第4話 今月のクエスト
学校が終わり藤村春真は帰宅する。帰宅部の彼は放課後になると即帰路についた。
彼は両親と妹の4人暮らし。父の
「たっだいまー」
家の鍵は開いていた。ということは妹が帰ってきている。玄関には靴が二人分ある。
「お兄ちゃんおかえりー」
「んっ、春にぃおかえり」
リビングで春真を迎えたのは二人の少女。最初に声をかけてきたのが春真の実妹、夏稀だ。伶愛と同じクラスであり、伶愛ほどではないが、美少女の夏稀は天真爛漫な性格で男女ともに人気がある。
夏稀の後に挨拶をしたのは藤村家の隣に住む
「夏稀、雪、ただいま。雪は泊まり?」
雪の両親は雪が大きくなったということで、最近家を空けることが多い。よく夫婦で旅行に行くそうだ。したがって、雪はよく藤村家に泊まりに来る。金曜日の今日も藤村家にいるということは週末泊まるのだろう。
「ん。よろしく。春にぃカレー食べたい」
雪が夕飯のおねだりをしてくる。雪はカレー好きだ。
「あっ私も!」
夏稀も賛成する。
「時間かかるけどいい?」
「いいよー」
「んっ」
春真は荷物を置き、私服に着替えるとカレーを作り始めた。
▼▼▼
夕飯に作ったカレーは夏稀と雪に絶賛された。藤村家の料理担当の春真は料理上手だ。
寝る準備を終え、ベッドに寝転んだ春真は二人の幸せそうな顔を思い出し少しニヤける。
横になったままVRゴーグルを装着し起動させる。
<起動・・・パスワード認証・・・ソフトを選択してください・・・Wisdom Onlineが選択されました・・・Wisdom Onlineを起動します・・・いってらっしゃいませ>
春真の意識は仮想世界に転送された。
春真、いやスプリングは目を開けるとホームの寝室のベッドの上だった。昨日ベッドでログアウトしたからだ。フレンドリストを確認する。アストレイアはまだログインしていないようだ。
スプリングは寝室を出てリビングへ移動する。
この家は湖を一望できる場所に建っている。アストレイアが一目惚れし、スプリングを強引に説得したのだ。『湖の街スピカ』の中でも一番高い物件で、資金を稼ぐのに大変苦労した。高かったが、今では買ってよかったと満足している。
リビングは可愛らしい家具で統一されている。これもアストレイアの趣味だ。リビングには写真が多く飾ってある。半分以上の写真はゲーム内のきれいな景色。残りは、灰色の短髪、紅い目をしたありふれた少年と、ボブカットの紅い髪、水色の目をした可愛い少女のツーショット写真だ。何枚か突然撮られたのだろう。男子、スプリングは目を見開き驚いた表情をしている。
スプリングは、そんな同棲感満載、本人たちはルームシェアと言い張っているが、の家のソファに座り、昨日倒したグラトニースライムのドロップアイテムの整理を始める。
整理がほとんど終わった頃、不意に後ろから目隠しをされる。可愛らしい声が耳元で囁かれる。
「だーれだ♡」
「レイア」
「せーかいです。正解したご褒美に膝枕
「ご勝手に」
目隠しをしてきたのはアストレイア。膝枕の許可を得たアストレイアはソファを飛び越え横になる。当然スプリングの太ももを枕にしている。スプリングは、そんなアストレイアの頭を優しく撫でる。
「うむ。余は満足じゃ」
幸せそうに目を閉じるアストレイア。顔が蕩けている。
しばらく頭を撫でられていたアストレイアは、目を閉じたままスプリングに話しかける。
「先輩は体育祭何に出ることになったんですか?」
そういえば今日の5時間目に体育祭の選手決めがあったな、と記憶を手繰り寄せる。
「あぁー。100m走と台風の目と団代表リレー。あとは全員参加の学年ダンスとクラス対抗リレー」
「うわー。結構出ますね。先輩帰宅部のくせに足速いですからね。100m走と団代表リレーは団からの強制ですよね? ちなみに100m走のタイムは?」
「100m走は先月体育で計った時は11秒ジャストだったと思う。100m走と団リレー決まってるから頑張ってねー、って感じだったよ」
「ちっ! リアルチートめ! それ県の中でもトップレベルじゃないですか。スパイクなしでそれとか・・・。少しは運動神経分けてください」
アストレイアは舌打ちする。恨むような羨ましいような複雑な顔をしている。アストレイアは少し運動が苦手なのだ。
「むりでーす。レイアは何に出るんだ?」
「借り者競争だけですね。あとは同じように学年ダンスとリレーです。ウチの高校いいですよねー。最低一種目出ればいいんですから」
「まあな。でも借り者競争か。当たり外れが大きいヤツ選ぶとは・・・。去年は『好みの異性』というお題引いた人が公開告白してたな」
「あっそれ見ました! 去年夏稀ちゃんたちに連れていかれましたから。盛大にフラれてましたね」
「フラれてたな。まぁその・・・がんばれ」
「うわー他人事みたい! 他人事なんですけど! どうか先輩を巻き込めるお題でありますように」
「やめてくれ・・・」
本当にそうなりそうでスプリングは胃が重く感じる。『関係ないお題でありますように。じゃないと例え神でもぶった斬る!』、と心の底から神様
「さて、楽しいお喋りもここら辺にしましょう。せーんぱい、今日は何をしますか?」
「うーん・・・」
スプリングは悩む。二人はゲームの攻略をメインにしていない。モンスターを倒したりするよりも、観光、二人からすると決してデートではない、を目的としている。
「『今月のクエスト』でも受けますか?」
悩むスプリングにアストレイアは提案する。
『今月のクエスト』とは、月ごとに開催されている限定のクエストだ。大規模なレイドボス討伐から運動会や雪合戦など内容は様々だ。期日が決まっているものや、その月ならばいつでも受けることができるものもある。全てはイベント次第だ。
「今回は何だ?」
「えーっと・・・クエスト名は『
「ふむふむ。説明は『森の奥にある湖の
いろいろと調べていたアストレイアに詳細を聞く。こういった情報収集や整理は彼女の得意分野だ。
「ボスの名は『ストームカープ』。巨大な鯉ですね。レベルはパーティメンバーの平均レベルプラス15。水魔法と風魔法を使う。ドロップは魔石や素材。レアドロップでイヤリングも落ちるみたいです。『鯉のイヤリング』、水や風の魔法上昇だったり、耐性だったりそこはランダムみたいです。そこそこいいヤツですね。で、成績が一番よかったパーティには月末に運営からプレゼントがあるみたいですよ。1回しか参加できないクエストです。まぁこんなとこですかね」
「サンキュー。クエスト制限時間は4時間。今からじゃちょっと遅いか。レイア、明日の予定は?」
「なんもないです」
「じゃあ明日いつもの時間で。今から買い出しにでも行くか。一緒に行くか?」
「はい! もちろんです!」
二人は立ち上がり、仲良く街へ繰り出した。
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