第8話水たまりをのぞいたらそこは異世界でした~金髪碧眼の王子様に一目ぼれしちゃいました・8
―レヴィン王子視点―
女神様を馬車に乗せ、ボクはドミニクと馬に二人のりし、シェーンフェルダー公爵邸へと戻る。
ドミニクとの二人のりは不本意(ふほんい)だが、女神様と同じ馬車に乗るわけにはいかないのでしかたない。
ちなみにボクが馬の前に乗り、ドミニクが後ろに乗り手綱(たずな)を握っている。
「どうせなら可愛い女の子と二人のりがしたかった……」
ドミニクがため息をつく。
「なにか言ったか?」
「いえなにも」
「ボクだって従者と二人のりなんて嫌だ。なんならおまえだけ馬を下りて、歩いて帰ってもいいんだぞ?」
わざといじわるく言う。
「そんな殺生なぁ~~」
ドミニクが泣きそうな声を上げる。
湖からシェーンフェルダー公爵家までは、かなりの距離だ。
鍛えているとはいえ、歩いて帰るのはしんどいだろう。
それにしても、ボクは隣を走る馬車をチラリと見る。
ボクの視線に気づき、女神様が笑顔で手をふる。
心臓がドキドキして、それ以上はみていられなくて、視線を逸らす。
女神様に感じが悪いと思われただろうか?
この世界にはない黒い髪と黒い瞳、美しいというよりは愛らしいという言葉が似合う少女。
彼女は生まれたままの姿でボクの前に現れ、ボクの心を奪っていった。
「そんなに気になるなら、女神様と一緒に馬車に乗られたらどうですか?」
「バカをいうな、相手は女神様だぞ、そんな不敬(ふけい)がゆるされるか!」
「おかたいですね~~、レヴィン王子様は」
ドミニクがからかうように言う。
やはりこいつだけ、歩いて帰らせようか?
「命が惜しいなら口をつつしめ、分かっているだろう? 女神様は時の国王の……」
「分かっておりますよ、それくらい」
そのあと、ドミニクは何も話さなかった。
ボクも何も口にしなかった。
女神様は時の王のもの。
伝説では【女神の与える愛で、国王の気力が満ち、国の憂(うれ)いをはらい、繁栄をもたらす】と言われている。
王が子宝に恵まれないことが、不吉なこととさるているこの国において、王が世継ぎに恵まれないことは廃位(はいい)を意味する。
女神の与える愛で、国王の気力が満ちるとは、子作りのこと。
いまの王は十年間、子宝に恵まれていない。世継ぎがいない王が、絶妙なタイミングで現れた女神を、見のがすハズがない。
女神の存在を報告しなければ、ボクは殺され、シェーンフェルダー公爵家は取りつぶされるだろう。
あの冷酷無比(れいこくむひ)な兄上のことだ、取りつぶされた家のものは、使用人にいたるまで皆殺しにされるだろう。
それが実の母が出た家だろうと、容赦はしない。それがあの男、レオポルド・レクレール=イオニアス国王だ。
偶然のとはいえ、女神と接触してしまったが、これ以上は彼女と関わらない方がいいだろう。
関われば女神の愛を略奪(りゃくだつ)しようとした罪に問われ、ボクの命はない。
今ならきっとおさえられる、このほのかな恋心を。
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