第12話 5月クエスト『主を鎮めろ!』その8
滝の裏側にあったイベントアイテム『爆弾』で、湖底にあった亀裂に投げ入れ、爆発させた二人。爆発させた衝撃で、気絶して浮かび上がってきた大量のモンスターをアストレイアが魔法で殲滅した。その後、爆発した跡はどうなっているのか、二人はキングと名付けたボスモンスターに乗り、湖底へ潜っていった。
亀裂があった場所は直径50メートルほどの、大きな穴が開いていた。覗き込んでも真っ暗で底は見えない。
「予想以上にうまく行きましたね」
「あの時逃げなかったら結構なダメージだっただろうな」
真っ黒な穴を覗き込みながら言う。
「では先輩、ダイブしてください」
「先にアイテムとか魔法とか試してくれないか?」
「あれー先輩、怖いんですかー? しょうがないですねー。 ビビりの先輩のために試してあげましょう。『ライト』」
ビビってねぇ、というスプリングの抗議を無視して、アストレイアは穴の中へ光魔法を放つ。複数の光の玉が穴の中に出現した。その光魔法のおかげで、穴の中が明るく照らし出される。
「結構広いですね。あっ! 先輩あれ見えますか! 採掘ポイントですよ。ということは入れますね」
「おっ! ほんとだ! じゃあ入るか。キングも行くか?」
スプリングはキングに聞いてみると、キングは体を縦に動かし、行くと答える。
「レッツゴーです!」
二人と一匹は穴の中に飛び込んだ。
穴の中は広い空間が広がっていた。深さは100メートルほどあるだろうか。壁のあちこちに、10か所ほど赤く光っている場所がある。採掘ポイントだ。一か所で一人3回まで採掘することができる。
「よし、全部採掘しちゃいましょう! 先輩先輩! 勝負しませんか!」
「何の勝負だ?」
「ここで採掘したアイテムの査定金額が多かった人が勝ちです。勝った人は相手に何か一つ命令することができます」
「いいだろう。その勝負受けて立つ」
「犯罪行為はだめですよ。でも、相手が同意するなら、えっちなこともオーケーです」
「そこまで考えていなかったが、まぁいいや。後悔するなよ」
二人は黙々と採掘していく。その間、ストームカープのキングはゆっくりと泳いでいた。
全ての場所で採掘が終わった後、アストレイアはニコニコ笑顔だった。とてもいいアイテムが出たのだろう。とても嬉しそうだ。それに比べて、スプリングはいつも通りの表情だ。どうだったのかわからない。ポーカーフェイスだ。
「ふふっ。今日はとてもラッキーでした。先輩はどうでした?」
「まぁまぁかな」
「そうですかそうですか。ふふっ」
アストレイアはとても嬉しそうだ。笑い声が漏れている。でも、すぐに気持ちを切り替えて普段の表情に戻る。
「どうしましょうか? 一回できるだけやってみます? 魔法とか全部施して」
「キングはどうだー? ・・・やる気みたいだ」
キングは頻りに頷いている。とてもやる気満々だ。
「私たちはどうしていましょうか? ・・・あ、乗ってもいいんですか? 大丈夫ですか? 大丈夫みたいですね。では乗りますか」
キングが飛び上がるとき、どこで待っていて見守ろうか考えていたアストレイアは、キングが体をフリフリと揺らしているのが目に入った。まるで体に乗れと言っているかのように見えた。実際、そう言っていたようだ。確認するとキングは頷いていた。
二人はキングの背に乗ると、キングにできる限りの魔法を施していく。
『ブースト』『ハイブースト』『アクアブースト』『ウィンドブースト』『STR強化』『AGI強化』『フィジカルアップ』・・・
身体強化系の付与魔法や水中行動補正、空中行動補正など様々な魔法を重ね掛けしていく。そして、全ての魔法が掛け終わった。
「じゃあ、一回試してますか。キングさん、頑張ってくださいね」
キングは頷き、力強く泳ぎだす。どんどんスピードが上がっていき、二人はしがみつくのが精一杯だ。十分に加速した後、急激に上昇する。そして、勢いよく空中へ飛び上がった。
「うわああああああああ!」
「きゃああああああああ!」
二人は思わず悲鳴を上げる。急速に景色が変わっていく。だが、それも高くなればなるほど徐々にゆっくりになる。不自然な程に。
「ってあれ? ゆっくりすぎない?」
「ゆっくり過ぎですね。まぁゲームですし、深く考えたら負けです。結構高く飛びましたね。というかこのままいけそうですね」
飛び上がった高さは150メートルは越えているだろう。50メートルほど下に『シライトの台地』が見える。十分程の高さだ。
「えっと、このままだとそのまま落ちるだけですので、『ウインド』そして『ストーム』!」
アストレイアが魔法を放つ。風を発生させる魔法だ。攻撃魔法だが威力を調節している。彼女は魔法での攻撃は神懸っている。ただ、キングにダメージを与えないよう威力を最小限にしているため、風の勢いが足りない。このままでは、『シライトの台地』まで届かない。彼女はキングへのダメージを覚悟で、威力を上げようか悩む。
「っ!」
威力を上げようとしたその時、キングの体が緑色に輝く。風が強さを増した。どんどん強くなり、掴まっているのがつらくなる。
「きゃぁ!」
「レイアっ!」
アストレイアが風にあおられ、吹き飛ばされた。吹き飛ばされた彼女を追って、スプリングは空中へ飛び出す。虚空を蹴り、彼女を抱きしめる。アストレイアは彼の首にしがみつく。
「しっかり掴まってろ!」
スプリングは彼女を抱いたまま、何度か虚空を蹴り、無事に『シライトの台地』に着地した。
その数秒後、水飛沫が上がり、キングが滝の上流、『シライトの台地』を流れる川へと着水した。
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