第38話 廃れた聖堂 その6
「・・・開かずの扉」
「せーかいです!」
二人は扉の前に立つ。すると、周囲の雰囲気が変わった。凍えるような冷気が周囲を包む。ゾワリと背筋が凍る。
ガシッ! ガシッ!
二人の足首を何者かが掴んだ。
「ギィヤアアアア!」
「ほいっ!」
一人は恐怖で無意識に、もう一人は冷静に、足首を掴んだものを蹴り飛ばす。飛んでいったのは骨と皮になった干からびた死体。ミイラだ。
それをきっかけに廊下の左右からアンデッドモンスターが湧き出てくる。今度はゾンビやレイスだけでなくミイラやスケルトンなどもいる。
キャハ・・・キャハハハハハハ・・・ヒヒヒ
「レ、レイアさん? 笑わないでください!」
「ん? 私ではないですよ」
「え、じゃあ・・・ひぃ!」
「あははは! 怖がりすぎですよ。で、先輩、今回はどうしますか? 一緒に倒します?」
「レイア一人に任せると」
「はい! 思いっきり時間かけます!」
「じ、じゃあ戦う・・・」
「では右側の敵をお願いします。私は左側を」
「お、おう」
二人は背中合わせに立ち、それぞれの敵に向かって構える。
スプリングは剣を抜き、唯一使える付与魔法を発動させる。
「聖属性付与」
剣が白く輝く。剣に聖属性が付与された。そのまま敵に向かって剣を振る。
「飛剣!」
剣をふるうと聖属性の斬撃が飛んでいく。近づいてきたアンデッドモンスターたちを斬って斬って斬り捨てる。ゾンビ、ミイラ、スケルトン、レイスなど様々なモンスターが斬られ、光を上げて消滅していく。しかし、数が多い。倒す数よりも湧き出るモンスターのほうが多い。
「くっ! 数が多い」
じりじりとモンスターたちとの距離が近づいてくる。恐怖で剣を握る手が震えてくる。
「ああもう! 『奥義 花鳥風月”白鳥の舞”』」
スプリングは自らの切り札の一つを切る。スプリングの周囲に小さな白鳥が何羽も現れ、モンスターたちに突撃していく。聖属性を帯びた白鳥の羽がモンスターを斬り裂く。
「飛剣!」
白鳥と同時に斬撃を飛ばしモンスターを斬り裂いていく。瞬く間にアンデッドモンスターが光を上げて消滅していった。
レイスが数体、壁を抜けてスプリングに向かってきたが、恐怖に震えながらも袈裟斬りにする。それを最後にモンスターが湧き出ることはなくなった。
スプリングは大きく息を吐きだし、アストレイアのほうを振り向く。
「レイア大丈夫か?」
「はい! 大丈夫ですよ」
キャハハハハハハハハキャハハハキャキャキャ
「ひぃ! またこの声が・・・」
キャハハハハハハアハハハハハハキャキャキャ
「レ、レイアァ~。ふざけるなぁ~」
「だから、私じゃないですよ」
キャハ・・・キャハハハハハハ・・・ヒヒヒ
キャハハハハハハハハキャハハハキャキャキャ
キャハハハハハハアハハハハハハキャキャキャ
「もういやぁ・・・」
「では止めましょう」
アストレイアは何やら画面を操作する。すると、笑い声があっさりと消え去る。
「あ、あれ? どういうこと?」
「私が今笑っている声ではないです。先ほど私が笑った声を録音して、それを流していました」
「な、なんで?」
スプリングは涙目でアストレイアに聞く。そんな彼に向かってアストレイアは胸を張り、ドヤ顔する。
「先輩を怖がらせるために決まっています!」
「後で覚えとけ! 絶対にやり返してやる!」
「お待ちしていますよ!」
憤怒に染まった目で睨みつけるスプリングをアストレイアはニコニコ笑顔で受け流す。
「それで? あんな雑魚に奥義を使ったんですか? クールタイム三日ですよね? 普通に斬り裂けば一撃なのに」
「俺は近づきたくないの! 奥義って言ってもあと花、風、月の三種類は使えるから」
「先輩がいいならいいんですけど。ブルブル震えながら戦う先輩は可愛かったですよ」
「可愛くない! それにレイアはいつから俺を見てたんだ?」
「最初からです。
アストレイアが担当したほうの廊下を見ると浄化されて、明るく輝いている。
「ここは所謂モンスターハウスみたいなものですね。一定数以上のモンスターを倒さない限り戦闘が終わらないエリアです」
「ということは、レイアのほうが浄化されて出てこなくなったから俺のほうにアンデッドモンスターが沢山湧いてきたと・・・」
「 That's right !」
「なぜ英語? 発音いいし」
「気分ですよ気分!」
「そういえばさっき上で、雑魚相手に高等魔法使わなくていい、とか言ってなかったか?」
「気分ですよ気分!」
明るく元気なアストレイアを見て、スプリングはより一層疲れを感じる。
「はぁ。もういいです・・・早く終わらせよう・・・帰って寝たい・・・」
「抱き枕はご所望ですか?」
「ご所望です。だから早く帰って俺の抱き枕になってくれ」
「ふふふ。いいですよ。では早速、開かずの扉を開けましょう!」
「あぁ・・・まだあったな・・・」
スプリングは開かずの扉を開ける前にモンスターたちに襲われたことを思い出す。二人は開かずの扉の前に移動する。
「私からいきますね」
アストレイアはためらうことなくドアノブを握る。
ガチャガチャ!
「ダメでした。次は先輩です!」
「お願いします神様! 開かないでください」
スプリングは神様にお願いをして、恐る恐るドアノブを握る。
ガチャガチャ!
「ふぅ、よかった」
「開きませんでしたね。では、一緒に開けてみましょう!」
「えっ!?」
アストレイアに手を掴まれ、スプリングとアストレイアは同時にドアノブを握る。
ガチャリ・・・ギ、ギギィィィ
開かずの扉があっさりと開いてしまった。
「開きました!」
「・・・もういやぁ・・」
スプリングの恐怖と疲労の混じった声が口から漏れ出た。
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