第33話 廃れた聖堂 その1

 

 6月の最初の休日。アストレイアとスプリングはゲンに言われたクエストを行うため、『始まりの街ファースト』に来ていた。


「ここの大聖堂に来るのも久しぶりだな。なかなか死なないから来ることなくなった」


「そうですね。そもそも私たちは危険な場所にあまり行きませんから」


 大聖堂の前で立ち止まり、白く輝く豪華絢爛の大聖堂を眺める二人。


「いつも思うけど、大聖堂らしからぬ豪華さだよな。厳かさがない・・・」


「ゲームですし、いいんじゃないですか? それにここにはあの女たちがいますから」


 アストレイアが珍しくとても警戒している。


「あの男たちもいるし」


 スプリングもとても警戒している。


「では先輩戦闘準備です」


「あれ、恥ずかしいんだけど」


「しょうがないですよ。もししなかったら、私この大聖堂ぶち壊しますよ。塵一つ残さず消滅させます。幸い人は傷つけられないので、遠慮なく魔法をぶち込めます」


「もし何かあったら俺もぶっ壊すけど。人を気にせず建物だけ破壊できるっていいよな・・・」


 そう言って、二人は大聖堂に入る準備を始める。アストレイアがスプリングの前に立ち、スプリングはそんな彼女を後ろから抱きしめる。


「よし。早く行きましょう」


「そうだな」


 スプリングは彼女を抱きしめ、アストレイアは彼に抱きしめられながら大聖堂に入っていった。

 大聖堂の中も見た目通り、豪華絢爛である。ベルサイユ宮殿を想像すればわかりやすいだろう。

 二人は毎回圧倒され、言葉が出ない。何回も来たことはあるが慣れることはない。

 二人が入るとすぐ祭服を着たイケメンの神官と、大胆に改造した露出度の多い修道服を着た可愛い修道女シスターが歩み寄ってくる。


「ようこそ大聖堂へ。可愛いお嬢さん」


「おかえりなさいませ。ご主人様♡」


「はいそこっ! 私、男嫌いなのでそれ以上近づかないでください。そこの痴女も先輩に近づかないでください!」


 神官と修道女シスターらしからぬ行動をする二人のNPCに、アストレイアが冷たい声で告げた。アストレイアが牽制したため二人は立ち止まる。


「それは大変ですね。私が二人きりで貴女のお悩みを聞いてあげましょうか? 少しは楽になれるかもしれません」


「え~痴女ってひどい~! 彼の腕は二本あるんだから一本くらい譲ってよ、ケチ!」


「私たちは聞きたいことがあってここに来ただけです。あなた方に興味はありません!」


「そうですか。それは失礼しました」


 大人しく引き下がる神官。しかし、修道女シスターは諦めない。


「ねぇねぇ。あなた魔王様でしょ? こんな性格のきつい勇者なんて捨てて、私といいことしない? そんな貧相な体じゃなくて私の豊満なボディで楽しませてあげるから♡」


 修道女シスターは豊満な体をアピールしながらスプリングを誘惑してくる。スプリングの腕の中にいるアストレイアが小さく身じろぎした。


「すいません。俺彼女にしか興味ないので。レイアもこんなことで不安がるな」


「うぅ・・・でも・・・」


 はぁ、とスプリングはため息をつく。そして、彼女の耳にささやく。


「これが終わったら不安なんか感じさせないくらい可愛がるから覚悟しとけ」


「・・・はい」


 アストレイアが小さく答えた。彼女は耳まで真っ赤になっている。


「あらざ~んねん。気が変わったらいつでも私のところに来てね。待ってるから♡」


 修道女シスターはめげずに、スプリングに向けて投げキッスをしてきた。


「はぁ。女性を口説いてくるナンパ野郎のイケメン神官に、入ってきた男性に抱きつき言葉と体で誘惑してくる修道女シスターか。変わらないな」


「ですね。昔、私たちが一回吹き飛ばしたんですけどね、この大聖堂。なぜ学習しないのでしょうか? ここの神官クズ修道女痴女は」


「神に仕える者たちがこれでいいのだろうか?」


「神罰受けてないから許されてるのでしょう。というか神がそういう風に命じてるのかもしれません。人を呼び寄せるために。そしたら私、神をボコボコにするかもしれません」


「・・・その時は俺も協力する」


「お願いします」


 二人はそろってため息をつく。それを見て神官と修道女シスターが声をかけてくる。


「そんなにため息をつくと幸せが逃げていきますよ。それに貴女の可愛い顔が台無しです。貴女には笑顔が似合いますよ」


「そんな女じゃなくて私と幸せになろうよ~」


「くっ。うざいです」


 魔法を放とうとアストレイアが杖を構える。それを見たスプリングが必死に止める。


「レイア我慢しろ。無視するんだ。俺が話を進めるから。無視だ無視」


「うわ~お。暴力的♪ 野蛮だねぇ~」


「レイア落ち着け。暴れるな! 修道女シスターも煽らないで!」


「私は煽ってなんかないよ~。私は修道女シスターだから嘘つけないの。正直者だから困っちゃう。テヘッ♡」


 可愛らしくテヘペロをする修道女シスター


 ・・・・・・・・・・・・・・・ブチッ


 青筋を浮かべたアストレイアの堪忍袋の緒が切れた音がした。


「シ、修道女シスターさぁーん! ひ、一つ聞きたいことがあるですけどっ!」


 スプリングがアストレイアが大聖堂を壊し始める前に本題を述べようと必死になる。


「私のスリーサイズ? 裸になるから魔王様が実際に測ってみて? その時に何をしても私は許してあげるから!」


 アストレイアの体から怒りのオーラが放たれる。彼女の周囲が歪んで見える。


「誰もそんなこと聞いてない!」


「大聖堂の奥に完全防音の部屋があるからそこへ行きましょう! ちなみに私は処女だから優しくしてね♡」


 アストレイアの体から魔力が噴き出す。膨大な魔力が吹き荒れる。


「そんなことどうでもいいから! 龍神の神殿について何か知りませんかぁー!」


「龍神様の神殿? 知ってるけど、ただでは教えられませーん。魔王様が私と二人っきりでいいことしてくれたら教えて、あ・げ・る♡」


 アストレイアが小さくブツブツと呟き始めた。呪文の詠唱だ。スプリングは彼女の口を手でふさぐ。


修道女シスターさぁーん! いい加減ふざけるのやめてください! これ以上は本当に危ないですから!」


「勇者様は心が狭いねぇ~。まぁいいや。このクエストを受けてくれる? 私からの、お・ね・が・い♡」


修道女シスターからクエスト『廃れた聖堂』を依頼されました』


「これクエストの内容は?」


「この大聖堂は昔、別の場所にあったらしいの。昔あった場所は教会が管理しているんだけど、人手が足りなくてね。草が覆い茂ったりモンスターが住み着いたりするの。二人にはそこを綺麗にしてもらおうかな」


「わかりました。そのクエスト受けます。レイアもいいよな?」


 スプリングはアストレイアに話しかけるが、彼女からの反応はない。そういえば、彼女の口を手で覆っていた。手を彼女の口から外すと、彼女が何か呟いた。呪文の詠唱の続きだ。スプリングは慌てて彼女の口を覆う。


「彼女もいいみたいなので受けますね」


「ありがとー! 期限は今月中ね。終わったら魔王様一人きりで私に会いに来て。報酬を渡すから」


「報酬は龍神の神殿について知ってることを教えてくれるんですよね? 俺一人じゃなくてもいいと思うけど」


「それも報酬の一つだけど、私の体も報酬だから。ベッドの中で教えてあげる♡」


「そんな報酬いりませんから! 話だけでいいです! じゃあクエスト行ってきますね!」


 スプリングはアストレイアを抱き上げ大聖堂から逃げ出す。途中から空気になっていた神官や、可愛らしく、いってらっしゃーい、と手を振っている修道女シスターを無視して走る。


「・・・先輩」


 アストレイアが小さく暗い声を出す。スプリングは彼女の言いたいことがわかっている。


「クエストに行く前に一旦俺たちの家に帰るか」


「・・・はい・・・覚悟・・・して・・・ください・・・」


「・・・了解」


 アストレイアとスプリングの二人はクエストに向かう前に、一旦家に帰った。

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