べました。ではいきますよ」


 アストレイアは一瞬目を閉じ、スプリングを見つめながら言葉を始める。


「新郎スプリング、あなたはここにいる超絶可愛いアストレイアを、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、悲しいときも、うれしいときも、つらいときも、楽しいときも、妻として敬い、慈しみ、あなたは私に付き添って、永遠に私を超可愛がって、とことん甘やかして、私だけを愛して愛して愛し抜くことを誓いますか?」


「はい、誓います」


 スプリングは照れ臭そうに誓った。


「次は先輩の番です」


「えっ? 俺が言うの?」


 アストレイアはぶんぶん首を縦に振っている。スプリングは覚悟を決めて話し始める。


「えっと、新婦アストレイア、あなたは俺、スプリングを病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、悲しいときも、うれしいときも、つらいときも、楽しいときも、夫として愛し、敬い、慈しみ・・・」


 そこでスプリングは言葉を途切れさせる。そして、恥ずかしそうに続ける。


「あなたは他の男なんて見向きもせず、俺だけを見て、超可愛がられ、とことん甘やかされて、愛され愛され愛され抜き、永遠に俺の傍にいてくれることを誓いますか?」


「はい、誓います」


 照れくさそうなスプリングを見つめ、微笑みながらアストレイアは誓った。


「では、指輪の交換です。では先輩どうぞ! 甘い愛の囁きも忘れずに!」


「えぇー。そこまでしないといけないのか? そして、指輪は左手の薬指?」


「もちろんです! いいじゃないですか、私が喜ぶので! 指輪を他の指にはめたら怒りますから」


「わかったよ」


 スプリングはアストレイアの差し出した左手を取り、スプリングがドロップした女性用の指輪をはめる。


「レア、好きだ。愛してる。ずっと俺の傍にいてくれ」


「ひゃうっ! な、ななななななにを言ってるるるるるんですか!」


 予想以上の言葉をかけられ、顔を爆発的に赤くしてアストレイアが動揺する。スプリングはにやりと笑う。


「レア、好きだ。愛してる。ずっと俺の傍にいてくれ」


「に、二回も言わないでください!」


「レア、大好きだ!」


「あぁ~~~~~! もうやめてぇえええええ!」


 アストレイアは恥ずかしさに悶えてしゃがみ込む。


「俺は本心を言っただけだぞ」


「そんなことは知ってます! うぅ・・・恥ずかしいです。でも、うれしいです・・・」


「次はレイアの番だぞ」


 スプリングは容赦なくアストレイアに促す。アストレイアは立ち上がると、顔を真っ赤にしたまま指輪を取り出す。スプリングの左手を強引に掴む。


「先輩。私は面倒くさい女です。かまってちゃんです。それでもいいですか?」


「レア。お前がいいんだ」


「な、なんで先輩はそんなセリフが堂々と言えるんですか! もう! 私は先輩が好きです。だから永遠によろしくお願いします」


 アストレイアはスプリングの左手の薬指に指輪をはめる。


「次は、誓いのキスですね」


「これもするのか?」


「ここまで来たなら全部ですよ! さてどうぞ! いつも肝心な時にヘタレる先輩! お好きなところにキスしてください」


 アストレイアは目を瞑る。スプリングは、そんな目を瞑ったアストレイアの腰に片手を回すと優しく、だけど少し強引に抱き寄せる。アストレイアは驚いて思わず目を開ける。

 スプリングは驚いているアストレイアの唇に優しくキスをした。


「?」


 アストレイアは何が起こっているのか全く理解できていない。目を見開いたまま固まっている。

 スプリングはアストレイアの柔らかな唇の感触を味わい、数秒間キスをした後ゆっくり顔を離した。


「え? あれ?」


 アストレイアはまだ理解できていないらしい。頭が混乱し首をかしげている。スプリングはアストレイアを優しく見つめている。

 突然二人に新たな声が響いてきた。


『我、龍神キングの名において二人の誓約を聞き届けよう』


 礼拝堂チャペルに青緑色の龍が現れる。以前よりサイズは小さい。礼拝堂チャペルに入るくらいの大きさだ。驚く二人に龍神が告げる。


『スプリングとアストレイアは神聖なる夫婦の誓約を行った。故にこの二人が夫婦であることを我、龍神キングが世界に宣言する! 結婚おめでとう』


 そう言い残すと龍神の姿は掻き消えた。そして、二人にアナウンスが流れる。


『プレイヤー:スプリングとプレイヤー:アストレイアの結婚が成立しました』


『称号『龍神の祝福』が『龍神の加護』に変わりました』


『新たな称号が加わりました。詳しくはステータスをご確認ください』


 そして、ワールドアナウンスが流れる。


『初めて結婚したプレイヤーが現れました。これより、結婚システムが導入されます。詳しくはヘルプをご覧ください』


 二人は呆然としてアナウンスを聞いていたが、すぐに気を取り直す。


「もしかして本当に結婚した?」


「みたいです?」


 二人はわけがわからず首をかしげる。しかし、アストレイアはすぐに別のことに気づく。


「そんなことよりも先輩! さっき! さっき私のく、くち、唇に!」


「嫌だったか?」


「ほほ本当にしちゃったんですかぁぁあああああ! あのヘタレの先輩がぁぁぁあああああああああ!」


 後ずさりしたいところだが、アストレイアは先ほどからスプリングに手を腰に回されているため動くことができない。


「うるさい。口を閉じろ」


「ん~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 スプリングはアストレイアの唇にキスすることで彼女の口をふさぐ。腰に回している手とは反対の手を彼女の背中に回し抱きしめる。そして、さっきより唇の感触を楽しむ。アストレイアはスプリングにされるがままだ。キスに慣れていない二人は息をするために一回口を離す。


「はぁはぁ・・・いきなりすぎです。ちょっとは考えてんぅ~~~~~~~~~!」


 スプリングはアストレイアの言葉の途中でキスを始める。彼女の温かなぬくもりを全身で感じ、あまい香りを楽しむ。しっとり濡れて柔らかな唇を堪能し、ぎこちなく、でも少しずつ熱烈に彼女を求め始める。

 アストレイアも最初はされるがままだったが、両手をスプリングの首に回し抱きしめる。そして、少しずつキスを返し始める。

 一度もお互いの口を離すことなくキスを続けていく。二人はきつく抱きしめ合い、新たな刺激を求め合う。

 スプリングが恐る恐る舌をアストレイアの口に侵入させた。アストレイアは少しビクッとしたが、彼の舌を受け入れる。そして、自らの舌をゆっくりと絡め始める。二人はぎこちなく舌を絡ませ合い、少しずつ少しずつ熱烈に、激しく、大胆にお互いを感じ、愛し合っていく。舌を絡ませ合い、濡れた音を立てながら夢中でキスを続ける。体に電気が走ったかのようにしびれる快楽に身をゆだね、相手を貪る。

 二人は時間を忘れ、ただひたすら相手を求め、全身で感じ、愛を確かめ合った。

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