第21話 男子会 その2

 

「それでは第一回男子会を開催したいと思います。皆さん、今日は本音で語り合いましょう」


 始まりの街ファーストにある、『服屋クローズ』の店主スレッドが始まりの挨拶を行う。店内にいるのはスプリングと友人のタクト、服屋クローズの店主スレッド、錬金術師のアマルガムだ。スレッドは40代くらいの男性。アマルガムは定年くらいの年齢だ。


「それで? 何を語り合うんだ?」


 アマルガムが三人に告げる。この男子会は先ほど急遽決まったため、話す内容が決まっていないのだ。


「そりゃ女の話に決まってますよ! 特にコイツの」


 そう言って、タクトはスプリングを指さす。アマルガムも納得する。


「坊主の話か。いいな」


「でしょ? というわけで、スプリング何か話せ」


「いやだ」


「そうですよ。スプリングくんはダメです」


 スレッドが無理強いさせているタクトに注意する。スプリングはスレッドに尊敬のまなざしを向ける。


「スプリングくんは最後に聞かなくては」


 スプリングが絶望する。全く助けてくれなかった。

 タクトとアマルガムもスレッドの言葉に納得し、うんうん、と頷いている。


「じゃあ俺が行きます! でも彼女とかいないんですけど」


 タクトが手を上げ、話を始める。スレッドやアマルガムがタクトに質問する。


「好きな人は?」


「いません」


「タクトの坊主、好みの女は?」


「やっぱ胸の大きい人ですかね・・・。胸には男の夢が詰まってますし」


 スプリングも質問に参加する。


「じゃあ、髪の長さは? ロング? ショート? 見た目は綺麗系と可愛い系どっちがいい?」


「あー。悩むな。でもロングの綺麗系かな。綺麗なお姉さんがいいかも。お姉さんが教えてあ・げ・る♡的な」


「タクトの坊主。お前ドМか?」


「否定はできないっす」


「うわぁー」


 スプリングはドン引きする。


「おい! お前に言われたくないぞスプリング! お前のほうがドМだろ!」


「なんで俺がドМって言われるんだ! 違うからな!」


「タクトくん。スプリングくんがドМかどうかは後でじっくりと聞きましょう」


「ちょっとスレッドさん!?」


「そうっすねスレッドさん。俺はやっぱりボンキュッボンのお姉さん派です。アマルガムさん、なんか経験ありませんか?」


「ん? 俺か? もちろんあるぞ。綺麗系も可愛い系も。お姉さんから合法ロリまで」


「アマルガムさんは結婚していましたっけ?」


 タクトがアマルガムに質問していく。


「してないぞ。ただ、それなりに女性経験はある」


「ほんとっすか! ぜひ俺にご指導を!」


 タクトはアマルガムに土下座し始めた。そんなに知りたいのか、とスプリングは少し引いた目でタクトを見る。


「おうおう。いいだろう。まずは、ある程度の金だな」


「金・・・」


「貧乏な男には女は滅多に寄ってこない。それに格好つけられないからな。次に大切なのは女性経験だ」


「アマルガムさん・・・」


 スレッドが注意を促す。流石に大人として、未成年に聞かせることではないと目で訴えている。


「すまん。言い方が悪かった。女性と沢山話せって言う意味だ。喋らないと相手を知ることができない。相手がどんな性格なのか、どういった言葉が喜ぶのか、逆に言ってはいけないのか。まず、それを知らないといけない。タクトの坊主もこれくらいはできるだろ?」


「は、はいっ!」


「次に大切なのは勇気だ」


「勇気・・・」


「そうだ。女と話すときは勇気がいるぞ。それも初対面だと、ものすごく緊張して怖気づくだろ? だから勇気が必要だ。で、最も大切なことは、釣った魚に餌を与えることだ」


「餌を与える・・・。贈り物とか愛の言葉とかですか?」


「そうだ。感謝の言葉とかな。まぁ、それについては、スレッドとかスプリングの坊主が専門家だろ。任せた」


 アマルガムはスレッドとスプリングに話を丸投げする。タクトはキラキラした目で二人を見てくる。興味津々だ。


「では、私から。と言っても意識したことはないですけどね」


 スレッドが話を受け継ぐ。


「スレッドさん結婚は?」


 スプリングがスレッドに質問する。現実の話はタブーとされているが、この場ではあまり気にしなくていいだろう。


「してますよ。奥さんもこのゲームで遊んでいますし」


「誰っ!? 誰っすか?」


 タクトが身を乗り出してスレッドに聞く。


「このお店の向かいでお店をしています。鍛冶屋のシェリーです」


「シェリーさんっすか!? あの清楚で大人しそうな。えっ? あの人20代じゃないんすか!?」


「ふふふ。ご想像にお任せします。まぁ、私は彼女にいつも感謝の言葉を伝えていますね。彼女の照れる顔とか恥ずかしそうにしてる顔が可愛くて可愛くて」


「・・・あぁ、わかります・・・」


 スプリングはスレッドの言葉に、アストレイアの照れる顔などを想像して、思わず呟いてしまった。三人のニヤニヤしながらスプリングを見てくる。スプリングは顔を逸らす。


「後でスプリングくんには詳しく聞きましょう。まぁ、話を戻すと、自分の気持ちは言葉と行動で示す、ということが大事ですね」


「スレッドはいつもどんなことをしているんだ?」


「特別なことは何も。ありがとうって言ったり、彼女に似合いそうなものを見つけたら買って贈ったり、でしょうか。二人でよく旅行にも行きますよ」


「タクトの坊主。これが手本だ」


「うっす。頑張るっス」


「そこまで尊敬されるほどのことでもないですよ」


 タクトに尊敬のまなざしで見られて、スレッドは恥ずかしそうに照れながら頭を掻く。


「スレッドさん。シェリーさんとの出会いとかプロポーズとか聞いてもいいっすか?」


「あー。まあいいですけど。参考にはなりませんよ。彼女から所謂逆ナンされて、気づいたら同棲していて、彼女からプロポーズされました」


「「「ええ!」」」


 スプリングとタクト、アマルガムまで驚きの声を上げる。


「シェリーさん大人しそうなのに・・・」


「女ってわからん」


「意外と肉食系なんっすか?」


 あははは、と恥ずかしそうにスレッドは笑う。三人の反応が可笑しかったようだ。


「詳しいことは言いません。彼女に怒られるので。でも、一つだけ言えることがあります。嬉しいことですが、彼女のほうが私にべた惚れしているんです。外では全く見せませんけどね。そんな彼女も可愛いですよね」


 スレッドの惚気話にスプリングとタクトは、もうおなかいっぱいです、という表情をしていた。

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