第20話 男子会 その1

 

 スプリングは一人で『始まりの街ファースト』を歩いていた。目的の店を見つけると、店の中に声をかけながら入店する。


「こんにちは」


 中にいたのは二人の男性プレイヤー。定年くらいの年齢の少しぽっちゃりした男性と40代くらいのスラっとした長身の男性だ。若いほうの男性がスプリングに挨拶を返した。


「こんにちは。ようこそ『服屋クローズ』へ」


「おう! クローズだけど閉まってるわけじゃないからな!」


 店主の言葉にぽっちゃりとした男性が揶揄うように付け加える。


「わかってますよ」


 スプリングは自分の年齢よりも一回りも二回りも離れた男性たちに近づいて行った。


「おや、スプリングくんですか。今日は一人? 珍しいですね。彼女さんと喧嘩しましたか?」


「ついに別れたか! 若いんだから新しい恋を探せ!」


「はぁ、違いますよスレッドさん、アマルガムさん。どうしてそんな考えになるんですか!?」


 40代くらいの男性店主スレッドとぽっちゃりとした男性客アマルガムに、スプリングはため息をつきながら否定する。


「レイアはカミさんたちに呼ばれて女子会だそうです。突然押しかけてきて、俺が家から追い出されました」


「ああ、なるほど。失礼しました」


「面白くねぇな」


 スレッドは礼儀正しくスプリングに謝るが、アマルガムは残念そうだ。


「近くに来たので顔を出してみました。何か良いものありますか?」


 スプリングは二人に問いかける。スレッドは服や装飾の、アマルガムは錬金術のトッププレイヤーだ。


「残念ながらありませんね。最前線が少し滞っているようで、新しいものはまだありません」


 申し訳なさそうにスレッドはスプリングに告げた。


「これはどうだ? 超々濃縮ポーション。回復量は多いぞ。ただし、味は保証しない」


 ニヤニヤしながらアイテムを見せるアマルガム。誰かに試したくてウズウズしているようだ。


「やめときます。あっ、今度タクトに試しませんか?」


「お! いいだろう。今すぐ呼び出すか?」


 体育祭の時のことで少し恨みがあるスプリングは、タクトを実験台に勧める。アマルガムもノリノリだ。


「そうですね。呼び出す目的は男子会、なんてどうでしょう? これから本当に男子会しませんか?」


 スレッドも結構ノリ気だ。


「オレは賛成だ!」


 アマルガムがスレッドの意見に賛成する。


「じゃあ、タクト聞いてみますね」


 スプリングはタクトにフレンドコールを行う。タクトは暇だったのか、すぐに出た。


『スプリングか? どうした? 嫁と喧嘩したのか?』

「違います。どうして皆そう思うんだ!」

『だって本当だったら面白いし。で、何の用だ』

「今暇か?」

『今日は暇だぞー』

「今からスレッドさんとアマルガムさんと男子会するんだが、来ないか?」

『いく。場所はクローズか?』

「ああ」

「『来たぞー』」


 タクトの声がフレンドコールと店の入り口から聞こえた。スプリングが振り返ると、タクトが手を振っていた。


「はやっ!」


「たまたま近くを歩いてたから助かったぜ」


「おう! タクトの坊主。駆けつけ三杯」


 アマルガムはタクトに三種類のポーションを渡す。


「うっす! 俺遅れてないんすけど、ありがとうございます」


 そして一気にポーションを飲み込んだ。


「お! パイナップル味ですか。俺これ好きです。次は、スイカ? 最後は・・・う゛!」


 タクトは喉を押さえて倒れ込む。そんな様子をアマルガムはメモを片手に、興味津々で観察している。


「・・・・・・・・・!?!?!?!?!?!?!?」


 タクトは1分ほどのたうち回り、痙攣して動かなくなった。


「大丈夫なんですか?」


 心配そうな顔をしてスレッドがアマルガムを見てくる。


「大丈夫だ。もう一人試した奴はすぐに起き上がったから」


 アマルガムが言葉を言い終わると同時に、タクトは跳ね起きた。


「ちょっとなんすか! あの超絶苦くて辛くて酸っぱくてドロッとした液体は!」


 タクトがアマルガムに掴みかかっていく。胸倉を掴まれたまま、アマルガムは笑いながら正体を述べた。


「超々濃縮ポーション。試作品だ。スプリングの坊主がお前に飲ませろって」


「おまえぇぇぇぇぇ!」


 今度はスプリングに掴みかかってきた。胸倉を掴まれ揺さぶられる。


「体育祭の恨みだ。これでおあいこだ」


「覚えてろ! ぜってぇ仕返ししてやる! お前の黒歴史をお前の嫁に言いふらしてやる!」


 恨みと怒りののこもった目で睨みつけるタクトに、スプリングは告げる。


「いいぞ。まぁ、あいつは俺の黒歴史なんて全部知ってるからな。意味ないが」


 そんなやり取りをしていると、パンパンと手を鳴らす音が聞こえてきた。


「そろそろよろしいですか?」


 二人は離れて、用意されている椅子に座る。スレッドは店の表示を本日閉店にすると、四人を代表して述べた。


「それでは第一回男子会を開催したいと思います。皆さん、今日は本音で語り合いましょう」


 こうして第一回男子会が開催された。

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