黒幕 

巨大結晶のある次元にたどりつき、真智達はとにかく愛理栖がいないか手分けして探し回った。


◇よう! えみたん じゃないか?◇


突然、男性の等身大のホログラムが真智達四人の目の前に現れた。



「その声は貴様か? 薄井うすい休一きゅういち!」


薄井うすいじゃな~い!!

月水げすいだ。

君のその失礼極まりない態度は昔と全然変わって無いようだね。

えみたん◇



「だから、その呼び方はキモいから止めろて昔から行ってるやんけ!」



「谷先生、この人と知り合いなんですか?」

真智は先生に理由を尋ねた。



「こいつは、うちが卒業した大学の元クラスメートや。

今では世界的な素粒子物理学者で、

理論をまるでヘアースタイルのように

自由に操る様から、

奴は 素粒子のカリスマ美容師と言われているんや。



「名前は 休一きゅういち? え~と、

あ! 一休さんですよね?」



◇うわ~それを言うな~!◇

月水と名乗る男はうめきだした。



「あーもう!

だいぶ話が脱線したから単刀直入に聞くで。

うちらの街をあんな風にめちゃくちゃにしたのは月水げすい、あんたか?」


◇ま~半分正解だね◇


「半分?

どういうことや……?」


◇君たちの街がめちゃくちゃになった大元の責任は

君たちにある◇


「うちらに?

それは何故や?」


◇君たちがあの少女が住む19万6883次元に興味本位で行ったりしたから、

関係が生まれ巻き込まれてしまったんだよ◇


「あの少女だと?」


◇僕があの娘の暴走のきっかけを作ってしまったのは

素直に認めるよ◇


「きっかけだと?」



◇僕はこれでも各国の首脳と繋がりがあってね、

数理研究の質の見直しを進言して回っているんだ……◇


「ああ、うちは知ってる!

お前のせいでうちはアメリカとイギリスの大学、

清都大学からお払い箱にされたからな!」


◇わかってくれよ~、

君の宇宙の本質を探す基礎研究は、僕達の研究の依頼主である

国家やパトロンの実益に繋がらないじゃないか?◇


「だからってきさまはうちのように基礎研究をメインに扱う世界中の数理学者達を弾圧しているのか?」


◇弾圧なんてひどいな~、

僕はちゃんと、一人も漏らす事無く再雇用先の大学も手配しているんだよ◇


「貴様~!

それで、うちのように物理や数学から宇宙の本質を研究する学者達の研究をやめさせて原子力の研究をさせているんだな?」


◇そうだよ。

まあまあ、えみたん落ち着いて。

君はまるで、量子論のコペンハーゲン解釈に神はサイコロを振らないって言って駄々をこねたアインシュタインみたいだよ。

不確定性原理で真相は絶対に知ることが出来ない事は逆説的に

証明され科学者達はみんはそれに反論できないんじゃないか?

もう科学が心理を探し夢をみるバブル時代は終わったんだよ。

だから僕はね、君も早く 実在論的基礎研究ゆめから覚めてスポンサーからの需要と資金提供があっての実証論的研究をすべきだと思うんだ。

ね? これが一番合理的ですばらしいことだろう?◇


「ふざけるな!

それに、お前は科学者としての大切な心を無くしている!

お前のやっていることは

核兵器、軍事利用だろ!

お前はパトロンの為なら戦争という人殺しにだって平気で加担するのか?

答えろ!」


◇科学者の戦争への加担は沢山の前例があって何も

今に始まったことじゃないよ。

それに、インターネットのようにそこから生み出された技術が今の便利な暮らしに役にたっている例だってたくさんあるんだ。

それと、僕は原子力の研究分野で原子力発電だって推進しているんた。


あとは、教科書の内容を……◇


「教科書?

月水げすい! お前だな?」

谷先生は泣きながらそう言い続けた。


「お国の都合とかで、数学や科学の本当の楽しさを子供達に教えないのは!


うちら大人の勝手な都合で、子供達の未来を、可能性を奪うなよ!」


◇まあまあ落ち着きたまえ◇


「お前忘れたんか?

うちとお前に科学と数学の楽しさを教えてくれた先生を……。

先生は、実験の準備で休日も返上し、

学校の方針に逆らって自分の立場を危うくしてまで、

そこまでして、うちら二人に数学の、科学の、本当の楽しさを教えてくれたやないか?」


◇恩師の先生には感謝している。

でも、それは過去だよ◇


「過去だと?」


◇とにかく、僕は少女の暴走のきっかけを作ってしまっただけなんだ。

元に戻すには、その少女に頼むしかない。

それじゃ僕は忙しいから失礼するよ◇


「コラ待て! 月水げすい!」

谷先生は月水げすいって言う人を引き留めようとしたが、

もうその人は消えた後だった。


真智は愛理栖探しを再開し辺りを見渡した。


「あ、グリ? 何してるの?」


「…………」


グリは真智の質問には何も答えず、

ただ、真剣に巨大結晶に向かい合い、

反射して映る自分の姿をじっと見つめているようだった。


そして、グリはそっと右手で直接結晶に触れた。


「キュュュュ~ン!」

突然、グリの目の前の結晶にブラックホールのような穴があき、物凄い吸引でグリをひと飲みで吸い込んでしまった。



「グ、グリ……?」

真智は、そのあまりに突然の事態に

ただ唖然として他に何も発することが出来なかった。


————————————————————

※今話のエピソードは全年齢版バージョンです。別タイトル

【憮然野郎 本編作品(全年齢版)の男性向け編集バージョン】の中に、

上品とは言えないようなネタも含めたバージョンの代替エピソードを収録しています。


——


↑【登場人物】

真智まち

•谷先生

月水げす

•大学で物理専門の新任の若い女性講師。

•グリ

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