ナブラの希望

「え?

ねえ……、

ママも押入れの異界に行ったことあるってホントに?

それはいったいどういうことなの?」

ナブラは母親の予想外の言葉に耳を疑った。



「本当よ。

私は物心ついた頃に

そのミケーネの少年……、

え~とラプラシアンくんだっけ?

ナブラがその男の子が持ってたっていう

光る石、その石はたぶん私が持っている石と同じものだと思うから」


「本当に?

今もあるの?」


「まあまあ、ナブラ落ち着いて。

夕食の片付けが終わった後で物置から探して来てあげるからそれまで待っててね」


「うん、わかったよママ。

ママ、洗い物手伝うよ!」


「あらあら、いつもはお姉ちゃんが手伝ってくれているのに、今日は弟のあなたが手伝ってくれるなんてどういう風の吹き回しかしら?」


「酷いよ、ママ!

僕だってお手伝いくらいするよ!」

ナブラの洗い物のお手伝いはラプラシアンを少しでも早く助けたい一心の行動だった。


 危険だからという理由で母に引き留められたくないと言う事情から、

結局、ナブラは母に理由を言えなかった。



「ナブラ、この石よ!

見つかったわ!」


「え? 見せて!」


「この石なんだけど、

ナブラが異界で男の子から見せてもらった

石と同じ?」


「うん、これこれ!

ママ、これ同じ石だよ!」


「ママ?

実はさ、お願いがあるんだけど……」


「どうしたの?

ナブラ?」


「その石を使えば僕はもう一度あの異界へ行けるのかな?

ママは知ってる?」


「行けるだろうけど、でもナブラはどうして

もう一度あの異界に行きたいと思うの?」



「実は僕、もう一度ラプラシアンと会った異界に行きたいんだ!」


「…………」

母親はしばらくナブラの表情を観察すると続けた。

「そっか、ナブラはラプラシアンっていうお友達を助けに行きたい訳ね?」


「え?

どうしてママは僕の考えていることがわかったの?」


「私はあなたの母親よ!

あなたが早く異界に行きたいって焦ってる

気持ち私にはバレバレよ。

あなたが異界の事でそこまで慌てるとしたらそれしか考えられないわ」


「ばれてたんだ。

うん、そうなんだ。

ママ、僕をその光る石で異世界に送って!」


「ナブラあなたたった一人で助けに行くの?

そんなの駄目、危険よ!」


「そんな!

異世界の僕の友達の命がかかってるんだよ?

ママ!」



「まあまあ、ナブラ落ち着いて。

私はあなた一人では行かせられないって行っただけで、助けに行ったら駄目とは言ってないわ!」



「え?じゃあママと一緒なら助けに行ってもいいの?」



「う~ん、半分正解。

実はこの石はね、説明が難しくなるけど

異世界に送った人と送り還した人が記憶されちゃうの。

だから、一度異世界に行って還って来た人に対してはもう力は働かないの。

私はこの石を昔お母さんにもらった後、

一度使ってしまっているから、

もう私自身は異世界には行けないの。


だから、あなたに母さんからもらったこの

石をあげる。

そしてね、あなただけじゃなく、

あなたの話を信じないパパとお姉ちゃんにも行ってもらうわ。


「お姉ちゃん、それにパパ?」

母親の話が終わるタイミングで姉と父親が部屋に入って来た。


「ナブラ?

お母さんから話は聞いたわ。

あんたの言ってたこと信じずにバカにしてごめんね……」


「お姉ちゃん、仕方ないよ」


「父さんも、ナブラのこと信じてあげられずに

本当にごめんな……」


「パパも、大丈夫だよ。

押入れに異世界があるなんて普通は信じられなきくても無理ないし、それに今信じてくれたから

僕はそれでじゅうぶん」


「ナブラありがとう」

「ナブラ、ありがとうな」


こうして、

ナブラはもう一度、

今回は父親と姉と三人で

ラプラシアン少年のいる異世界へ向かうことになった。

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