シメントリア
「グリ?
みんな! グリが、グリが!」
「ゴゴゴ~!」
突然、グリを取り込んだ巨大結晶を中心に激しく揺れ始めた。
「危ない! 真智、とにかく早く!
早くその場を離れろ!」
「先生、でも…グリが、グリが!」
「凄い揺れじゃん? これじゃあたいら立っているどころか、
ただ目を開けていることすらできねえよ!」
その揺れはまるで、ジェットコースターにでも乗っているかのように
目まぐるしく、そして乱暴に平衡感覚を失わせるものだった。
激しい揺れは10分は続いただろうか?
揺れがおさまり真智はそっと目をあけた。
すると、ついさっきまで巨大結晶だったものが、
人の…
沢山の雪の結晶模様をあしらった白い水着を着た
全身薄水色の女の子の姿に変わっていた。
「あなたは、…誰?」
真智は目の前の存在への恐怖より先に、
咄嗟に疑問を口走っていた。
「私は誰? 思いだせない、う~、頭が痛い!
あ、そうよ!
私、思いだしたわ。
私の名前は『シメントリア』。
今生まれた存在よ!」
「今生まれた存在? あたしには意味がわからない。
どういう事?」
「私も…わからないわ」
「……」
「……」
真智とシメントリアという少女はしばらく無言で
お互いの出方を伺っていた。
「ねえ?
どうでもいいけど早くグリを返して!」
「グリ? ああ、私が本能で取り込んだ者の事ね?」
「そうよ。返して!」
「駄目! 無理!」
「どうしてよ?」
「私の心には理性がみつからないの。
あるのは不安や悲しみ、怒りの感情だけよ!
それに……、
自分でも戻す方法なんてわからない」
「そ、そんな……」
「あなた達! とにかく今すぐこの場から立ち去りなさい!
さもないと……、ああ、理性が!
うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
シメントリアはそう言うと、突然激しく暴れ出した。
「みんな?
この場は私に任せて!」
そう言って愛理栖がシンメトリアに突っ込んででいった。
「どうして……?全く歯が立たない。
みんな? 私が暫く引きつけておくから
今のうちに逃げて!」
「みんな逃げなさい!
破片が飛んでくるわ!」
「ねえ?本当に四葉ちゃんだよね…?」
「黙って逃げなさい!」
「ううん。
あれ?
谷先生?
そんなところで立ち止まってどうしたんですか?
逃げないんですか?」
「あれでもないな~、これでもないか~」
「先生、早く~!」
「ちょっと待て!
あ!あった~!」
「谷先生、さっきから一人でなにやってんですか?
それに、その雑巾みたいにボロボロで臭そうな白いポーチは
なんなんですか?」
「ああ、これか?
まあ、そんな風に言うな。
これはうちがもしもの時の為に開発した秘密兵器
『二次元ポケット』だよ、
ワトソン君」
「はぁ~?」
「まあ、見てろ真智!」
谷先生はそういっておもむろに汚いポシェットから
いかにもおもちゃ屋さんにでも売っていそうなチープな魔法の杖を取り出した。
「変身~!」
谷先生の姿がど派手で無駄に長い演出とともに瞬く間に、
どこぞの魔法使いの姿に変身した。
「先生? その魔法使いの衣装、子供用じゃないですか?」
「うっさいな~真智!」
谷先生は元々太ってはいなかったけど、
特にきつきつなお腹回りが痛々しくてみていられなかった。
先生は、また汚いポシェットから最近大ヒットした恋愛映画の
ライトノベルを取り出し、そして呪文のように速読を始めた。
速読の呪文が終わったのか、谷先生は杖を高く掲げ、そしてこう叫んだ。
「リア充爆発しろ~!
エクスプロージョン!!」
「バァァァァ~ン!」
「す、凄い!本当に爆発した……」
もの凄い威力の爆風で暫く辺りがみえなかったが、
目が慣れてくると真智はすぐにシンメトリアがいた場所を探した。
「え? 全然効いて……無い?」
真智と谷先生は目を疑った。
シンメトリアが、まるでそんな爆発など最初から起こっていないかのように、
そこに平然と立っていたのだから。
「谷先生? 爆裂魔法の他にも無いんですか?」
「やだぁ~!やだぁ~!
あたち爆裂魔法しか興味ないもん!
他のなんて知らないもん!
悪い~?」
「子供かー!!」
その場にいる全員で先生にツッコんだ。
「アイリス? 助っ人に来たわ!
この借り高く付くわよ!」
「あ、あなた……?」
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↑【登場人物】
•
•シメントリア
•谷先生
•アイリス(愛理栖)
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