第2話
「……美味しくない」
机の上に置かれた食事を口に運び、私はぽつりとそう呟く。
これは明らかに、貴族が食べるものではなかった。
いや、使用人達だって食べないほど粗末なものだろう。
そんなものを食べさせてくる使用人達に思わず私は顔を歪め、けれどそれだけ。
全ての不満を胸の奥に覆い隠そうとする。
以前の私は、使用人達の食事を与えられる度、メイド長カーシャや、ソーラスに直訴しに行っていた。
……だが、その行動は全て無駄だった。
直訴した私に対し、カーシャは全てを黙殺し、
ソーラスはまるで信用しようとはしなかった。
それどころか、私の家族には問題なく尽くしてくれている、そう言われて追い払われる始末。
ソーラスにとっては、私は家族として見てすらないのだ。
全てが、どうしようもない状況だった。
本当なら、私だってこんな場所から逃げたいとさえ思っている。
逃げることが出来る先があるのであれば。
私が逃げることをお父様達、伯爵家は許さないだろう。
確かにソーラスのせいで侯爵家は評判はよくなく、常に問題を起こしている。
それでも、侯爵家の名は大きい。
その権限を享受するために、お父様は私が離縁したいと望んだとしても、決して許しはないだろう。
私に味方などいないのだから。
「せめて、マリーナがいてくれたら……」
私の頭に、1人の侍女の存在が浮かぶ。
元平民で、商会を立ち上げた時からの付き合いであるマリーナ、彼女は貴族社会の中で唯一の私の味方だった。
マリーナを帰らせなければ、ここまで孤独じゃ無かっただろうか、などという考えが私の頭に浮かぶ。
が、そんなこと不可能だったのを私は理解していた。
侯爵家に嫁いでから、私は使用人達からも敵視されている。
そんな中、マリーナを帰すことなくそばにいさせたら、彼女がどんな目にあうか考えるまでもない。
「……マリーナに会いたい」
なのに今の私は、マリーナを返してしまったことに対する強い後悔を胸の奥にしまい込むことが出来なかった。
長年の孤独で傷ついた私は、もう限界にまで近づいていた。
階段から何者かが、足早に駆け上がってくるのが聞こえたのはその時だった。
「っ!」
侍女が階段をこんな風に駆け上がってこないことを知っている私の胸に、一抹の希望が生まれる。
もしかしたら、マリーナがやってきてくれたのかもしれないという希望が。
「……っ!」
しかし、そんなわけがあるはずもなかった。
「エレノーラ、手をかせ!」
……次の瞬間、扉から姿を見せたのは、血相を変えたソーラスの姿だった。
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