ミドルフェイズ:シーン3「ガオー」

自分の体が何かに侵蝕されていく。また一つ、人間であることを手放した。


GM:血濡れた炎天下をどれだけ歩いたことでしょう。まもなくして、病院が見えてきました。とはいえ、総合病院のようなものではなく、小さなものではありますが……。誰かいるでしょうか?

紫苑:「あ、病院だ! 日葵、病院だよ」

 手を引きながら歩いて、顔を隠しつつ中に声をかけます。

 「だ、だれか……だれかいませんか……?」おそるおそるのぞき込む。

夏時日葵:「病院? よかった……!」

GM:病院内には誰もいません。鍵もかかっていません。クーラーが利いていて涼しいです。ですが、病院内は荒らされています。ちょうど、化け物が暴れたかのように。しかしここには化け物はいないようです。

 消毒液やガーゼや包帯などの医療器具があるので、ひとまず日葵さんを手当てできることでしょう。判定は不要です。効くかどうかはわかりませんが、痛み止めもあるみたいですね。

紫苑:「ここには、誰もいないみたい……でも、手当はできそうだね。休憩もかねて治療しよう、ね」そう言ってベッドの上に日葵を寝かせます。

夏時日葵:「ん、ありがと」

紫苑:包帯とかを持ってきて、あと痛み止めは使うかどうか聞いてみよう。

 「痛み止めもあったけど、使う? これで少しは和らぐといいんだけど…」

夏時日葵:「ありがとう、あるなら使っとこうかな……」

GM:日葵さんの顔色は悪いです。

 見えない恐怖と不安、血の匂いとバケモノの息遣いと、そして猛暑の中を歩いてきたことで、心身ともに負荷がかかっているのでしょう。縋れるものには、すがりたいのでしょう。

紫苑:紫苑は、そんな日葵を見て両手で彼女の手をぎゅっと握ります。

 「だ、大丈夫! 日葵は、ぼくが安全な場所に絶対に届ける、から!」

 少し、声を大きくして。自分を奮い立たせる意味でも言葉にした。そこで、気が付いた。日葵の右手の薬指に輝く何か。

 「…………え?」

GM:きらりと、何かが光ります。誰だって、その意味は、理解してしまうのでしょう。理解したくなくても。

夏時日葵:「……どうしたの?」

紫苑:「ひ、日葵、その、ゆ、指輪…って…」

 声にどんどん力が抜けていく。こんなにもあっさり。

夏時日葵:「あ、これ、は、……婚約指輪。もらったんだ」

紫苑:「…………」なにも返すことができない。

GM:日葵さんも、それ以上は何も言いません。重い空気が流れます。

 さて、紫苑さん。お伝えしてませんでしたが、日葵さんの治療をしていて気づいたことがあります。

紫苑:はい…

GM:日葵さんの目は、完全に損傷しています。その視力は、二度と戻らないでしょう。

 ぽつりと、「いたい」とだけ、聞こえました。

紫苑:「…ちょっとしたら、人を探しにまた、歩く、から。ぼくは、ちょっと、電話とか繋がらないか試してみる」

 震える声色で、なんとかそれだけ告げると病室を後にします。

 ちょっと離れて荒らされたロビーの端でへたり込んで、ドロドロに溶けた醜い顔をさらに歪ませて、溶けた肉と涙でぐちゃぐちゃになりながら泣きます。

 「う、うあ…うあああ…う、ぐ、ふぅ…」

GM:その声は、誰にも届くことはありません。ただただ、ロビーに虚しく、響くのでした。

 さて、ちょうどおひとりになったので、ちょっとしたシステム上の判定というか。<調達>or<知覚>難易度6に成功で、応急手当キットが入手できます。

紫苑:やります!

GM:どちらでもどうぞ!

紫苑:<調達>でいきますー(ころころ→8)

GM:よしよし これで自分の治療ができる、という感じですね。

紫苑:今使ってもいいですか?

GM:大丈夫です!

紫苑:わーい! では使います!(ころころ→15)

GM:いいぞー

 しばらく泣き崩れて、それでも。今ご自分に出来ることをしないと、いけませんね。

紫苑:ですね。

GM:色々あって1人でロビーに出てきてしまってましたね……

 早々に戻ってもいいですし、何か葛藤して頂いても大丈夫ですが……?

