第9話イオニアス王国のお国事情~騎士は王子様の愛玩犬になりたかった・1


―ドミニク視点―





オレの名前はドミニク=ビアホフ。


ごく普通の家に生まれたオレが、剣士として宮仕(みやづか)えしているのには、理由がある。


十三のとき家が火事になり、オレは命からがら助かった。


だがその火事でオレは両親を亡くした。


両親を失ったオレに世間は冷たく、行くあてもなく、食うものもなく、町を野良犬のようにさ迷っていた。


一週間飲まず食わずだったオレは、ついに力つき道ばたに倒れた。


何人もの大人が通りかかったが、みんなゴミを見る目で通りすぎていった。


死を覚悟したオレを助けてくださったのが、偶然通りかかったレヴィン王子様だ。


今は亡きお妃様と馬車に乗って町を散策してるとき、馬車の中からオレをみつけ、「母上、あれが欲しい~~!」とおねだりしたらしい。


倒れているオレを死体だと思ったお妃様は困惑したが、オレに息があるのが分かると、兵に命じ助けてくださった。


普通はそんなものを拾わないだろうが、そのときのレヴィン王子様のわがままっぷりは、すさまじかったらしい。


それでお妃様が折れて、オレを拾ってくださった。


なんでも数日前に亡くなったレヴィン王子様が飼い犬に、オレの髪の色が似ていたらしい。


オレはレヴィン王子様の、飼っていた犬の変わりだった。


犬の変わりだろうが、猫の変わりだろうが関係ない。


助けてもらった命だ、レヴィン王子様のためにつかうまで。


飼い犬の変わりに、レヴィン王子様にそい寝したり、お顔をペロペロしたりしていたら、お付きの兵にボッコボコにされて死にかけた。


当時三歳だったレヴィン王子様は、わがままなところはあったが、天使のように愛らしかった。


あんな可愛いらしい生き物を、愛でるなという方がムリだ。


でもまあ死んだら意味がないので、愛玩(あいがん)犬としてのポジションは早々にあきらめ、番犬か猟犬のポジションにつくことにした。



レヴィン王子様のお役に立とうと、死ぬ気で剣術を学んだ。自分で思っていた以上に才があり、レヴィン王子様の護衛をまかされるようになった。


レヴィン王子様は十八歳になられたいまでも、わがままだし、世間知らずだし、考え方の甘いお子様だけど、そこがまた可愛い。


どうせ仕えるならブサイクな脂ぎったオヤジより、可愛い子に仕えたい。


可愛い女の子なら完璧だが、まあぜいたくは言わない。


このさい可愛い男の子でも我慢しよう。





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