似て非なる日常

愛理栖には、この時代で次元震の発生場所を探すという別の用事もあるらしい。

真智は家の近所で愛理栖ともお別れし、

そのまま家路へと向かう。


真智が家に着いた頃はもう夕方で、

辺りも暗くなりかけていた。


「ただいま~!」


「……」


「ねぇ、お母さんもいないの?」


(お母さんは専業主婦だから、

この時間は必ず家にいるはずなのに……)


「お父さん?」

真智は、とりあえずお父さんの書斎の戸を開けてみた。


お父さんもいなかった。


真智は仕方なく

自分の部屋に行く事にした。


「あれ?」


「あたし、疲れてるのかな?」


「あれあれ?

どうして!?」


真智は自分の部屋に……入れない。

入れないと言うより、のだ。


部屋の戸を開けて部屋の中の様子はわかる……。


でも、入ると、そこは真智の部屋の外だったのだ。


「ねえ!? ちょっとこれ一体どういうこと!?」

真智は独り言をぶつぶつ言いながら、

孤独と不安を誤魔化しながら必死で家中を調べた。


「お母さん!

    お父さん!

ねえ! お願い!

 誰か!

   何か答えてよ!」


真智はその場で泣き崩れてしまった。




「お夕飯の準備終わっているのに

真智は帰り遅いですね~!」


「俺がちょっと言い過ぎたかもしれん」


「本当ですよ~!」


「お母さん!?

お父さん!?」

すぐ近くで二人の声が聞こえ、

真智は急いでその声の方へと向かった。


「お父さん~! お母さん~!

あたし、目の前にいるよ~!」


◆とりあえず、先に食べようか?◆


◆駄目ですよ。

あなた真智に謝るんですよね?

あの娘を待ちましょう◆


◆あ、ああ……◆


真智の声は二人に届いてはいなかった。


真智が辺りを見渡すと、

食卓があるはずの部屋には……、

空間が無かった。


「ピィィィィィブゥゥゥ~!」

突然、耳障りな強烈な機械音が真智の耳に飛び込んできた。


「痛い痛い!

頭が割れそう!」


真智は、その死を覚悟させるような強烈な音に、その場に倒れた。

そして、横寝の体勢で耳とまぶたを塞ぎ、

ひたすら耐え続けた。



「シュ~ン!」

何時間我慢してからだろう?

突然パソコンがクラッシュした時のような音が聞こえ、

真智は自分の頭の中と体が軽くなったのをはっきりと感じた。

そして、強烈な睡魔に襲われた……。


「……」


「おい、真智?しっかりしろ!

大丈夫か?」



「谷……先生?」


真智は谷先生の呼び掛けで意識を取り戻した。


「勝手に家にあがりこんですまん」


「それは大丈夫です。

ところで、お父さんお母さんが変になっちゃた。

うぅ~ん!」


「真智泣くな! もちつけ。


確かに、今うちらがいる世界はいろいろとおかしい。

真智、お前はどんな異変に気がついたか?」


「あたしは、家の中で空間ごと無くなった部屋があったり、

部屋から別の部屋をまたぐ時に元の部屋だったりと

何がなんだかわかりません」


「そうだったのか……」


「谷先生も他に異変を感じました?」


「うちは、沢山みつけたぞ!

真智、ノートか本を一冊、それと、紙とボールぺンを持ってきてくれ」


「は、はい」

真智は構造の変わった家の中を這うようにして

谷先生に言われたものをかき集めた。


「ところで、これらをどうするんですか?」


「真智、その本のページどこでもいい。

適当にページをめくってみてくれ」


あたしはすぐに本のページをめくった。


「…………え!?」


「真智も気付いたようだな?」


「はい……。

文字の至るところが文字化けしています」


「そうなんだ。

それに、こうやってな……」

谷先生は紙にボールペンでおもむろに自分の名前を書きだした。


「みてみろ、印刷されたものだけじゃない。

今書いたものまで文字化けしている」


「信じ……られません」




「谷先生~、遅くなってすみません~!」


「四葉ちゃん!」


「あたいとグリも来た。全く、どうなってるんや?」


「宙? グリ?」


「こいつらとは帰還した後真智より先に合流してな。

真智の家の前まで来て貰ったんや」


「ねえ、四葉ちゃんや宙は帰還してからどんな違和感を感じた?」


「私はね~、たまに音が聞こえなくなる時があるわ~。

それと~、左手は大丈夫なんだけど、右手で掴んだものが全部

ギザギザなこん棒みいなバットに変わっちゃうの~。

このこん棒持ってると、無性に誰かの頭を殴りたくなるんだけど~」


「四葉ちゃん? ちょっと顔怖いよ~!

