第6話 姉


「シグレ…おぬしの胸中きょうちゅうは穏やかではなかろう…しかし、もろは殿の苦悩はではないぞ」

私は再度、最悪の事態を思い描いた。私の選択に失望したもろは殿は、既になっていてもおかしくは無い。

勿論、その種を撒いたのは私である。

今度ばかりは自身への怒りが、炎となって瞬く間に体を覆い、焼き尽くさんとした。

刹那、それを察した様に香擁が呟いた。

「時が来れば閻魔えんまが裁きを下すじゃろ…態々わざわざ己で己を罰する必要もあるまいて」

香擁は音を立てて扇子を閉じ、その先端を私に向けた。

何を言うでもなく、したたかな眼差しで伝えてきたものは

(冷静になれ。そして、おぬしのやりたいようにやれ)

という、叱るでもなく、突き放すでもない、完全なる許容であった。


「香擁、ありがとう」

私が伝えると、

「む。何じゃ、姉に向かって呼び捨てとは…!」

と、香擁は口を尖らせた。

「香擁」

「分からんやつじゃのう…!」

「本当の姉の様に思って良いだろうか」

私の意図を察したのか、香擁は押し黙り、目を赤くして涙を浮かべていた。

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