第24話 女子会 その2

 

 スプリングとアストレイアの家で女子会が開かれていた。メンバーは三人。アストレイアとペーパーとシェリーの三人だ。


「私の話は以上よ。次はシェリーちゃんね」


 ペーパーの話が終わり、次はシェリーに話を促す。シェリーは20代前半に見える清楚で大人しそうな女性だ。


「シェリーさんは彼氏さんはいらっしゃるんですか?」


 アストレイアがシェリーに聞いた。ペーパーも聞いたことが無いのだろう。身を乗り出している。


「私? 彼氏はいないよ」


「えー! なんで? なんでですか!」


「シェリーちゃんモテそうなのに」


 シェリーの言葉にアストレイアとペーパーが驚く。シェリーは驚く二人を見て少し笑う。


「私、彼氏はいないよ。夫はいるけど」


「「はい? 今なんて?」」


「私、夫がいるの。結婚してるの。奥さんなの」


「「え~~~~~~~~~!」」


 同時に絶叫しているアストレイアとペーパーを見て、シェリーは悪戯が成功したかのように楽しげに笑う。


「えっうそ! シェリーちゃんそんなこと聞いたことないけど!」


「そうですよ! その歳でご結婚されてるんですか!」


「まあね。ゲームでは現実リアルの話はタブーだから言ったことないの。今日は女子会だからいいかなって」


「女子会ですけど、一応ゲームの中だから本当は現実リアルの話はタブーですけどね。・・・全く分からなかったです」


「あら? 夫もこのゲームで遊んでるわよ。二人とも知り合いだし」


「「はぁ!?」」


 シェリーの暴露に、アストレイアとペーパーの二人は再び驚愕する。


「誰!? 誰ですか!?」


「全く思い当たる節がないわ」


「服屋クローズの店主スレッドよ」


「「はぁ~~~~~~~~~!?」」


 アストレイアとペーパーの二人は三度驚愕する。


「ちょっと待ってください。スレッドさんって40代くらいでしたよね?」


「あのイケてるおじ様みたいな。何歳差なの!?」


「何歳差だと思う?」


 シェリーはニコニコ笑っている。


「20歳くらい?」


「もっとよ、アストレイアちゃん。25歳!」


「ざーんねん。正解は1歳差。私が年上なの」


 シェリーの言葉にアストレイアとペーパーが固まる。驚きすぎて声が出てこない。口がパクパクしている。


「え? あのっ? えっ? うそっ!」


「シェ、シェリーちゃん。今日はエイプリルフールじゃないのよ!」


「本当なのに。こう見えて私、三人のお母さんよ」


「子供!? しかも三人!? 子どもは小学生、それとも幼稚園ですか?」


「そんな小さかったらこのゲームで遊んでないよ。上二人は社会人。一番下がこの前20歳になった大学生」


「「え~~~~~~~~~~~~~!」」


 また叫び声をあげている二人を見てシェリーは笑う。


「えっ? じゃあさっきのスレッドさんと1歳差って言うのも本当?」


「うそよ! うそだわ!」


「今度旦那に聞いてみて。笑って肯定してくれるから。私、40代のおばさんなの」


「今から聞いてくるわ!」


「ちょっと待ってくださいカミさん! 私も非常に聞きたいですけど、シェリーさんの話を詳しく聞いてからにしましょう」


 アストレイアは飛び出していこうとするペーパーの腕を掴んで引き留める。


「シェリーさん、スレッドさんとの出会いを教えてください」


「出会いね。彼、大学の後輩なの。同じサークルで、見た瞬間恋に落ちたの」


「一目惚れですか」


「そう。で、そのまま彼の家に突撃して、彼に告白して襲った。あれ? 襲ってから告白したっけ? それとも襲ってる最中だっけ? 全部だったかな?」


「「はい?」」


 清楚で大人しそうな女性に見えるシェリーの言葉とは思えず、アストレイアとペーパーは理解できないで首をかしげる。


「シェリーさんって肉食系?」


「ひょっとして男性経験豊富なの?」


 シェリーの中身を勝手に想像して二人は戦慄する。


「失礼な。旦那としか経験ないよ。二人もわからない? 運命って言うか本能って言うか。この人だ!って言う気持ち」


「「あぁー」」


 二人はシェリーの言葉に深く深く納得する。


「私、もう彼しかいない!って思って、突撃したの。で、彼の家に押し掛けて、同棲して、私からプロポーズしました」


「・・・すごい、ですね」


「ええ。私よりすごいわね」


 二人はシェリーの暴露に驚き疲れた。


「私が結構強引にしたけど、彼、嫌な顔一つせず、私でよければって笑って受け入れてくれたの。今でも、よく恥ずかしそうにプレゼントとかくれるの。はぁ・・・かっこいい・・・」


 旦那のことを思い出して自分の世界に浸るシェリー。清楚で大人しい普段の彼女からは想像できないような乙女の顔だ。


「あ~。よくわかります。その気持ち」


 シェリーの様子を見て、アストレイアが言った。しかし言った後、しまったという顔をする。ニヤニヤしたペーパーの顔が彼女の視界に入る。


「アストレイアちゃんにはあとでじっくりと聞きましょう。それよりも、ずっとシェリーちゃんに、あら? シェリーさんのほうがいいかしら?」


 ペーパーはずっとシェリーと同じくらいの年齢だと思っていたので、ちゃん付けでいいのか判断に迷う。


「ちゃん、でいいよ。ペーパーちゃん」


「そう? なら遠慮なく。シェリーちゃん、見た目が20代前半なのだけど、もしかしてそれは現実リアルも?」


「うん。旦那と歩いていたら親子とよく間違われる。警察呼ばれたこともあったよ」


 シェリーはペーパーの言葉に笑いながら肯定する。


「どうやって若さを保っているの!?」


 ペーパーは身を乗り出して聞く。アストレイアも身を乗り出す。


「別に何もしてないよ。でも、恋をしてるから、かな。やっぱり好きな人には可愛い姿とか見てほしいから」


 恋する乙女のシェリーに、アストレイアとペーパーはただ羨望と尊敬のまなざしを向ける。自分の理想とする人がここにいる。


「あの~、あんまり聞きたくないんですけど、結婚ってどうなんですか? 嫌なところとか我慢するところが多いって聞きますけど」


「アストレイアちゃん。よく踏み込んだわね」


 おずおずと聞いたアストレイアに、ペーパーは恐れおののく。しかし、ペーパーも興味がある。


「そりゃいろいろあるよ。喧嘩したことも沢山ある。嫌だと思ったことも沢山あるよ。でも、私は彼と一緒に居たい。ただそれだけ。結婚について悩みがあるなら、まず同棲することをオススメするよ。一緒に暮らさないとわからないことが多いから。同棲って言っても、仮想現実ゲームじゃなくて現実世界リアルで、だから」


 シェリーは二人に向かって最後にウィンクをした。40代とは思えない可愛らしいものだった。

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