第5話 画

「まあ、よい」

桂の屋敷に着いた頃には、香擁も落ち着きを取り戻していた。

「いや、よくはないが」

自分の発言を否定すると、香擁は盛大にため息をついた。そんな仕草でさえ気品が漂うあたりは流石である。


「シグレの性格はよく分かっておる。きっとこうなってしまうという予感はあった」

「忠告を無視したことは、申し訳ないと思っている」

「謝っても事態は変わらぬぞ。これで事はより複雑になった…」

香擁は言葉を切った。


「おぬしはやはり、すべてを話さねば納得せんのじゃろうな」

香擁は呼吸を整えると、形のよい唇を動かした。

「仕方あるまい。心して聞け」

私は、頷いた。

「シグレや…。おぬしはもろは殿に試されておるのじゃ」

心の臓が跳ねた。




香擁の話を要約するとー

・私が桂家当主となって五年間、会わなくなったことでもろは殿は寂しい想いを募らせた。

・その五年間、私の傍らには常に香擁がいたことで、不信感までも募らせた。

・祝言が済んでも香擁を手放さないという私の意向が、それらを決定付けた。

・もろは殿は短沢に協力を仰いで今回の一件を起こし、私にもろは殿と香擁どちらかを選ぶよう迫った。

ーというものであった。


もろは殿がその様なことに及ぶとは、にわかには信じられなかった。

しかし筋は通っているし、尚の反応にも説明がつく。


「もろは殿と短沢はどのような関係だったのだろうか」

自分でも声が震えているのが分かった。

「それは、おそらく…」

香擁が口を開いたところで、襖を叩く音が聞こえた。星野家への遣いが戻り、報告にやってきたのだった。

報告内容は大きく二つー

・もろは殿は旅行へ行くと言って家を出たきり戻っていない。

・もろは殿は以前より、あの短沢から求婚されていた。

ーということであった。


「これで、が完成したな」

香擁が俯いたまま、静かに言った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る