第23話 女子会 その1

 

「では、この同棲感たっぷりの愛の巣をお借りして、第一回女子会を開催したいと思います。今日は現実の話などタブーに踏み込みながら、愚痴ったり、惚気たり、本音トークを炸裂させましょう!」


 リビングに元気な声が響く。ここは、アストレイアとスプリングが住む家。そこに三人の女性が集まっていた。


「では、メンバー紹介です。まずは私。本日の司会を務めさせていただきます、始まりの街ファーストで万屋八百万を営んでいるペーパーです! 私の急な思い付きにより、他の女の子たちが捕まらなかったことを謝罪します。次回は、もっと人を集めて行いましょう! 今日はよろしく!」


 ペーパーの挨拶に二人の女性がパチパチと拍手をする。ペーパーは拍手が鳴りやむのを待って、次の人を指名する。


「はい次、シェリーちゃん」


 ペーパーの指名を受けて、20代前半に見える清楚で大人しそうな女性が口を開く。


「えーっと、ペーパーちゃんに拉致されたシェリーです。始まりの街で鍛冶屋ベルモットを経営しています。探偵もののアニメが好きです。よろしくお願いします」


 シェリーの挨拶に二人の女性が拍手する。


「シェリーちゃん拉致ってひどくない?」


 ペーパーがシェリーの言葉に抗議する。そんなペーパーにシェリーはムスッとした顔で言う。


「突然店に来て、腕を掴まれて『レッツゴー!』って言われてここに連れてこられたんだよ。もう、女子会なら最初に言って! よろこんで参加するのに」


「ごめんごめん! 次からそうするわ。はい次! 今日の主役のアストレイアちゃん!」


「えっ! あっはい! 突然家に押しかけられたアストレイアです。・・・私、主役なんですか?」


「そりゃもちろん! 『女子会~女の子たちの恋愛ぶっちゃけトーク~』が正式名称よ。『~アストレイアちゃんのお惚気トーク~』でもいいわね。大丈夫! 私たちが人生の先輩としてアドバイスするから」


 ペーパーの言葉にシェリーもうんうん、と頷いている。


「というわけでアストレイアちゃん、どうぞ!」


 いってみよー!、とテンションMAXなペーパーがアストレイアを指名する。


「いやです!」


 アストレイアは断固拒否する。


「えぇーなんでー!」


「そうだよ。ペーパーちゃんダメだよ!」


 味方してくれたシェリーにアストレイアが尊敬のまなざしを向ける。


「アストレイアちゃんには最後に話をしてもらわないと! 大トリが最初に話しちゃダメでしょ!」


 アストレイアが絶望する。全く助けてくれなかった。


「あら、それもそうね。私たちも少し喋りましょうか」


「私、カミさんの恋バナ聞きたいです!」


「私も」


 アストレイアとシェリーがペーパーに詰め寄る。


「あら? 別に何も面白くないわよ。絶賛遠距離恋愛中」


「カミさん詳しく!」


 アストレイアが興味津々で聞く。自分の話は嫌だが、他の人の恋バナは大好きなのだ。


「そうねぇ。相手は小学校と中学校の同級生。今はお互い大学生で離ればなれ。このゲームを一緒にするつもりだったけど、彼氏が手に入らなくてね。私一人楽しんでいるわ。相手に自慢しまくってる」


「うわー。なんかいいですね。出会いとか、どっちから告白したか、とか教えてください!」


「それくらいいいけど。言っておくけど私はアストレイアちゃんたちのほうが羨ましいからね。まぁいいわ。出会いは普通に同じクラスになったことかしら。それで、お互い両想いってわかってたんだけど、なかなか告白してもらえなくてね。中学三年生の時かしら? 一応向こうから告白してくれたわ」


「一応?」


 シェリーが首をかしげる。あははっ、とペーパーは笑いながら言葉を続けた。


「私が彼の胸倉掴んで、早く私に告白しなさいって脅したのよ」


「ペーパーちゃんらしいね」


「カミさんらしいですね」


 シェリーとアストレイアの二人が納得する。


「まぁ、ネットとか他のVRゲームでちょくちょく顔合わせたりしてるからね。特に面白い話はないわ。今はプロポーズ待ちってところかしら?」


「・・・また、胸倉掴んで脅すんですか?」


 アストレイアが恐る恐るペーパーに聞いた。


「うふふ。それもいいかもしれないわね。それで、子孫代々ヘタレのドМって伝えさせようかしら」


 うふふふふ、と嗜虐的に笑っているペーパーに、アストレイアは少し引く。


「でも、それはしないわ。私も女の子よ。プロポーズくらい、彼から甘い言葉で囁いてほしいわ。もう長い付き合いだから、彼もわかってくれてるはずよ。というか、告白されたときにプロポーズは自分からするって宣言されてるの。あのとき初めてカッコイイと思ったわ。いつも頼りないのに」


 嬉しさと恥ずかしさが混じった顔をしているペーパーに、アストレイアは少し羨ましさを感じる。


「ペーパーちゃんもちゃんと女の子してるのね」


「そうですね。女の子してますね」


「えっと、二人ともそれは褒めてるの? いつもは女の子に見えないって言ってるのかしら?」


 褒められていることをしっかり分かっているペーパーは二人に冗談めかして言った。


「あはは。なんというか、カミさんは自分よりも他の女の子の味方って感じだったので。カミさん自身はどうなんだろうって思ってたんですけど、今の話を聞いて安心しました」


 シェリーもうんうん、と頷く


「そうよ。私は女の子の味方よ! だって、他の子の恋バナに首を突っ込めるのよ! 最っ高じゃない! 私の体は他の女の子の恋バナで出来ているわ!」


 ペーパーは高らかに宣言する。


「ああ、うん。カミさんはカミさんですね」


 アストレイアの言葉にシェリーもうんうん、と頷いていた。

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