第34話 廃れた聖堂 その2
大聖堂でクエスト『廃れた聖堂』を受注した二人は一旦家に帰り、イチャイチャした。アストレイアの機嫌が悪く、スプリングは彼女をなだめるのに大変だったということは言うまでもない。
「そろそろ着きそうですね。先輩!」
肌がつやつやでとても機嫌がいいアストレイアがスプリングに向かって言う。
「・・・ああ。そうだな」
げっそりと疲れた声でスプリングは答えた。
「・・・レイアは元気そうだな」
「はい! 先輩にた~っぷりと愛してもらったので! 女の子は好きな人に甘やかされて可愛がって愛してもらうことで、男の人の元気を奪い取り、もっと元気に可愛く美しくなるのです!」
「・・・サキュバスか」
「そうとも言います! サキュバスは悪魔ですからね。悪魔な私と契約しますか?」
「・・・お前は勇者じゃなかったのか?」
「今は小悪魔な後輩です! 私の体を好きにしてもいいですよ?」
「くっ! 悪魔のささやきが・・・」
「悪魔の甘ーい囁きだけでなく、今なら私との甘いひと時もついてきますよ」
「・・・俺との専属契約ならいいぞ」
「ご契約ありがとうございます! 私は先輩と永久専属契約をしました。一生先輩から離れることができませんので、末永くよろしくお願いしますね! もちろんクーリングオフも効きません」
二人はそんないつものやり取りをしながら歩いていく。
「まぁ、それはいいんだが・・・その肩に乗ってる悪魔はなんだ?」
スプリングはアストレイアの肩に座っている小さな悪魔の人形を見ながら言った。
「よく知っているでしょう? 録画カメラ悪魔ちゃんバージョンです!」
「それは知ってるよ。いつも天使だっただろ?」
「今日の私は悪魔ですので、悪魔ちゃんにしてみました」
Wisdom Onlineでは動画を録画するとき、録画カメラがプレイヤーの肩に乗る。重さはない。録画カメラは天使と悪魔の人形だ。可愛い系とかっこいい系の天使と悪魔の人形があり、プレイヤーは種類や性別を選んで決めることができる。アストレイアは普段は可愛い系の女の子の天使にしているが、今日は可愛い女の子の悪魔らしい。
「・・・いつから録画してた?」
「最初からですよ。契約の証拠も録画したので、契約してないとか言い訳できませんよ」
「・・・言い訳とか契約破るつもりもないから安心しろ」
「了解です! これもちゃんと撮ってますからね」
アストレイアは嬉しそうだ。
「じゃあ、俺も録画しようかな」
スプリングも久しぶりに録画しようと設定を確認し始める。
「先輩は可愛い男の子天使くんにしてください」
「いいけど。なんで?」
「私が可愛い女の子悪魔ちゃんなので、正反対の可愛い男の子天使くんがいいかなと。それに女の子だったら私が少し不機嫌になります。不愉快です」
少し拗ねた声でアストレイアは言った。
「・・・可愛すぎんだろ(ボソッ)」
「先輩何か言いました?」
「ん? 別に。先輩って呼ぶ後輩が『不愉快です』って言うのは結構いいなって。あのアニメ俺好きだから」
「あぁー。確かに今の私と髪型とか似てますね」
アストレイアがスプリングに背を向けて、何やらゴソゴソし始める。
「先輩、これはどうですか?」
再びスプリングのほうを振り返ったアストレイアの顔には赤いメガネがかけてあった。
「・・・いい」
「先輩はメガネ好きの変態さんだったんですね。不愉快です」
「・・・レイアって何でも似合うな」
「でしょでしょ! たまにメガネキャラになりましょうか?」
「・・・お願いします」
「わかりました。でも今日は先輩が私に見惚れて集中できなさそうなので、これで終わりです」
ボーっとして見てくるスプリングに笑いかけながらアストレイアはメガネを仕舞う。スプリングはとても残念そうだ。
「メガネとか持ってたんだな」
「はい。カミさんから貰いました。効果もないただのメガネです。他にもいろいろありますのでお楽しみに!」
「楽しみにしとく。・・・あっ」
「どうしました?」
「さっきのメガネ姿のレイアを録画し損ねた」
とても残念がりながらスプリングは肩に可愛い男の子天使カメラを出現させる。
「またしてあげますから。早くこのクエストを終わらせましょう」
「おう」
二人はゆっくり歩きながら、目的地を目指す。
数分後、ようやく目的地の元聖堂についた。
「やっと着きましたね」
「そうか? そんな場所ないぞ。というわけでクエスト失敗の報告しに行こうか。カエルゾー」
スプリングは回れ右して、来た道を引き返そうとする。アストレイアはそんな彼の腰にしがみつき、逃がさない。
「ちょっと! 何帰ろうとしてるんですか! 目の前に聖堂があるじゃないですか!」
「朽ち果てて明らかに呪われてます的なおどろおどろしい聖堂なんて知らないぞ。俺は何も見てない!」
「ちゃんと見えてるじゃないですか!」
「だってアレ絶対アンデッドが出るヤツだよ! 俺はホラーが苦手なの! 嫌なの! 怖いのダメなの!」
「だから行くんでしょうが!」
「なんで!?」
「先輩が怖がる姿をしっかりと録画してからかうためです! ほらほら行きますよ!」
アストレイアがニコニコしながらスプリングを引きずり、聖堂へ近づいていく。
「レイアさんほんとお願い! お願いしますアストレイアさぁーん!」
「何ですか先輩?」
「なんでそんなに笑顔なんですかー! レイアさんも怖いでしょう!? 怖いですよね? だから行かなくていいじゃん!」
「いえ別に。私ホラー好きなので」
「何でもしますから。何でもするからほんとに勘弁してください!」
「・・・何でも?」
アストレイアの耳がピクリと動き、立ち止まる。引きずられていたスプリングはホッとした。
「今何でもするって言いました?」
「はい」
「そうですか♡」
アストレイアは可愛らしい笑みを浮かべてスプリングの腕を抱きかかえる。そして、繋いだ手を恋人つなぎにする。
「では、私と一緒にクエストを終わらせましょう!」
「えっ?」
「さあ先輩! レッツゴーです!」
アストレイアはスプリングを引きずってニコニコ元気よく聖堂に進んでいく。
「いぃぃぃぃぃやぁぁああああああああああああああああああ!」
スプリングの叫びが辺り一面に響き渡った。
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