第1話
「ん、んん!」
眩い光が感じ、私は目を開く。
目を開いた瞬間目に入ってくるのは開けた窓と、そこから見える街の景色。
それを寝起きの動かない頭のまま、呆然と見つめていた私は小さく口を開く。
「ここに来た時の夢を見るのは久々ね」
私は先程まで自分が見ていた夢へと意識を向ける。
それは、初めてこの屋敷に来た時の夢。
あれからもう2年が経ったことを改めて意識した私は、小さく笑った。
「……本当に、あの時の私は愚かだったのね」
窓から目を背けると、私の目に入ってきたのは綺麗な景色と対照的にぼろぼろな壁だった。
ぼろぼろなのは壁だけではない。
床に、机、私が寝ているベッドまでぼろぼろ。
それは仮にも侯爵家夫人である私の部屋には相応しくないものばかり。
それらの家具が、何より雄弁に今の私の対応を物語っていた。
変わらぬ光景に、私は顔を歪める。
「失礼します」
「っ!」
ノックもなしに、突然部屋の扉が開いたのはその時だった。
中に入ってきたのは侯爵家の侍女。
彼女は乱雑に机の上に食事を置くと、一礼さえすることなく部屋を後にする。
それは侍女として決して許される態度ではなかった。
表面上敬語は使っているものの、侍女が私に向けるのは紛れもない嘲りだった。
本来、私は侍女である彼女を雇っている側だ。
こんな態度を取られれば、すぐさま解雇するのが普通だろう。
だが私には、ベッドの上で唇を噛み締めて耐える。
侍女にどう声をかけようが、彼女は私の言葉を無視することを私は知っているからだ。
扉が閉まり、部屋の中を再び沈黙が支配する。
私は小さく言葉を告げる。
「なぜ、私は結婚すれば自分を見てくれる人がいるなんて思えたのかしら」
机の上に乗せられた、侯爵家夫人に出される食事とは到底思えない粗末な食事。
それを眺めて、私は過去の自分を嘲る。
使用人にさえ嘲られる侯爵家夫人。
それが、この2年間で私が得た立場だった……。
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