第32話 再会

 

「今日から6月だな。何するかな?」


 スプリングはソファに座り、太ももを枕にして寝ているアストレイアに言った。


「そうですね」


 アストレイアが見上げてくる。


「えっと、今月のクエストを調べてみますね。・・・ふむふむ。6月クエスト『プレイヤーの合唱』。梅雨の時期、カエルが合唱するようにプレイヤーの皆さんも歌いましょう。参加人数は1人~6人。予選が行われて、本選はトーナメント方式。替え歌やパフォーマンスも大歓迎。予選は毎週日曜日に開催されるそうです。最後の日曜日が本選ですね」


「のど自慢かっ!? 俺絶対出ない」


 アストレイアがニヤニヤしてくる。


「あれれ~? 先輩音痴なんですか~?」


「いや。聞くのはいいけど歌うのが嫌いなだけだ。ストレス発散とか言う人いるけど、逆に俺にとって歌うことはストレスだ」


「あ~。その気持ちわかります。私、カラオケに行っても絶対歌いません」


「おぉ~! ここに理解してくれる人がいた! レイア愛してるぞ!」


 今まで理解されたことが無く、理解されてうれしいスプリングは最後の言葉を無意識に言った。本人は何を口走ったのかわかっていない。


「ちょっ! なっ! 何言ってるんですかっ! ・・・・・私も愛してますけど(ボソッ)」


 アストレイアは最後の言葉をスプリングに聞こえないようにボソボソ呟く。


「ん? 最後何か言ったか?」


「言ってません!」


 顔が赤いアストレイアは焦って叫んだ。

 突然二人にアナウンスが流れる。


『NPC:ゲンが訪問してきました。入室を許可しますか?』


「はい? ゲン?」


「ゲンってゲンおじいちゃんのことですか? 確かに5月クエストは終わりましたけど」


 二人は首をかしげる。NPCのゲンは5月のクエストのイベントNPCだったはずだ。


「とりあえず、許可するか」


 スプリングとアストレイアは入室を許可する。少しして、家に入ってきたのは5月クエストでお世話になったゲンだった。


「お久しぶりじゃの、お二人さん」


「おじいちゃん!」


「ゲンさん! どうして!?」


「今日からこの街で暮らすことになっての。よろしくのぅ。これはお裾分けじゃ」


 ゲンがくれたのは沢山の魚。この『湖の街スピカ』で獲れる魚だ。


「ありがとうございます。また会えて嬉しいです」


「ほほほ。儂も嬉しいのぅ。昨日5月クエストが終了しての。儂の役目は終わったんじゃが、運営からここの湖の管理をしてほしいと言われてのぅ。引き受けたのじゃ。今度のアップデートで湖に潜ることができるようになるらしいぞ。これは他のプレイヤーには秘密じゃぞ」


 白い歯を見せてニカっと笑うゲン。アストレイアがゲンの言葉に食いつく。


「本当!? デートスポットにちょうどいい?」


「運営からの伝言じゃ。『任せろ!』だそうじゃ」


「先輩先輩!」


「わかったから。行けるようになったら行こうな」


「はい!」


 アストレイアはとても嬉しそうだ。


「ほほほ。お二人さんは仲良しじゃのぅ。善き哉善き哉」


 アストレイアとスプリングは恥ずかしそうにしている。二人とも顔が赤い。


「お嬢ちゃんもお坊ちゃんもこれから6月にすることはあるかの?」


「特にないですが」


「何しようかなって先輩と話してました」


「おう。ちょうどよかった。お二人さんにちょうど良いクエストがあると聞いたのじゃが、どうだ?」


「どんなのどんなの!?」


「あぁー。すまんの。詳しいことは儂も知らんのじゃ。始まりの街にある大聖堂でシスター様に龍神様の神殿について聞いてみるといい。ただ、時間がかかるクエストらしいのじゃ。休日などに聞きに行くとよい」


「はーい!」


「わかりました。今度行ってみますね」


「ほほほ。6月中に行くのじゃぞ」


「わっかりましたー! 龍神様の神殿だったらキングにまた会えるかな?」


 キングとは、アストレイアとスプリングが参加した5月クエストのボス、ストームカープに名付けた名前だ。二人の手助けにより、ストームカープのキングは龍神に進化した。進化した龍神はどこかへ消えてしまったのだ。


「そうだな。会えるといいな」


「ほほほ。神々は滅多に姿を現さん。しかし、二人は龍神様と仲良くなったらしいの。神殿を見つけることができたら会えるかものぅ。儂も流石に神殿の場所までは知らぬのでな」


 アストレイアとスプリングの二人はやる気を見せる。二人はキングのことを可愛がっていたのだ。


「さて、ここからが本題じゃ」


 ゲンが真面目な顔になって言った。


「なんでしょう?」


 急に真面目な雰囲気になってスプリングは気を引き締める


「二人のイチャイチャをこの爺に聞かせてくれ! ずっと楽しみにしておったのじゃ!」


 ゲンはニコニコ笑顔で言った。目が少年のようにキラキラしている。


「何ですかそれっ!?」


「この前先輩と一緒にお昼寝しましたよ。先輩は私のいろいろな場所を触ってきて変態さんでした」


「レイアさん!?」


「ほほほ。男はみんな変態じゃからのぅ。お坊ちゃんはアストレイアお嬢ちゃんのどこが好きなのじゃ? 具体的な体の部分は」


「ゲンさん!? セクハラになりませんか!?」


「それ聞きたいです! 先輩の好きなところは髪、首筋、胸、お腹、お尻、太ももは知ってるんですけど」


「なんで知ってる!?」


「やだなぁ。先輩のことは何でも知ってますよ。好きな食べ物から性癖まで。先輩わかりやすいですし」


「うぅ・・・」


 スプリングは落ち込む。バレてないと思って必死に隠してきたのに、全て彼女にバレていた。


「スプリングのお坊ちゃん。諦めたほうが良い。男は女性の尻に敷かれるものじゃ」


 ゲンがスプリングに向けてサムズアップしてくる。アストレイアもニヤニヤ笑いながらサムズアップしてくる。


「諦めます・・・」


「ほほほ。そうじゃ、諦めて開き直ったほうかよい」


「わかりました。開き直ります。ではゲンさん、一つ聞きたいことがあります。今度レイアとデート行ったり、お泊まり旅行する予定なのですが、なにかアドバイスはありますか?」


「そうじゃのぅ。男は度胸じゃ! 度胸があれば何でもできるのじゃ!」


 ゲンはどこかで聞いたことのあるようなフレーズをスプリングに告げる。


「そうです。先輩には度胸が足りません。私はいつでもいいのに。もっと積極的になりましょう。頑張ってください。肝心なところでヘタレるヘタレ先輩!」


「俺、ヘタレヘタレって言われてるけど、そこまでヘタレじゃないと思うぞ・・・」


「ん? 何か言いましたか?」


「絶対聞こえてたと思うけど・・・。何でもないです。俺はヘタレです」


「うむ。よろしい」


 仲良さそうな二人を見てゲンは、ほほほ、と笑い声をあげる。

 三人は話が尽きることなく、アストレイアとスプリングがログアウトするまでずっと語り合っていた。


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