第3話 現実(リアル)
金曜日。朝のホームルームの時間が近くなり、クラスメイトたちが多く教室の中にいる。眠そうな一人の男子が席に座っている。『Wisdom Online』でプレイヤー名:スプリングこと、
「ふぁ~」
まだ朝なのに何度目かわからない欠伸をする。
昨晩はグラトニースライム討伐に連れていかれ、ホームではアストレイアを可愛がったため、寝不足なのだ。
『Wisdom Online』は全年齢対象なのでエッチなことはできない。できたとしても、せいぜいキスまでらしい。試したことないが。そもそもアストレイアと付き合っていない。
あの後、ホームでは頭をなでたり、膝枕したり、甘いもの食べさせあったりした。というか彼女に命令された。彼女はとても満足そうにしていたので、とりあえず安心した。童貞には女子と二人っきりというのはきついのだ。
再び欠伸が出る。
「ふぁ~」
「おっす同志よ。昨夜はお楽しみでしたね!」
「ごほっ! 朝から何言ってんだ
欠伸している春真に話しかけてきたのは
「お前こそ何言ってんだ。このセリフは朝しか言えないだろ、同志よ。お前、掲示板で有名になってるぞ。巨乳好きの魔王って。俺も巨乳好きだからな。だから同志だ」
「ぐっ。俺は巨乳好きじゃねぇ。アイツが勝手に言っただけだ」
「ほうほう。嫁と胸の話をしているとはお熱いですな。そういえばお前の嫁、胸小さいもんな」
「嫁じゃない。ただのパーティメンバーだ」
「あーはいはいわかったわかった。さて、ここからが本題だ。ずっと聞きたくて夜眠れなかったぞ。勇者様とはどうだった? 一晩中愛し合ったんだろ? 詳しく聞かせろ。あとこの情報も広まってるぞ。拡散したの俺だが」
「何やってんだお前は!」
「別に俺じゃなくても誰かが広めるだろ。そんなのどうでもいいから早く早く」
「どうでも良くない。はぁ。別に特に何もしてないが」
「は? お前たちあんなラブラブ発情オーラ出しててヤッてないのか? お前不能なの? それとも男好き?」
志紀は身の危険を感じたかのように春真から距離をとる。お前まさか、とドン引きした目で春真を見る。
「どっちも違うわ!」
「じゃあ何でしなかった? お持ち帰りオーケーだったんだぞ。勇者様はお前のこと好き好きオーラ全開だったのに、それで抱かないとか女に失礼すぎんだろ。キスは? キスはしたのか?」
「してない・・・。そもそも付き合ってないし」
「告れ! 今すぐ告れ、この童貞バカ」
「場所とか雰囲気とか大事じゃん・・・」
「乙女かお前は!」
志紀は物凄く呆れている。春真も告白したいと思ってはいるが、やはりゲームの中じゃなく、現実でしたい。そもそも、
「そもそもWisdom Onlineの中じゃそんなことできないだろ?」
「告白はできるぞ。現実よりもいい景色の場所があるんだから、はよ告れ」
「はいはい誠意努力しますよ」
春真は政治家がよく言いそうなセリフを言って、この話題を断ち切ろうとする。恋バナは好きだが、自分が話題になるのは嫌なのだ。
志紀はふと思い出したように新たな話題を出す。
「告白と言えば・・・昨日、1年の
「ふぅーん。知らんな」
春真は口や態度で知らないふりをするが、当然知っている。本人に散々愚痴られたからだ。よほど嫌だったらしい。延々と罵詈雑言を聞かされ、気分転換に狩りに誘ったらレイドボスと戦うことになるし、とても疲れた。
勇者アストレイアの正体は、春真たちと同じ高校に通う1年生の後輩、東山伶愛である。
「まっ、玉砕したみたいだが。入学してからまだ1ヶ月ちょっとなのに50人斬りらしい」
「本人は大変そうだな」
「いやー、でも告白したくなる気持ちはわかるだろ? 雪のように真っ白な肌、ポニーテールに纏められた黒髪、手足細いし、まつげ長いしパッチリ二重だし唇柔らかそうだし。誰もが振り返る美少女だろ」
「まぁ、それはわかる」
そう、東山伶愛は美少女なのだ。街を歩けばアイドル勧誘など芸能事務所から声がかかり、ナンパは数知れず。他校の学生からも告白されたこともあるらしい。本人によると、過去には大学生や大人にまで言い寄られたという。いい年をしたおじさんに愛人にならないかとまで言われ、男性恐怖症になったらしい。彼女は今でも男性は苦手だ。
「ただ胸が小さいのが残念だな」
志紀はいかにも残念だという雰囲気をまき散らしながら言う。春真は肯定も否定もしない。それは禁句だぞ、と心の中で志紀に返答する。
どこから彼女に話がいくかわからないので迂闊な返答はしたくない。彼女の周りには噂好きの情報通がいる。もし知られていた場合、彼女のご機嫌取りが大変だ。
春真からの返答がなかったのを気にせず、志紀は新たな話題を話し出す。
「そういえば今日体育祭のメンバー決めが・・・・・」
話題が変わり、恋バナでもよく知る後輩の話でもなくなり、春真は普通に受け答えしていく。朝のホームルームが始まるまで志紀と喋っていた。
藤村春真のありふれた
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