こっち近づいてこないで!」


「真智ちゃ~ん、一回殴らせて~?」


「駄目! 駄目! 百歩譲って、

死んでも後で生き返るってご都合設定があっても嫌!」


「え~、そう~? 残念~」


「あ~。あたし四葉ちゃんにホントに殺されるかと思ったよ~。


話ずいぶん脱線しちゃったけど、

宙の身の回りはどうだった?」


「あたいの場合は、重力が重くなったように身体が重いんや。

そして、場所によっては少し軽くなったり時計の時間の秒針が激しくぶれたりとかムラがあるんや」


「そうか……。

これはうちの推測やけど、

MODの影響かもしれん」


「それって確か焼却場でVRコンピューターを探す時に使ったやつですよね?


あれでは、結局解決しなくて今の現状とは関係無いんじゃないですか?」


「ああ、そのはずや。

しかしな、もし仮に……うちや愛理栖以外に科学的知識を持った第三者が介入しとったら話は別や」


「谷先生? その第三者って誰ですか?」


「真智、それはうちにもわからないんや」


「ねえ~、そのMODって言うのが原因だとしたら、

また愛理栖ちゃんの助けを借りたらいいんじゃないかな~?」


「おう、あたいもそう思う」


「なあ、真智。とりあえずまたうちらを愛理栖に会わせてくれ」


「それが……」


「どうした真智?」


「実は、愛理栖とは帰還後すぐに別れたんですが、

この時代の次元のホニャララをホニャララしに行くってどこかへ

行っちゃったんです」


「そんな~!」

みんなはがっかりしていた。


「なんとか愛理栖に連絡をとることは出来んのか?」


「……はい、残念ながら」


「そうか~、困ったな。どうしたものか」

谷先生は頭を抱えていた。


「ねえ~、みんな~?

VRシステムっていうの無事だったんなら、

それでもう一度あの次元に行ってみない~?」


「う、うん。でもどうして?」

真智は理由がわからず四葉に尋ねた。


「愛理栖ちゃんがこの時代の次元に関して調べてるって

ことは~、私達が高次元に行った事と何か関係してるかもしれないでしょ~?」


「四葉、よく言った! うちも四葉の意見に賛成や。

お前らもまた巻き込んでしまってすまないが……」


「もちろん!

私達も行きます!」

みんなは谷先生の呼び掛けに即答した。


「急いで大学の研究室ラボに向かうぞ」


「はい」


真智達四人は周りに畑が広がる近道を通って大学に向かっていた。


「みて、あれは何かな?」


真智達を取り囲むように両手を真横に広げたみんな同じ顔の女の子達が次々に出現してきた。


「なんだよあれ? こわっ!

動いてないし、次々に沸きだしてるみたいじゃん」


「でもみて~、可愛い女の子じゃない~?」


「え~! 胸も大きいし、なんかズルい~」


「まあまあ、真智ちゃん~。落ち着こ~?」


「四葉ちゃんは悩んで無いからそう言えるんだよ!

…………。

それにしても、あの女の子の作画の角度アングル

そこはかとなくエロいよね?」


「作画 言うんやない! このアホ!」

「ゴツン!」


「痛った~い!

谷先生? みんなの前でどうして~? ひどいよ~!」


「真智のこのっ! アホんだら~!

『作画の角度アングル』なんて大人の事情言うたら、

この作品の緊迫感台無しやないか~い!」


「ごめんなさ~い」


「真智ちゃんらしいわ~。クスクス~」


「しっかし そいつ、スズメやリスとか、小動物がやたらとたかっていないか?」


「あたしわかった! これ、きっと案山子カカシさんだよ!」


「なんだ、ただの案山子カカシか~」

みんなそう言って胸をなでおろし

スルーしようとした。

谷先生ただ一人を除いて……。


「お前ら、油断するな!」


「え? どうしてですか?」

真智は谷先生に聞いた。


「あれは、案山子カカシ状態と言って、特定のゲームでMODを使った

時に起こることがあるんだ。

※実際の某ゲームではそのような女の子の案山子(カカシ)は出てきません。


それにしても出現リポップのペースが早すぎる。異常だ。

急いで進まないと行く手を塞がれるぞ!


走れ!」


「はい!」


真智達は走って案山子カカシの群れを突破し、大学へと向かった。



そして、

大学の研究室(ラボ)にたどり着くと、

もう一度VRコンピューターとゴーグルを使い

19万6883次元の世界へ出発した。


——————————————————————

【登場人物】

真智まち

•真智の両親

•谷先生

•四葉

そら

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