第27話 誤解

 

 5月最後の週、春真の学校では中間テストが行われた。最終日が終わり、午前中で学校が終わる。やっとテストから解放された春真は、志紀と校門に向かって歩いていた。


「やっと終わったぜ! これで心置きなくゲームができる!」


 解放感に満ち溢れた顔で志紀が言った。


「そうだな。今回は大丈夫だったか?」


「おう! お前に教えてもらったからな。書くだけ書いてきた。合ってるか知らん! もうどうでもいい!」


「テストのことは忘れよう」


 二人は自由をかみしめて歩いていく。唐突に志紀が春真に問いかけてきた。


「で? 最近嫁とはどうよ?」


「はぁ。それ昨日も聞いてきたよな? 普通だ普通」


「普通にイチャイチャしてる?」


「してない!」


 春真は早歩きで歩いていく。志紀が慌てて追いかけてきた。


「おいおい。怒るなよ。親友の恋路を応援したいだけなんだから。なっ?」


「お前は自分の心配をしたらどうだ?」


「好みの女性が学校にいないから困ってるんだ。でも、アマルガムさんのアドバイス通り、女子と少し話すようにしてるぜ」


 男子会が行われたのは一週間ほど前だったが、志紀はもう実践しているようだ。


「で、なんかないのかよ親友! 俺のために嫁とのイチャイチャを詳しく教えてくれ!」


「いやだ! ・・・だけど、今度デートに行く予定だ。・・・現実リアルで」


「はぁっ? お前マジで! やったな! どっちから誘った?」


「どっちからというか、ちょっとした賭けで行くことになった。万屋八百万のカミさんのせいもあるけど」


「あ~。あの人か」


 志紀は深く納得する。


「俺としては、そのデートの内容を聞きたいから、終わった後詳しく聞くわ。頑張れ!」


 志紀はにやりと笑って春真にサムズアップしてくる。なんかイラッと来る。志紀からの追及を避けながら歩いていくと、何やら校門のところが騒がしい。


「何かあったのか?」


「さあ?」


 二人は騒がしい校門に近づいていく。騒ぎの元凶が二人に見えてきた。

 校門の前に停車してある、磨き上げられた真っ赤なオープンカー。そして、車にもたれかかっている一人の女性。モデルのような美人な女性だ。おめかしをしてサングラスをかけている。

 春真には見覚えのある車と女性だ。女性は春真を見つけると、サングラスを外し、春真に向かって手を振ってくる。


「お~い。春く~ん!」


 周りで騒いでいた生徒たちが一斉に春真を見てくる。志紀も驚いて見てくる。春真は頭が痛い。痛む頭を押さえながら、春真は女性のほうに近づいて行った。


「ここで何をしてるんですか? これから向かおうと思ってたのに」


 春真が女性に話しかけた。女性は笑顔で春真に告げる。


「待ちきれなくて来ちゃった♡ 早く家に来て♡」


 春真はため息をつく。隣の志紀が口をパクパクさせている。


「旦那さんはどうしたんですか?」


「昨日急に出張に行っちゃった。だから、二人きりの時間は少ないの。早く車に乗って!」


 春真は女性の車に乗り込もうとするが、それを志紀が掴みかかって止める。


「おい! この女性とどんな関係だ! お前の母親じゃないだろ!」


 春真が答える前に、それを聞いた女性が答える。


「ん~? 私と春くんの関係ね。春くんのママ、的な関係?」


 周りが騒めく。志紀が春真の胸倉を掴み上げる。


「お前、ママ活してんのか!」


「してねぇ!」


「でも、ママ活と言われればそうなんじゃない? 時々一緒にお買い物に行ってるし、ご飯奢ってあげてるし」


「ちょっと! 俺はもう諦めているけど、その誤解を招く発言するのやめてくださいよ!」


 春真は女性に抗議する。しかし、女性は笑ってるだけだ。むしろ、春真の困ってる顔を見て楽しんでいる。そして、女性は爆弾を放り込む。


「春くん。早く子供作ってくれないかしら?」


 周囲のざわめきが大きくなる。志紀が口を開け、放心する。


「ちょっと聞いてます!?」


「春くんは相性がいいのよね」


「あ~。聞くつもりないですね」


 春真は遠い目をする。周りが騒めいている。志紀が意識を取り戻す。


「お前、人妻相手に不倫してんのか!?」


「してない。誤解だ誤解!」


「あら? 本当に子供作っていいわよ。ちゃんと育てるし、お金出すし」


「春真!」


「後で詳しく説明するから!」


「お姉さん! こいつ好きな人がいるんですよ! それは知ってるんですか!?」


 志紀が女性に向かって言った。


「あら? そんなの知ってるわよ。だから私が教えてあげてるの。いろいろと♡」


「春真、最低だぞ!」


「あ~もう! 後で説明するから。じゃあな!」


 春真は強引に志紀から逃げ出すと女性の車に乗り込む。女性も笑いながら車に乗り込み、エンジンをかける。


「早く出してください。愛華さん・・・・


 春真はいつも彼女に振り回されている。血は争えない。


「ふふふ。じゃあ出発するわよ」


 そして、罵倒してくる志紀や、大騒ぎしている生徒たちを置いて、二人は車で走り去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る