無知で無力な自分

ナブラは押し入れの中を執拗にくまなく調べてはみたが、自分がついさっきまでいた異界への入口は全く見つからなかった。


「ねえ、ナブラ。

それだけ探せばもう気が済んだでしょ?」


「お姉ちゃん、信じて!

僕ね、ホントにこの押入れからついさっきまで

異世界に行ってたんだよ!」


「ナブラ……」

ナブラの姉は真剣な瞳で訴えかけてくる

弟に対し、かける言葉がすぐにはみつから無かった。


「お姉ちゃん、信じてよ!

お願い……」


「私、ナブラを信じないとは言わない。

だけどね、ナブラあんたは疲れているんじゃない?」


「疲れてなんかいないよ!

僕はホントにね、……」


「ただいま~!」

ナブラと姉が話す部屋の淀んだ空気は、

玄関からのただいまの一声で換気され

二人は我に返った。


「パパだ!」


「ちょうどいいんじゃない?

ナブラ、パパにも聞いてみなさいな!」


「もちろん聞くよ!

ねえパパー! 聞いてよ!」

ナブラは走って玄関に向かうと、

さっそく父親を押入れの部屋に連れていき、

異世界のことを話した。


「ナブラ、父さんはナブラのことを信じていない訳じゃ無いんだ。

だけどな、ナブラは今はまだ習い事に行ってる時間だろ?

習い事をサボって

遊ぶことについては父さん関心しないな……」


「結果的に習い事はサボったのはごめん……なさい。

でもね、僕遊んでた訳じゃ無いんだ!」


「遊んでたんじゃないのか!

じゃあ今まで何をしていたんだ?」


「パパ、私さっきナブラに聞いたんだけどね……」

ナブラの代わりに姉が父親に理由を説明した。


「ナブラ、お前疲れているんじゃないか?」


「私もそう思うよ、ナブラ」


「パパも、お姉ちゃんまで!

もういいよ!

しばらく僕一人にさせて」

ナブラは姉と父親にそう言うと、

しばらくの時間

押入れのある部屋に一人閉じ込もった。


「う、う、うえ~ん!!」

ナブラは一人になるやいなや深く深く泣き出した。


姉や親に異世界を信じてもらえない自分が悲しい訳じゃなくて、

僕を助ける為にラプラシアンが一人残ってくれたことに気付きもせず、感謝もせず、

自分だけでのこのこ還って来た自分の心が悲しかった。

そして、ラプラシアンをなんとか助け出す方法の知恵を姉や父親に相談出来ないこと、

そして、説明が不器用で自分の真剣で追い詰められた気持ちを上手に伝えられない自分が情けなくて悔しくて仕方なかった。



翌日。

「みんな、ただいま~!」

「ママだ!」

出張から母親が帰ってきた。


「ねえ、ナブラ?

あんた、あのことママに聞いてみないの?」


「お姉ちゃん信じてくれなかったじゃん。

それにパパだって」


「それは……ごめん」


「別にいいよ」


「ねえ、どうしたの二人とも?

浮かない顔してるわね」


「何でもないよ、ママ!」


「ねえママ、

ナブラが押入れから異界に行ったって言うのよ!」


「お姉ちゃん、言わなくていいってば!」


「え?」

母親からは意外にも、

押入れの異界についてリアクションや意見は無かった。


そして、夕飯の後、ナブラは一人母親に呼ばれた。


「どうしたの、ママ?

テストの答案はこの前見せたよね?」


「ううん、違うの」

母親は首を横に振ると続けた。


「私も昔ね、ナブラの様に異世界に行ったことがあるのよ」








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