第11話 5月クエスト『主を鎮めろ!』その7
「どうやってキングさんを滝の上へ連れていきましょうか?」
アストレイアとスプリングの二人は湖岸に座り話し合う。キングと名付けた『コイの湖』のボスも湖から顔を出している。
二人は滝の裏側と湖の底へ行き、写真を撮りイチャイチャし終わった。残すは台地の上から夕陽を眺めるだけである。その前に、クエストを終わらせようと考えたのである。
「滝の裏側にあった『爆弾』と『頑丈なロープ』。イベントアイテムだから何かに使うんだろうけど・・・」
二人は滝の裏側で二つのアイテムを見つけていた。ただ、どう使うか分かっていない。
「ロープを結び付けて上から引っ張り上げますか?」
「・・・無理だと思うけどやってみるか?」
「やるだけやってみましょう」
二人はロープを取り出し、キングに説明する。巻き付けたり、結び付けることはできなかったため、最終的には口に咥えてもらうことになった。
「あとは私たちが滝の上から引っ張り上げるだけですね。というわけで先輩、頑張ってくださいね。私は下で待ってます」
「へいへい」
スプリングは返事をすると、地面を蹴りつけ空中に飛び上がった。何もない虚空を蹴りつけ上昇していく。あっという間に100メートルほどある『シライトの台地』へ登りきった。
「おー! 遠くまで見える! いい景色だな!」
下を見るとアストレイアが手を振っているのが見えた。そんな彼女に手を振り返す。そして、彼はロープを取り出すと下へ放り投げた。しばらくして、彼女の声が下から聞こえてきた。
「せんぱーーい! 準備できましたーーーー! 引っ張ってくださーーーい!」
「わかったーーーー!」
スプリングはしっかりロープをつかむと、自分に付与魔法を施し、身体強化のスキルを使うなど、自己強化していく。そして、しっかり地面を踏みしめると力の限りロープを引く。
「うおおおおおおおお!」
力いっぱい引っ張る。少しずつ少しずつ上昇していく気配がある。
「ぬおおおおおおおお!」
少しずつ時間をかけて持ち上げる。10メートルほど持ち上がっただろうか、そう思った瞬間、急に力が抜ける感覚がある。
「あっ!」
スキルの効果が切れたのだ。必死に踏ん張るが体が引きずられていく。そしてそのまま崖から放り出された。
▼▼▼
「先輩、大丈夫ですか?」
びしょ濡れのスプリングにアストレイアは声をかける。崖から落下したスプリングはそのまま湖へ墜落したのだ。
「ああ。なんとか。まるで紐なしバンジーをした気分だ」
「・・・本当に紐なしバンジーだったんですけどね」
スプリングの答えに呆れ顔で返すアストレイア。
スプリングは落下でHPが3分の1ほどダメージがあった。しかし、それも自己回復系のスキルが発動し、十数秒で瞬く間に全回復した。
「相変わらずのチートスキルですね」
彼女は彼の馬鹿げた回復速度を見て呟く。羨ましさも含まれている。
「運営公認のユニークチートスキルだ。レイアも持ってるだろ?」
「まぁ、そうですが・・・。とりあえず、この話は置いておきましょう。ロープで引っ張り上げるのはだめでしたね」
「少しは上がったんだが、スキルの効果が切れた」
二人は岸に座り、再び考え込む。ストームカープのキングも何かいい案がないか考えているようだ。目を瞑っている。
少しの間考えた後、アストレイアが問いかける。
「今、キングさんがジャンプしたら高さ50メートル程まで飛び上がりますよね。もっと高く飛ぶためにはどうしたらいいと思いますか?」
「付与魔法でステータスを上げるとか? 泳ぐスピードとか速くなるだろ」
「ですよね。あと、湖の底がもっと深ければ、飛び上がりやすいと思いません?」
「そうだが、どうやって深くするんだ?・・・まさか」
「はい。爆弾を使います。滝の近くにあった湖底の亀裂。人は入れませんでしたがアイテムは入りました。たぶん、このための設定だと思うのですが」
「試してみるか」
二人は、ストームカープのキングにお願いし、再び湖底へ潜っていく。
湖底へと着いた二人は、滝の裏側で手に入れたイベントアイテム『爆弾』を取り出す。
「えーっと、使用したら10秒で爆発するんでしたね。では、さっさと使ってみましょう!」
あっさりと爆弾を使用したアストレイアは、起動させた爆弾をポイっと亀裂の中へ放り投げる。その爆弾は亀裂の中へ沈んでいった。
10・・・・・9
「なぁ。このままここにいると俺たちダメージ喰らうんじゃないか?」
8・・・・・7
「喰らいますね」
6・・・・・5
「逃げるか・・・」
「逃げましょう」
4・・・・・3
二人はキングに乗って全速力で逃げる。
2・・・・・1
「キングさんジャンプです!」
アストレイアとスプリングを乗せたキングは、指示通りに水中から飛び上がる。
0と同時にズンッと体に響くような音と衝撃が起こり、巨大な水柱が立ち上った。水が舞い上がり、そのまま雨となって降ってくる。
爆発の衝撃が残る中、空中にいた二人と一匹は重力に引かれて湖へ落下し、第二の水柱が立ち上った。
「危なかったなぁ」
「危なかったですねぇ」
思ったより爆発の威力が大きく驚いた二人。キングも同意するように、うんうん、と頷いている。ほっと安心していると、水の中から何かが浮かんできた。一つだけでなく次々と何かが浮かんでくる。
「あー。水中で爆発すると魚系モンスターがスタンするんでしたっけ?」
浮き上がってきたのは、爆発の影響で気絶したモンスターたちだった。
「倒します?」
「いいのか? 明らかにキングの親戚みたいなのがいるけど」
浮かんでいるのはキングと同じコイ系のモンスターもいる。結構可愛らしく思えてきたキングの前で同族を倒すのは、何となく憚られる。でも、キングは全く気にしておらず、むしろ、倒しちゃっていいよ、と訴えてきている。
「・・・いいみたいですね。じゃあ、倒しちゃいますか」
「頼んだ」
キングの了承を得て、二人は気絶している大量のモンスターを倒すことにした。キングの上で、アストレイアは愛用の杖を構えて、一言述べる。
「『トルネード』」
湖の水面から巨大な竜巻が立ち上る。水面に浮かび上がったモンスターたちは、その竜巻に巻き上げられ空へ昇っていく。そして、見えない風の刃で斬り裂かれて、次々と光となって消えていった。
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