希望

あの後、真智は四葉に部室で事実を説明し、

明日二人で大学の研究室ラボに行く約束をした。

明日こそは絶対宙を見つけ出すことを心に決め、真智は家に帰った。


真智はお風呂からあがると、布団に入る前にトイレを済ませた。

それは、真智がトイレのドアを開け、自分の部屋に戻ろうと思ったちょうど矢先に起こった。


◇真智?◇


「だ、誰!?」

真智は耳元で誰かに小さくささやかれた気がした。 耳を澄ませ意識を集中してみると、その小さな声はまた聞こえてきた。


◇ついてきて◇


「間違いじゃない!」

その声は真智にとって聞き覚えのある懐かしい声だった。

「その声、愛理理栖なの?」

真智が声がするほうへと顔を向けると、 季節外れの蛍が一匹、目の前を飛んでいた。


◇こっちだよ。靴を履いてついてきて◇


「え? どういうこと?」


◇今は説明できない。急いで!◇


真智はその蛍に導かれるがままに 玄関を出て後をついていった。


そしてしばらくすると、 蛍は近所の空き家の中へと入った。

真智もその蛍に続いて中に入り、入口の戸を閉める。

『ガラ、ガラガラ』


すると、ついさっきまで蛍だったその姿は、

みるみる形を変え、最終的に懐かしい見覚えのある姿へと落ち着いていった。


「愛理栖~! 会いたかったよ~!」

真智は再会の喜びで、思わず愛理栖に抱きついた。


「ホントにも~、真智は寂しがり屋さんだね」


「だって! だって!」


「真智は、仮想現実VRから抜け出した私を心配して 探してくれていたんだね?

ありがと、真智」


「そんなの当然じゃん!

ところでね、愛理栖聞いて。 実はね、宙がね……」

真智は愛理栖にことの一部始終を説明した。


「なるほどね、真智の友達の宙ちゃんがね~」


「あたしどうしよう!

愛理栖はどうしたらいいと思う?」


「真智、泣かないで。 責任の一旦は私にもあるんだし。 私も全力で協力するよ」


「え? 宙を助け出す方法があるの?」


「うん、可能性は無いとは言い切れない」


「どうして?」


「どういうことなのか順番に話すね。

ねえ、真智?」


「ん、なに?」


「 みんなが当たり前の様に"意識"と思い込んでいる生理現象、実はこの意識は量子力学の原理に基づいているかもしれないって真智は聞いたことある?」


「聞いたことない!!

それってどういうこと? kwsk教えて!」


「 脳の中には"ポスナール"っていう分子が霧の様な状態でたくさん存在しているの。

そしてその分子が突然、あやふやな状態からはっきりした状態に変わるの!」


「なるほど・・・、わっから~ん」


「ごめんごめん。 中学生にもわかりやすい例をあげるね。

真智は『シュレディンガーの猫』の話は知ってる?」


「毒ガスの箱に入れられた可哀想な猫の話じゃない?」


「そうだよ。 つまり、結果を確認する前には半分生きてて半分死んでる猫が、

確認した瞬間に生きてるか死んでるかのどっちかに決まるって話。

 そしてね、これは『波動関数の収束』って呼ばれたりするんだけど、 脳内で"意識"を生み出す要因でもあるの。

生きている間にはこんな風に波動関数の収束が絶えまなく起き続けていて、

その連続的な流れを"意識"として感じているらしいんだ」


「・・・」


「真智、生きてる~? もっしも~し!」


「・・・」


「ありゃ~。完全に固まっちゃってる。

ごめん……、私の説明難しかったかな?」


「無理~♪♪ 無理~♪♪」


「まあまあww 真智も見たらわかるよ。

私が朝までに準備しておくから、 明日一緒に、宙ちゃんの意識がまだ機能している地点まで探しに行こ!」


「うん!」 自責の念から心臓が張り裂けそうだったあたしは、愛理栖の願っても無い提案にワラにもすがる気持ちだった。

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