第47話 ソーラス視点
「全て、全てお前が仕組んだのか……!」
そう叫びながら伸ばした私の手を、アルフォートは避けなかった。
簡単に私は、アルフォートの胸倉を掴むことに成功する。
その瞬間、相手は公爵家当主だという躊躇が、私の中から消え去った。
「ふざけるな! くそが! お前が、亡国の負け犬程度が!」
怒りで視界の端が赤くにじむ。
アルフォートの胸倉を、爪で自分の拳に痛みが走るほど強く握りしめる。
こいつが、全てを潰したのだ。
エレノーラを利用し、好き勝手に愛人と過ごす日々。
それは、こいつさえいなければ今もあったはずの未来。
が、この男が私の全てを奪った。
「殺してやる! エレノーラを、侯爵家の奴隷を奪いやがって! 何様だお前!」
アルフォートとの間にある机が、どうしようもなく邪魔だった。
これさえなければ、足踏みだしアルフォートを壁にぶつけてやったのに。
そう、かつてのエレノーラと同じように。
「なあ、バルト? これから何が起きても正当防衛ですむよな?」
……が、私の怒りを受けてなお、アルフォートの顔色は一切変わることはなかった。
「ええ。大丈夫かと」
「そうか。それなら遠慮は要らないな」
淡々と、背後にいる部下と会話を交わす。
アルフォートはまるで私を脅威と認識していなかった。
その姿に私の中で、何かが切れる音がした。
「くそがくそがくそがぁ!」
もはや、アルフォートの会話内容さえ私の頭の中にはなかった。
あるのは一つ、アルフォートに対する憎悪だけ。
「アルフォートォォォオ!」
それに身を任せ、私は机を踏みつけてアルフォートを掴む手へと力を入れる。
そして、そのままアルフォートを壁へと叩きつけようとして。
「──ッ!」
腹部に、突然衝撃が走ったのはその時だった。
一瞬、何が起きたのか分からず、私の動きが止まる。
次の瞬間、激痛が内臓からせり上がってきた。
「が……!」
衝撃と痛みで、息を吸うことができない。
その苦しみの中私は、アルフォートの胸倉を掴み続けることができなかった。
胸倉から手を離し、うつむいて腹部をかばいながら後ずさる。
その際目に入ってきたのは、アルフォートの手に握られた金属で作られた筒状の何かだった。
それを見て、ようやく私は理解する。
アルフォートに、あの筒状の何かで腹部を殴打されたのだと。
が、その思考さえも痛みの前に霧散していく。
「あ、あが」
その時の私は、自分の真後ろに椅子があることさえ忘れていた。
躓きバランスを崩し、ようやく思い出すが、今さら遅く椅子へと背中から倒れ込む。
しかし、アルフォートが私の後頭部にある髪を強く掴んだせいで、私の身体は空中で止まることとなった。
「いっ!」
後頭部の髪を掴まれことで、全体重が髪にかかり、私の口から悲鳴が漏れる。
あまりの痛みに、何とか髪をアルフォートの手から逃げようと暴れる。
が、動くと酷くなる痛みに、私の動きは鈍る。
……アルフォートが耳元で囁いたのは、その瞬間だった。
「暴力を使ったてことは、自分が受けることも覚悟の上だよな?」
「……ぅえ?」
そしてアルフォートは、私の髪を引っ張るのをやめ、下へと押しつけた。
目の前に、先程まで自分が足を乗っけていた机が迫る。
その光景に私は悟る。
……アルフォートは、私の顔を机に叩きつけようとしていることを。
背筋に冷たいものが走った。
頭の痛みも無視して必死に抵抗し、アルフォートの手を振り払おうとする。
が、全てがもう遅かった。
──次の瞬間私の顔は、机の上に叩きつけられることとなった。
◇◇◇
次回、暴力描写注意です。
描写が分かりにくい気がするので、また修正するかもしれないです。
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