第34話 ソーラス視点
「……公爵家のアルフォートが屋敷にやってきた、だと?」
突然の来客を私が告げられたのは、カーシャからのことだった。
「は、はは、つまらない冗談はやめてくれないか?」
最初、その言葉を私はただの冗談としか思わなかった。
……いや、そう思い込みたかった。
だが、私の願望はあっさりと否定される。
ただ、顔を青くして俯くカーシャの姿に、アルフォートがやってきたことが本当だと気付かされる。
「追い返せ!」
「……っ!」
その瞬間、辛うじて取り繕っていた冷静さは消え失せ、私はカーシャへとそう怒鳴りつけていた。
焦燥が頭を支配し、私はそれを呆然とするカーシャへとぶつける。
「私はいない、そう言って早くアルフォートを屋敷から追い出せ!」
「そ、そんなこと不可能です!」
「うるさい!」
カーシャの言葉通り、今さらアルフォートに居留守が使えはしないことぐらい私だって理解していた。
この場所に来たというならば、私がいることだってアルフォートは掴んでいるだろう。
それに、いくらメイド長であるカーシャであれ、高位貴族であるアルフォートを追い出すことなんて出来ない。
それを理解しながらも、私はカーシャに怒鳴る。
「私は侯爵家当主だぞ! いいから、早くアルフォートを追い出せ!」
なぜ公爵家がこの場所に乗り込んできたのか、私には分からない。
公爵家と本格的に問題に関して話し合うのは、もう少し先になるはずだと私は思い込んでいたのだから。
なのにアルフォートは、私の意表をつくように突然、侯爵家に押しかけてきたのだ。
ゆえに私は、どうしても今アルフォートと会うことを避けようとしていた。
エレノーラがおらず、まるで心の準備が出来ていない今、アルフォートと話し合うなんて心の準備など私には出来ていない。
こんな状況で、アルフォートと話し合うのは、絶対にごめんだ。
もう一度カーシャを怒鳴りつけ、アルフォートを追い出すように言いつけようと私は口を開く。
……若い男性のものと思われる声が響いたのはその時だった。
「何やら、騒がしいが何かあったのかい?」
今までの足掻きが全て無駄となったことを理解した私の顔から、一気に血の気が引くこととなった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます