虐げられた侯爵夫人は逃亡を決意しました〜破滅しようが知りません〜

陰茸

第一章 侯爵家編

プロローグ

「エレノーラ・マーレイト。私は君のような出しゃばりで強欲な女を妻と認めはしない」


 夫である侯爵家当主、ソーラス・ソーマライズが告げられたのは二年前。

 伯爵令嬢である私が、侯爵家に嫁ぎ屋敷に足を踏み入れたその瞬間だった。


 ……その言葉は、ようやく自分を認めてくれるかもしれない、なんて希望を持っていた私に強い衝撃を与えた。



 私だって、好きでこうなった訳ではなかった。

 本来であれば私も、妹と同じようにドレスを身にまとい貴族令嬢として過ごしたかった。

 だが、金銭難に陥っていた伯爵家を立て直す為には、貴族として領民から税金を搾り取ることしか考えない両親にとって変わり、お金を稼ぐしか無かっただけなのだ。

 結果、私は他の貴族達に疎まれるようになった。


 女の身でありながら、商人として動くはしたない女。

 または、でしゃばりで強欲な、女としての立場を分かっていない愚者。


 それが貴族社会の中、私を示す言葉。

 私が助けたはずの家族だって、そう私を呼ぶ。



 だから私は、この婚姻に希望を抱いていた。


 相手は問題をよく起こすと聞く侯爵家の時期当主。

 妹を溺愛する両親が、厄介払いするために多額の持参金を積んで私を嫁がせたことなんて分かっている。


 それを知りながらも、私は環境が変われば自分を見てくれる人が現れるのではないかと期待を抱いてしまった。


 私の夫となるはずのソーラスの言葉は、そんな私の淡い期待を粉々に打ち砕いた。


「それに、私には愛する人がいる。だから私には近づかないでくれ。いいな?」


 それだけ言って私の前から立ち去ったソーラス。

 二年前の私はそれを呆然と見送ることしか出来なかった。

 その時に出ていく決断をする勇気さえ、私にはなかった。


 ……なのに、私は最後まで心に希望を抱いていた。


 今回の縁談は、金銭難となった侯爵家に伯爵家から多額の持参金を持ち込んだことで強引に成り立った縁談だ。

 ソーラスの私へのイメージが悪くても、仕方ないことなのだと。


 私が、侯爵家の役に立つと分かれば、彼だって私を認めてくれると。


 そんなこと、ありえるわけが無かったのに……。


◇◇◇


【あとがき】


この度、6月に発売する拙作「パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき」の宣伝の意味も込め、カクヨムで新作を転載させて頂きます。

一話が短めではありますが、ある程度の期間2話投稿を続けていくつもりなので、よろしくお願いします!

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