第8話 5月クエスト『主を鎮めろ!』その4
『コイの湖』の
「錦鯉・・・みたいですね」
「そうだな」
二人は同じことを思ったようだ。
遠くからは青色だと思っていたストームカープの体は、青色と緑色の鱗を持っていた。
そんなストームカープにアストレイアは話しかける。
「あのー、こんにちは。私たちの言葉、わかります?」
ストームカープは勢いよく頷く。勢いが強すぎて、二人の体に水が降り注ぐ。二人は全身びしょ濡れになった。
二人は水を滴らせながら沈黙する。
ストームカープは狼狽え、焦っているかのように目をウルウルさせながら慌てている。目でごめんなさい、と謝っているようにもみえる。
「あー。気にしなくていいですよ。すぐ乾きますし・・・。ストームカープさんは言葉が理解できると。念話や会話をすることは・・・」
ストームカープは体を横に振る。念話や会話はできないらしい。今度は水が跳ねないように慎重に体を動かしている。
「ふむふむ。では、『はい』か『いいえ』で答えられる質問をしていきますね。ストームカープさんは滝の上へ行きたいですか?」
ストームカープは体を縦に動かし頷く。
「次の質問です。私たちを攻撃するつもりはありますか?」
ストームカープは体を横に振り否定する。
「攻撃するつもりはない、と。どうします先輩?」
隣で聞いていたスプリングに意見を聞く。
「どうするも何も、どうにかやってストームカープを滝の上へやるしかないだろ。ストームカープは何か・・・。名前が長い。新しく名前つけよう」
スプリングの言葉に、ストームカープはキラキラした目で何か期待するように見つめてくる。名前を付けてほしいらしい。
「キング。キングはどうだ? お前はこのあたりの主なんだろ? 王様って意味のキングだ」
スプリングの言葉に、ストームカープは頻りに体を縦に動かす。胸びれも嬉しそうにパタパタと動かしている。キングという名前が気に入ったようだ。
「先輩。コイだからキングなんですか?」
ジト目で見てくるアストレイア。視線を逸らすスプリング。
「ま、まぁいいだろ。気に入ったみたいだし。キング、何か滝を登るために必要なこととか、この湖で気になる場所って知らないか?」
スプリングの質問に、キングは申し訳なさそうに体を横に振る。
「ダメか」
「みたいですね。では、先に本題を済ませてしまいましょう!」
「本題?」
スプリングは首をかしげる。クエストの内容は
「ええ本題です。ゲンおじいちゃんが言っていた場所で写真撮りましょう!」
「・・・ああ。そうだな」
どんな時でも変わらない彼女に、愛おしさを感じてスプリングは微笑む。
「キングさん。私たち滝の裏側に行きたいんですけど、私たち二人乗せてもらうことはできますか?」
キングは嬉しそうに頷く。キングは二人が乗りやすうように全身を現す。
二人はキングの背に乗り、しっかりと掴まる。もちろんアストレイアは自分の前に座っているスプリングのお腹に腕を回し、ぎゅっと抱きついている。
「レッツゴーです!」
アストレイアの号令で二人を乗せがキングが動き出す。
「なん・・・だと・・・。鯉が・・・キングが『なみのり』を使うだと!」
「はいはい。遊んでいるゲームが違いますからね」
二人はそんな冗談を言い合いながら、楽しげに乗っている。何枚かキングの上から写真を撮る。そんなことをしているとあっという間に滝の近くへと着いた。
100mも落差がある『シライトの滝』は、近くで見ると水量がすごい。ただ、水が落ちる音はそこまでしない。さすがゲームである。
「さて、どうやって裏側に行きますか。先輩、滝の水斬れますか?」
「斬れるだろうけど、この水量じゃ一瞬だと思うよ」
どうしたものかと悩む二人に、キングは少し上体を上げ、口から水を発射する。放たれた水が流れ落ちる水を遮り、水のカーテンが左右に分かれる。滝の奥には洞窟のように崖に穴があいている。
「なん・・・だと・・・。鯉が・・・キングが『みずでっぽう』ですって!」
「はいはい。遊んでるゲームが違うからな」
さっきとは反対の立場で冗談を言う二人。キングは少し得意げだ。
「キングさん。私たちが入るまで水鉄砲を発射して水を押しのけることと、裏側から私たちが合図したら同じように水鉄砲を放つことはできますか?」
キングは二人が落ちない程度に体を縦に動かす。
「だそうです。では先輩、私を連れて行ってください。たまには普通の抱っことかおんぶとかにします?」
「太ももとかお尻とか触ることになるがいいのか?」
「・・・・・・お姫様抱っこでお願いします」
少しの間悩んだアストレイアはいつも通りのお姫様抱っこを希望する。別に彼に触られることは嫌ではないが、恥ずかしさが勝ったようだ。
お姫様抱っこをして準備が整うとキングに告げる。
「準備できました。キングさん、お願いします」
キングは滝に向けて水鉄砲をを放つ。水が押しのけられ、水のカーテンが左右に分かれる。その隙間に向けてスプリングは跳び込んだ。
滝の裏側には浅い洞窟が広がっていた。地面もある。
地面に降り立ったスプリングはアストレイアを降ろす。
「あれって宝箱ですか?」
「みたいだな。たぶんミミックでもない」
5メートルほどしかない洞窟に奥には、宝箱が置いてあった。フィールドに隠されて置いてある宝箱には、いいアイテムが入っていることが多い。
アストレイアは宝箱に近づき、罠や鍵が掛かっていないか確認する。細かい作業は彼女の担当なのだ。
「罠は・・・なし。鍵は・・・なし。よしっ、開けますね。えいっ!」
彼女は可愛らしい声をあげて宝箱のふたを開ける。
「えーっと、ナニコレ? 『爆弾』と『頑丈なロープ』みたいです。イベントアイテムですね」
「なになに、爆弾の説明は『水の中でも爆発する爆弾。使用して10秒で爆発します。直接当てればダメージ、水中で爆発すると魚系モンスターがスタン状態になります。』か。ロープは『長さが250mもある頑丈なロープ。多少乱暴に扱っても切れません。ロッククライミングをしたいあなたに。』だって。絶対クエストに必要だろ、これ」
「ですね。でも使い方思いつくまで放っておきましょう。それよりも絶景です! せーので振り返りましょう。せーのっ! おお~! 綺麗です~!」
二人は同時に振り返ると、そこには水と光が織りなす、自然が作り上げた絶景が広がっていた。刻一刻と変化していく水と光のカーテン。見ていても飽きない幻想的な光景だ。
しばし二人は寄り添いながら、心奪われる景色に酔いしれるのだった。
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