デバッグ

「あれ?

俺……、生きてる。


やったー!


なあ、アンナいる~?

……アンナ、どこ?」


ポラリスは

アンナがいないことがわかり、

三日三晩探し回ったがみつからった。



「アンナ~!

何処にいるの~!」

ポラリスは見晴らしのいい高台に登り、

声がかれて出なくなるまで何度も何度もアンナに

向かって叫び続けた。



『諦めなさい』



「お前誰だ!?」

突然、ポラリスの心の中で

直接自分そっくりの声の男が語りはじめた。



『私は素数空。

悪いことは言いません、

アンナの事は諦めなさい』



「諦めるなんでできる訳ないだろ?

…………!

お前、今アンナって言ってたよな?


アンナの事知ってるんなら

あいつの居場所知ってるんだろ?

教えろよ」



「もちろん知っています。

だが、あなたがアンナとまた会ったところで、

エラーは既に修正されようとしているのです」




「エラーがどうこうなんて俺には難しいことは解らないが、

アンナに一目でいい、会わせてくれよ!」




「そこまでしてアンナに会いたいのですね。

わかりました。

ただし、遠目から静かに見守るだけです。

アンナには絶対に触れてはいけません。

もしもら触れてしまえば、

あなたは記憶を失い

遠い次元へ飛ばされてしまうでしょう。

それでもあなたは行きますか?」



「ああ」

ポラリスの答えは決まっていた。


「では、あなたの姿がアンナに見つかっても、

あなたがポラリスだとわからないように、

違う姿に変えておきましょう」


「ま、眩しい!!」

次の瞬間、ポラリスは自分の変わり果てた姿にその目を疑った。


「何だ、この女みたいな姿は!?」


「あなたをこの姿に選んだのにはちゃんと理由があります」


「理由とは何だよ!」


「この少女は次元に関わる特別な能力を持っています。

そして、その能力によってアンナとあなたを

一つの対称性として一時的にですが関係付けることができます」


「どういう意味だ?」


「詳しくは言えません。

さ、早く私の能力が及んでいる内に……」


「おい、ちょっと待て」

ポラリスは素数空を引き留めようとしたが、

既に消えて見えなくなってしまった。



「お~い!

アンナ、どこだ~?」

ポラリスは素数空が目の前から消えた時に、

同時にアンナのいる19万6883次元まで送ってもらっていた。


ポラリスはアンナを探して次元の中を深くさ迷っていた。



「あ!いた!

お~い!アンナ~!

ア……」

ポラリスは素数空との約束を思い出し、

急いでその口を手で塞いだ。



(アンナ………………)

ポラリスは遠目から

しばらくアンナの顔をじっと観察していた。


アンナの表情からは、以前の明るさは消えうせ、

死んだ魚の様に生気が失われていた。


「おや?」

ポラリスは、

そんな生気の抜けた表情のアンナの

両目が普段より赤くなっている変化を

見逃さなかった。

「アンナ?

お前泣いているのか……?」




「誰!?

その声はポラリス!」



「アンナ!」



「近、近づかないで!

それ以上私に近づいたら殺すわよ!」

アンナは、結晶の鋭い先端で

自分に近づこうとするポラリスを脅し

追い返そうとした。


アンナの心は泣いていた……。


ポラリスはダルマに、

アンナには決して触れないよう

きつく忠告されていたが、

泣いているアンナに見て見ぬふりをするなんて

我慢できなかった。


ポラリスは、

泣きながら結晶の先端を向け続けるアンナ

に体中を串刺しにされ血だらけになりながらも、

彼女の手をしっかりと掴み、

そして抱きしめながら言った。


「泣くなよ、アンナ。

俺の為を思ってくれたんだよな。

そして、本当に辛い思いや悲しい思いをさせてごめんな。

残念だけど今の俺にはお前を助け出す力は無いんだ。

でもな、俺はいつか必ずお前を助けにくる」



「ポラリス……」



「ビュュュュン!!」

突然、地面の方から物凄く激しい突風がポラリスを襲った。

ポラリスが慌て周りを見渡すと、

二人の遥か頭上に

高次元ブラックホールが現れていた。


(このブラックホール、

アンナは吸い込もうとしない……。

どうして?)


ポラリスはアンナの両手をしっかり掴み

しばらくは耐えていたが、

それも限界になりつつあった。



「ポラリス、ごめんなさい……」

不意にアンナはそう言ってポラリスに謝った。



「え? どうしてお前が謝るんだ?」



「このブラックホールは私がお願いをして作ってもらったものなの。

イレギュラーなエラーを、バグを正常に戻す為に……」




「エラー、バグってどういうことだ?

なあ、アンナ?」




「ブラックホールはあなたを消したりはしないわ。

あなたの記憶も含めて全て

に、

戻るから……、


今までたくさんの楽しい思い出ありがとう、

ポラリス」

アンナは泣きながらそう言うと、

ゆっくりと手を話した。



「アンナー!!!!」


ブラックホールはポラリスだけを飲み込み、

消えてしまった。


——————————————————————

↑【登場人物】

•ポラリス

素数空ダルマ

•アンナ

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