アレだけで説明する桃太郎

ちびまるフォイ

白くて、やみつきになるアレ

昔々あるところにおじいさんとおばあさんが暮らしていました。


おじいさんは夫婦の価値観の違いから芝刈りへ、

おばあさんはおじいさんと洗い物を別にしたいために川へ洗濯に行きました。


おばあさんが洗濯をしていると川の上流から大きなアレが流れてきました。


「まあ、なんと大きなアレなんでしょう。家に持って帰って食べましょう」


おばあさんは身の丈ほどもあるアレを

どこにあったのかわからない馬鹿力で持って帰ると

芝刈りから帰ってきたおじいさんに話しました。


「おじいさん、芝刈りなんて一銭の得にもならない謎行動辞めてください。

 また徘徊老人だと通報されたいんですか」


「それよりアレの話をしてくれ」

「おじいさんちょっとアレ貸してください」


おばあさんはおじいさんの大きなアレを手に取ると、

大きなアレで拾ってきたアレをまっぷたつ。


中からは大きなアレが出てきました。


「これは驚いた。ばあさん、この子はアレから生まれたからアレ太郎にしよう」

「将来グレませんかね」


夫婦の予想とは裏腹に太郎はウルトラマンに憧れつつも、

健やかかつ真面目に大きくなっていきました。


「おじいさん、おばあさん。僕はアレを退治しにいってきます」


「本当に行くのかい? アレはとても危険なんだよ」

「困っている人を見過ごせません」


「それじゃ桃太郎、せめてアレを持っていきなさい」

「アレとは?」


おばあさんは台所から透明な袋に包まれたアレを持ってきました。


「これはね、一度口にすると病みつきになってしまうものだよ。

 私達はもうアゴの力が弱いから鼻からこう吸っているんだけどね。

 アレはきっとお前の力になるだろう」


「おばあさん、ありがとうございます」


「けして自分に使うんじゃないよ。依存性があるから旅どころじゃなくなっちちまうからね」


「わかりました」

「それと、アレをしているところは誰にも見られちゃいけないよ!!」

「は、はいっ」


桃太郎はアレと刀を脇に差してアレ退治へと向かいました。

道中のペットショップに寄ると犬がやってきました。


「アレ太郎さん、匂いで分かるぜ。持ってるんだろ。なぁ? 持ってるんだろぉ!?」


「な、なんだ……!?」


「腰についてるアレだよぉ! 早くくれよぉ! なんでもやる!」


「僕はアレ退治にいくんだ。ついていくというなら――」

「ついていく! だからはやくアレをくれよぉ!!」


食い気味に押されたアレ太郎は腰につけたアレを上げると、

犬は嬉しそうに食べるとあまりの美味しさに目をとろけさせた。


「ああ、なんて味だ。こんなの味わったらもうやめられねぇ!

 アレ太郎さん、もっと、もっとくれよ! なぁ!」


「わ、わかった。アレを退治したらもっと分けてやろう」

「本当だな!? 約束だぜ!?」


犬は瞳をハートの形にして桃太郎のお供となりました。


「アレ太郎さん、刀は汚れてないですか? なめてキレイにしますよ」

「アレ太郎さん、お疲れでしょう。少し休んでは?」

「アレ太郎さん、匂いだけでも。匂いだけでも嗅がせてくれねぇですか?」


「ええいうっとおしい!」


アレ太郎はストッパーとなるほかのお供を探すと、

マッチングアプリで知り合ったキジと、友人を介して行われた食事会でサルと出会いました。


例によってアレで手懐けたアレ太郎は、アレを漕いでアレのいるアレへと向かいました。


「あれがアレか……!」


眼前に迫る禍々しい気配にアレ太郎の刀を握る手が汗ばみます。


「みんな気を引き締めていこう。ここからが本当のアレだ!」


「桃太郎さん。アレをおっぱじめる前に一口、一口だけアレをいいですか?」


「犬。こんな状況で何を言ってるんだ」


「アレをしたらぐんと元気が出るんだよぉ。なぁいいだろ? 少しだけ」

「ここまで来たんだからちょっとくらいいいじゃないか」

「少し口にしたらすぐ辞めるから。な? な?」


犬猿雉の猛烈なアピールを断って戦意喪失されても困るため、

アレ太郎は腰につけた乾燥アレと吸引器具を出しました。


「アレがいるからな。さっさと済ませるんだぞ」


「ひゃあ! アレ太郎さん、ありがてぇ!」

「ますますがんばりますよ!」

「アレ太郎さん、期待しててくださいね!」


お供御三家はアレを入れたことで三段進化をとげ、アレへ上陸。

待ち構えていたアレに臆することなくアレ太郎と息を合わせた攻撃でアレをやっつけました。


しこたまこらしめられたアレたちはアレ太郎に謝罪会見で陳謝しました。


「アレ太郎さん、もう観念しました。許してください」


「もう人間からアレを取らないな?」


「はい、心を入れ替えました。もうアレはしません」


アレ太郎はアレからたくさんのアレを持ち帰っておじいさんおばあさんのもとに帰りました。

アレ太郎の凱旋に村総出で歓迎かと思いきや、村にはたくさんのアレが待ち構えていました。


「こ、これは……!? どうしてアレがこんなに……」


「アレ太郎さん、アレがバレたんじゃねぇですか!?」

「一旦川に行きましょう! 水浴びすれば匂いも取れます!」

「桃太郎さん、いつまで腰にアレつけてるんですか! 捨ててください!」


犬は恐怖で毛が白くなり、サルのおしりは真っ青に、キジの羽は色を失いました。

アレ太郎はあまりの恐怖に呆然としたまま動けません。


「……アレ太郎だな?」


すでに何もかもを悟った口ぶりでアレがアレを出しました。


「すべて調べはついている。お前が持っていたものも全部な」


「ちが……ちがうんです……これはおばあさんが……」


助けを求めるように送った視線の先でおばあさんは頭の上でバツを作っていました。


「私の孫じゃありません! 血の繋がりはないんです! 知らない子です!」

「ええええ!?」


「ということだ、アレ太郎。わかってるな?」


「あ……ああ……」


アレ太郎はもう言い逃れする言葉がありません。

なにせ腰に動かぬ証拠があるのですから。






「アレ太郎、銃刀法違反で逮捕する」



アレ太郎は腰につけた刀を差し出しました。

乾燥きびだんごは取調べ中にみんなでたべました。



めでたしめでたし。

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