第37話 廃れた聖堂 その5

 

 聖堂の最初の部屋を浄化した二人は奥にある礼拝堂チャペルへと向かっていた。


「はい、これが最後の階段ですよー」


「ああ。で、なんで俺は目隠しをされてるんだ?」


「先輩を驚かせたいからに決まっています!」


 スプリングはアストレイアに目隠しをされた状態で階段を下りた。ここは聖堂の地下二階。聖職者たちの部屋がある階だ。礼拝堂チャペルは地下三階にあるらしい。


「はいはい。もうちょっと進んでいきますよ」


「わかった。・・・普通は目隠しをするのは逆じゃないか?」


 されるがままに目隠しをされて歩いていたスプリングは今さら疑問をぶつける。


「先輩。妹さんたちから借りた少女漫画の読みすぎじゃないですか?」


「そう・・・なのか?」


「確かに私もされるほうがドキドキしていいですけど、今日は目隠しをしたい気分なんです」


「そんなもんか」


「そんなもんです」


 二人はそんな会話をしながら歩いていく。


「さて、そろそろいいですかね」


「おっ。周りはどうなってる? すごいのか?」


「ええ。すごいですよ。では、オープンです!」


 アストレイアがスプリングの目から両手を外し、目隠しを外す。


「・・・おぉ~? ・・・・・・・・・・・ギィィイイイイイヤャャァァァアアアアアアアア!」


 スプリングは何度か瞬きをし、悲鳴を上げてアストレイアに抱きつく。

 スプリングが見たのは暗く禍々しい長い廊下。あちこちに血だまりが残っており、白骨化した骨が散乱している。左右にあるドアは開け放たれたり、蹴破られたような跡がある。そして、廊下に転がっている女の子の人形。首がゆっくりスプリングのほうを見た。


「アァ・・・」


 スプリングはアストレイアに抱きついたままガクガク震え、声がかすれて出てこない。


「アハハ・・・フフフフフフ。あ~おかしい! おなかが、おなかが、引きつって、痛いです! あはははは!」


 アストレイアは笑いすぎて震え、声が途切れ途切れだ。


「ななんなななな、なんで!?」


「地下三階の礼拝堂チャペルでボスを倒すまでがこのクエストですよ! さて、この地下二階ではすべての部屋を回らないといけないそうです。どっこに開かずの扉があっるのかな~♪」


 バタンッ!


 一番近くにあった扉をアストレイアは楽しそうに勢いよく開ける。


「ひぃ~~~~~! な、なんで扉を開けるんだ!」


「開けないとクエスト進みませんし。おお! この部屋は天井からロープがつり下がってますよ! 誰かが首を吊ったんですかね? 部屋に入れますかね?」


「入ろうとしなくていいから!」


「あぁ・・・。残念です。入れません・・・」


 部屋に入ろうとするとバリアに阻まれる。入れなくてがっかりするアストレイア。スプリングはアストレイアに引きずられている。ノリノリで怖いものに近づいていく彼女から離れたいが、離れたら置いていかれそうで彼は離れることができない。


「さて! 次へ行きましょう!」


「やめて~!」


 アストレイアはスプリングを引きずりながら次々と扉を開けていく。


「それ!」


 バタンッ!


「おぉ! 貞子みたいな幽霊がいます!」


「いぃぃやゃあああああああ! 来ないでぇぇぇえええええええ!」


「せい!」


 バタンッ! 


「たくさんの西洋人形です! 可愛らしい女の子ですね」


「どこがっ! 明らかに呪われてるだろ!」


「とりゃ!」


 バタンッ!


「なぜ人体模型が?」


「知らん! あぁ・・・今動いた! 絶対動いたよ!」


「次!」


 バタンッ!


「おお! マネキン? 着ているのはスーツ? 花婿用のタキシードですかね?」


「ほんとだ。格好いいデザインだ。でも、なぜ包丁が何本か刺さってるの! 痴話喧嘩?」


「はい次!」


 バタンッ!


「今度はウエディングドレスです! いいですね! 早く着てみたいです!」


「うん、普通のを着ような。あんな腹部が刺されたように穴が開いて血で赤く染まってるのじゃなくて」


「次行きましょう!」


 バタンッ!


「あれは鉄の処女アイアンメイデン! 親指締め機に頭蓋骨粉砕機。電気椅子までありますよ! ギロチンに拷問台!」


「なぜそんなに拷問道具に詳しい!?」


「次は何でしょうか」


 バタンッ!


「手枷足枷、猿ぐつわ、首輪、ロープ、蝋燭? 鞭までありますよ」


「うん、そこはスルーしよう」


「残り少なくなりましたね。では次です!」


 バタンッ!


「和室ですね。座敷童ちゃんです!」


「どこが座敷童だ! 目から血が出てるだろ! それにほらっ! 髪が、髪が伸びた」


「ほい!」


 バタンッ!


「おお! 日本人形が沢山!」


「あれ? さっきとネタが少し被ってないか? ひぃっ! ごめんなさいごめんなさい。被りとか言ってごめんなさい。だから一斉に俺を見ないでぇぇえええ」


「あと二部屋です。それっ!」


 バタンッ!


「あれ? 何もないですね」


「ほんとだ。でもあれはベビーベッド?」


 二人が覗き込んだ部屋はベッドが置かれているだけだった。二人は首をかしげる。


 オギャー オギャー オギャー オギャー


 どこからともなく赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。


「ひぃっ! あ、あああ赤ちゃんのここここ声が! あっちこっちから!」


 オギャー オギャー オギャー オギャー


「もう! 暗い場所で赤ちゃんの泣き声がするなんて当たり前のことです。これから先、夜泣きした赤ちゃんにいちいちビビるんですか? 先輩はパパになれるんですかね?」


 はぁ、とアストレイアはため息をつく。


「あ! それもそうか。それを聞いて全く怖くなくなった」


「あっ! ちっ! 忘れてました。先輩を怖がらせないといけないんでした。真面目にアドバイスをしてしまいましたよ」


 舌打ちをするアストレイア。


「そういえば、先輩。結構慣れました? 途中からツッコミ入れてましたよね」


「そうだぞ! 慣れた慣れた!」


「あの~。私に抱きついたまま言っても説得力ありませんよ。まぁ、いいです。私は得してますし。ではでは次が最後の扉ですね。ということは・・・」


 スプリングがゴクリと息を吞む。そして、恐怖で震える。


「・・・開かずの扉」

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