第13話 5月クエスト『主を鎮めろ!』その9
キングは『シライトの滝』が流れ出している『シライトの台地』の川へと無事に着水した。アストレイアとスプリングの二人も無事に『シライトの台地』の川岸に着地した。
「なんかあっさりとできちゃいましたけど、これでいいんですかね?」
「まぁ、いいんじゃないか?」
二人は予想以上にあっさりと『コイの湖』ボス、ストームカープのキングを『シライトの台地』へ連れてくることができた。少し呆気なさを感じる。
「キングは大丈夫そうだな。あの時、キングが緑色に光ってたけど何だったんだ?」
「風魔法だと思います。攻略情報ではストームカープは水魔法と風魔法を使うとありましたし」
「キングは『かぜおこし』も使えたんだな。いや。『ふきとばし』か? それとも『おいかぜ』か?」
「はいはい。ゲームが違いますからね」
どうでもいいことを考え込んでいるスプリングに呆れた声で言い返したアストレイア。ため息もついている。
「キングよかったな。滝の上に来れて。・・・うおっ!」
スプリングがキングに話しかけると、キングの体が光り始めた。眩しくて直視できない。
「まさか進化か!?」
「進化みたいですね」
そんな驚く二人をよそに、ストームカープのキングは姿を変えていく。細長く巨大な姿に。光りながら空に昇っていく。10秒程光り輝き、姿を現したのは青と緑色の綺麗な鱗を持つ巨大な龍だった。東洋の姿をした細長い龍。青龍だ。
「龍だな」
「龍ですね」
予想していたとはいえ、ストームカープから進化した龍は神々しく圧倒される。その崇高で優美な姿から目が離せない。
二人が固まっていると、青龍の鱗が光り、二つの光球となって二人へと向かってくる。その光球は二人の体に吸い込まれ、二人の体が一瞬光る。そして二人の耳にアナウンスが流れた。
『龍神から『龍のイヤリング』が贈られました。称号『龍神の祝福』を獲得しました』
青龍は二人に向かって頭を下げる。そんな青龍へアストレイアとスプリングは手を振る。青龍はもう一度、二人を見ると姿が掻き消え、どこかへと消え去った。
青龍を見送った二人に再びアナウンスが聞こえてきた。
『クエスト『
アストレイアとスプリングの二人は、アナウンスが聞こえなくなってもしばらく空を見上げていた。
「キングさん、どこか行っちゃいましたね」
「だな。でも龍神、神ってことはまたクエストで会えるかもな」
「そうですね。だといいです」
キングのことを気に入っていた二人は、寂しさがこみ上げてきた。
「贈り物も称号も貰えたし、確認してみるか」
二人はアイテムや称号を確認し始める。
「称号のほうは『水と風とコイを司る神である龍神キングに祝福された証。竜と龍の好感度上昇。水中と空中の行動補正(大)』か。まだ竜と龍って見つかってなかったよな?」
「ええ。まだ見つかってないですね。ということは、どこかにいるんですね」
「だな。というか水と風を司るのはわかるが、鯉を司るとか・・・。必要なのかこれ?」
「まぁ、鯉から進化しましたし。あながち間違っていないかと・・・」
「まぁいいや。イヤリングは『龍神から贈られたイヤリング。水と風属性攻撃上昇(大)』か。おっ! 破壊不可能だしデスぺナでも落ちないぞ」
「先輩は攻撃補正だったんですか? 私のは耐性でした。あっでもこれ、譲渡できるみたいですね」
「じゃあ交換するか。俺、属性攻撃あんまりしないし、耐性のほうがいい」
「私も攻撃補正のほうがいいので、お願いします」
二人はイヤリングを交換する。そして、『龍のイヤリング』を装備する。龍のデザインの銀色のイヤリングだ。同じように見えるが、二人の龍の目の色が違う。アストレイアは青色で、スプリングは緑色だ。
「ふふ。先輩どうですか? 似合ってますか?」
アストレイアが紅い髪を耳にかけ、イヤリングを見せびらかしてくる。
「似合ってるよ」
似合っていたので心の底から褒める。
「も、もう! なんであっさりとそんなこと言うんですか!? 嬉しいというか、からかい甲斐が無いというか、ありがとうございます」
ほんのりと頬を染めたアストレイアが焦ったような声を出した。スプリングは、夏稀や雪に昔から、女の子を褒めろ、と調きょ・・・教えられているので、褒めることは苦ではない。ヘタレのスプリングが、時々女誑しみたいなセリフを言うのは、妹と幼馴染の調きょ・・・特訓の成果である。
「それにしても、ここから見る景色は綺麗だな。レイアもそう思わないか?」
もじもじしているアストレイアが可愛く、見てられないので話題を逸らすスプリング。『コイの湖』や森の木々など遠くまでよく見渡せる。二人が立っている場所は崖に近く、滝も轟音を立てて水が流れ落ちているのが見える。
景色を見ていた彼の耳に、ひうっという悲鳴のような声が聞こえた気がした。そして、彼の首にアストレイアが腕を回し抱きついてくる。急なことに彼は固まる。
「レ、レイア? どうしたんだ?」
アストレイアは何も反応しない。首に回されている彼女の腕にどんどん力が込められていく。結構苦しい。
「・・・・・・・・・・・・せんぱい・・・・・・わたし、高いとこ苦手でした・・・・・・」
彼女は消え入るような声で囁いてくる。今にも泣きそうだ。
「大丈夫か?」
「・・・だめです・・・。せん・・・ぱい・・・私のこと離さないでください・・・」
アストレイアが抱きついているため、彼女の顔が至近距離にある。美少女であるアストレイアの、空のように澄んだ水色の瞳が涙でウルウルしている。必死で縋りついてくる。
彼は言葉が出てこなかった。
「・・・せんぱい・・・」
彼から返事がなく、見捨てられたと思ったのか、彼女は今にも泣きだしそうにしている。
「ああ悪い。一生離さないから安心してろ」
プロポーズのようなスプリングの言葉に返す余裕がないのか、アストレイアはただひたすら頷くだけだった。
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