第74話 アルフォート視点
手を振るバルトに対し、喉元まで、どうしたのかという言葉がせりあがってくる。
が、その言葉を飲み込み俺はバルトへと問いかけた。
「で、何が分かったんだ?」
本来用があれば、バルトは私の自室で待っている。
にも拘らず、今回はこうして私のことを待っていた。
それは、バルトがいち早く私に伝えたい情報を手にしたという何よりの証拠だった。
そんな私の考えを肯定するように笑い、バルトは告げる。
「エレノーラ様について、使用人達から聞いた話をお耳に入れておこうと思いまして」
「使用人達から? 真偽は確認できたのか?」
「いえ、これからです。ですが、確認する前にお伝えしておいた方がいいと思いまして」
そのバルトの言葉に、私は思わず目を瞠る。
バルトは不確かな情報を、ここまで早く持ってこようとすることはない。
故に、少し私は驚く。
「……いや、それだけ重要な情報を持ってきたということか。分かった話してくれ」
「分かりました。……とはいえ、未だ不確かな情報であることだけは頭に入れておいてください」
バルトは頷いた私に、そう念押しした後話し始めた。
「以前私とエレノーラ様の強欲令嬢という蔑称について話したことを覚えていますか?」
「ああ。あまりにも貴族社会に根付きすぎていることについての話か」
私の頭の中、かつてバルトと話した会話が蘇る。
エレノーラはたしかに普通の貴族令嬢とはいえない。
そもそも貴族が商売に手を出すことすら、貧乏人の悪あがきと見なされるこの貴族社会では、反発を買うのも当然だろう。
が、それを考慮しても強欲令嬢という蔑称の広がりようは異常だった。
いくら貴族社会に疎まれる行為をしていようが、エレノーラの商会の実績はただの貴族では無視できないほどのものだ。
にも拘らず、どの貴族もがエレノーラを強欲令嬢と蔑んでいた以前までの貴族社会は、明らかにおかしかった。
そのことについて、私はバルトと意見を交わしたことがあった。
が、それがどうバルトの話に繋がるのか分からず、私は問いかける。
「それがどうしたんだ?」
「……強欲令嬢の蔑称なのですが、出どころはエレノーラ様の実家の可能性があります」
「……なっ!?」
バルトの言葉に私は驚愕を隠せなかった。
エレノーラが伯爵家に虐げられてきたことは知っている。
それでも、それが真実であれば伯爵家を救ったエレノーラにたいする仕打ちとしては、あまりのひどいものだった。
本来であれば、決して信じられないことだ。
……だが、状況証拠からは伯爵家の関与を考えるべきであることに私は気づいていた。
異常な手柄をたてながら、貴族社会で受け入れられなかったエレノーラ。
その裏に、未婚の貴族令嬢にたいしては強い影響力を持つ伯爵家があれば、それも納得できるのだ。
「あくまで使用人の言葉ですが、エレノーラ様は平民の娘でもあるかもしれず、それ故に虐げられてきた。そう言っておりました」
「動機はそれか……。たしかに伯爵家が強欲令嬢という蔑称の広まり方も納得できる、か」
なぜ、バルトが不確かな情報を自分に伝えたのか、それを私が理解したのはそのときだった。
つまりバルトは警告しているのだ。
もし本当に伯爵家が強欲令嬢という名を広めていたのであれば、絶対に何か干渉してくると。
……その事を理解した私の顔は真剣なものになっていた。
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