消えた異界

「そ……それはね、

この石はボクがここでこうやっって光らせてないと役にたたないんだ。

だから、ボクがこうしてる間にキミが

行ってきて!」


「え、でも……」


「キミは元の世界の住人だから

どんなものが役にたつかボクより詳しいだろ?

お願いだから早く!

この石の光が見張りに気づかれたら

せっかくの希望もなくなっちうんだよ!

この意味、キミならわかってくれるだろ?」



「う……、くそ~!!

わかったよ!」

ナブラは嫌々ながらも吹っ切れて、

ラプラシアンの提案にのることにした。


「ラプラシアン。

僕がここに戻ってくるまで絶対に無事でいて!」


「ああ、もちろんさ!

ボクを信じて頑張って来い!」


「うん! 出来るだけ早く戻って来るからね。

行ってきます!」


ナブラはラプラシアンに最後にそう言い残し、

元の世界の押し入れへと繋がる異空間へ飛び込んだ。


「ピコーン! ピコーン!」

「あれ?

ここは何処だ?

病院?」

ナブラの周りの視界はシャワールームの磨りガラスのように そのほとんどがボヤけていた。

しかし、病院で耳にする心拍を測る装置のような音が聴こえたことで、

自分が今いる場所がどうやら病院か研究室であろうことまでは想像することができた。


「あれ、押し入れの出入口はどっちの方向だったっけ?

見当たらないな?

それにどうして?

さっきまでは大丈夫だったのに……」

ナブラはますます焦っていた。

押し入れの出入口が見つからないだけでなく、

体が全く動かなかったから。

「え? え?」

ナブラは自分の全身を見回してみたが

自分の胴体、手足は感覚こそあれ

全く見えなかった。

時間とともに目が馴染んできて、

磨りガラスのような周りの景色のボヤけは減り鮮明になってはきたが、

その分鮮明に見えてきた真相はナブラにとって驚くべきもので決して容易に理解できるものでは無かった。

「僕、この透明な水槽にずっとただ浮かんでる?」

ナブラが驚くのも無理は無かった。

ナブラが見渡す周りにはどこまでも巨大で透明な水槽が広がり、電極を埋め込まれた脳ミソで埋めつくされていた。


「ここは何処なの?

僕はこれからどうなっちゃうの?」

ナブラは当然焦り慌てふためいた。


「ピー!ピー!ピー!ピー!」

ナブラの心拍の早さに呼応して

装置の音も変わった。


「え? 何々?」

すると、瞬く間に工場にあるような器用なアームロボットの手がナブラめがけて飛び込んできた。


「あ~!」

ナブラはそのあまりに突然で素早い動きに対処しきれず、その場で強く目をつむり縮こまった。


「ブイーン!

ブイーン、ブイーン」


「あれ? なんともない」

ナブラはそれから直ぐに目を開けたが、

ロボットのアームはナブラを通り過ぎたようだ。


「僕、助かったのかな?」


「グサッ!!」

「い、痛~い!!」

ナブラは後ろから何者かに奇襲され、

後頭部に注射をされたような痛みを感じた。


「頭がくらくらする~。

気分が悪い、僕今熱があるのかな?

意識が……」





「は!?」

どれくらいの時間眠っていたのだろう?

ナブラが意識を取り戻すと

そこは自分の部屋のベッドの上だった。



◇ラプラシアン。

僕がここに戻ってくるまで絶対に無事でいて!◇


◇ああ、もちろんさ!

ボクを信じて頑張って来い!◇


「そうだ!

早くラプラシアンを助けに行かなきゃ!」


ナブラはラプラシアンと交わした最後の言葉を思い出した。

ナブラは急いでラプラシアンのピンチを救えそうなものを家中探し回ったが

そもそも何が役にたつのかさえよくわからなかった。


「ねえナブラ?

あんたさっきから何を探してるの?」


「お姉ちゃん、実はね……」

ナブラの姉は、例えるとすれば体育会系な明るい少女と言う感じだろうか。

体格はやや身長低めなスレンダーで華奢。

若さ溢れるイキイキとした大きくて綺麗な瞳、

髪は艶のある黒髪ショートの姉は、誰とでも話せる明るく積極的な性格だった。

ナブラは姉と話すとき、姉のポジティブで元気すぎるオーラが

苦手であまり話したくはなかった。


繊細で虚弱体質でナメクジのようにウジウジした自分とは対照的で住む世界が違うとコンプレックスに感じていたのだ。


ナブラは姉に異世界とラプラシアンのことを説明した。


「アハハ、ハハハ、ハハハ!」


「ちょっとお姉ちゃん!

どうして笑うのさー!」


「ごめんごめん!

でもさ、あんたが真顔であまりにも突拍子も無いこと言うからよ」


「僕も最初は信じられなかったから

突拍子も無いって驚かれるのわかるけど

本当なんだ!

信じてよ、お姉ちゃん!」


「ねえ、ナブラ?

あんた熱でもあるんじゃない?

そうでなかったらきっと疲れてるのよ?

ゲームのし過ぎじゃない?」


「いいよ!お姉ちゃん?

僕の部屋についてきて!」


「あ、うん」

ナブラは弟の気迫に圧倒されて大人しくなった姉を押入れのところに連れていき、自分が押入れの異世界に行ったことを証明することにした。



「ナブラ?

それで?

異世界っていうのは何処にあるのよ?」


「ど、どうして……?」

しかし、押入れの中に

異世界などは元々存在していなかった。



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