紫苑:メンタル弱男めー。涙を拭いて、ちょっとしたら戻ります。

GM:はーい では「電話とか繋がらないか~」と仰ってたので、日葵さんが「どうだった?」って声をかけてきますかね 泣いていたことは……知らない……

紫苑:目も見えないからなあー……。

GM:ざっつらいと……

紫苑:泣いてたことを悟られないように心がけながら

 「ごめん……、だめだった。人も……。そろそろまた外に戻ろうと思うけど、大丈夫?」

夏時日葵:「そっか……。戻るのは大丈夫、紫苑は平気?」

紫苑:「……ぼくは、大丈夫。まだ、大丈夫なはず、まだ、まだ……」

 自分に言い聞かせるように言って、ふらふらと日葵さんの手を取って歩き始めます。

GM:では、歩き出そうとしたところでですね、音が聞こえます。

紫苑:うおお (音を聞いて)ヘリ?かな

GM:b

 紫苑さん、あなたはヘリの音を聞きます。窓などから空を見れば、軍隊のものらしいヘリが飛んでいくのが見えます。自衛隊? 助けに来てくれたのでしょうか?

紫苑:音は日葵さんにも聞こえてるはずだから話しかけますね。

 「ヘリが飛んでる! 人は、いるみたい。でも一体どこに? どこかで集まってるのかな」

 窓をのぞいてヘリの飛んでいく方向を見てみます。

GM:お、では日葵さんが少しだけ声色を明るくしますね。

夏時日葵:「ヘリ? もしかして助けが来たのかも! 呼んでみる?」

紫苑:「よ、呼ぶ……」

 (日葵の目のこともあるし、呼んだ方が、絶対いいよね。でも、ぼくは、こんな顔だし……)

 少しぐるぐる色々考えて、日葵さんの顔を見てから、決意して

 「そうだね、呼ぼう」

 (きっと、話せばわかってくれる、はず、そう信じるしかない……)

GM:いい決断です。では、あなたは窓からヘリの方へ向かい、声を出します。

 しかし、その声は、人間のソレではなく、おぞましい化け物の咆哮として響き渡ります。助けて――そんな想いを力いっぱい込めるほどに。

 夏の空に化け物の声が虚しく響きます。そしてヘリは遠くへ飛んで行ってしまいました。

夏時日葵:「なっ、なに!? 今の声!?」

GM:小さい声なら普通に喋れるのに。少しずつ、人間ではなくなっているのかも知れませんね。

紫苑:声を上げて、自分でも驚く。助けてほしいって思って声を上げただけ、のはずだったのに。

 「あ、ああ……」小さい声でうめいて、頭を押さえながらちょっと前に考えた淡い願いがどんどん黒ずんでいく。

 (やっぱり、ぼくは、もう。もう人間じゃないんだ。きっともうじき高橋君みたいに……)

 日葵さんの顔を見て、それからその手にはまる指輪を見てまた思考が黒くなっていく。

 (日葵を助けたって、もうぼくを振り向いてくれやしない。それなのに、こんなことして意味があるのか?)

 心の中の悪魔がささやいている。こんなこと考えたくないのに。でも、ぼくが何もできないでいたあの日、光を、手を差し伸べてくれたのは確かに日葵だけだった。

 そんな、日葵のことが好きだ。その気持ちは今でも変わらない。この気持ちが変わってしまう前に、本当の化物になってしまう前に、ぼくはその恩返しをしないといけない。

 だから、「ば、化物だ。日葵、ここは危険だ。早く、病院を出よう。大丈夫。きっと安全な場所はある。そこに絶対ぼくが送るから、行こう」

 日葵の手を固く握って、離さないように歩き始めます。

夏時日葵:「う、うん。分かった……!」

GM:決意が伝わったのかも知れません。固く握られた手を握り返し、日葵さんは後をついてきてくれました。

 あのヘリが自衛隊のものなら、飛んで行った方に向かえば、助けてもらえるかもしれません。自分は化け物として撃ち殺されてしまうかもしれないけれど……まだ人間の日葵さんなら。

 という感じでシーンを閉めても?

紫苑:大丈夫です!

GM:b ヘリが飛んで行ったのは裏山の方向です。ここからは……なかなか遠い。

 それでも、一縷の希望を信じるしか、できません。

 シーンを変えていきましょう。

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