第9話 星野もろは
それから
部屋に入れるのは忍びないと思い、縁側に座布団を用意する。
「どうかされましたか」
私が聞くと
「司暮様は、もう遊んでは下さらないのですか」
と言って、私を見上げた。
私は
私が悩んでいると彼女は庭に視線を向けて口を尖らせ、縁側から投げ出した足をぱたつかせていた。
足の動きが止まったのを確認し、ふと彼女の顔を見ると目に涙を浮かべていた。
「…新しい
その許婚がよほど気に入らなかったのだろうと想像は付いたが、輝殿程のお方はそうそう居るものではない。
(おかわいそうだが、私に言われても困る)
私は不機嫌な顔をしていたのかも知れない。
目が合った時の彼女は酷く驚いた顔をしていた。
「失礼致しました」
目に涙を溜めた少女が、背を向けて去って行く。
これを情が移ったと言うのだろう、と嘆息する。どうにも居たたまれない。
「すみません。今日は都合が悪くて」
彼女の背に向かって言うと、彼女は歩みを止めた。
「また、近いうちに必ず」
少女は背を向けたまま頷いて、去っていった。
それから私は暇を見付けてはもろは殿の所へ通うようになったし、もろは殿も度々私の居室に押し掛けるようになった。
輝殿がいなくなって暇をもて余していたのは私も同じであったし、また、互いに寂しさを抱えてもいたのだろう。
勿論10歳の少女に恋慕することはなく、私はただ、もろは殿を妹の様に思って接していた。
しかし、暫くすると私たちは会うことを禁じられてしまった。やはりと言うべきか、許嫁を差し置いて目に余るということであるらしかった。
それから暫くしてもろは殿が深夜に人目を忍んで会いに来た時、私は彼女を
明くる日、私は星野家当主に面会を申し込んだ。
そして、その面会の席でもろは殿を妻として迎えたいと申し出た。
「不躾にも程があるぞ。恥を知れ」
それは予想していた答えであった。
私は用意していた言葉を投げかけた。
「今の私は桂家の四男に過ぎませんが、もろは殿を娶る頃には桂家の当主になっているでしょう」
それを聞いた星野家当主は押し黙って、私を視線で
私が(睨んでも人は殺せませんよ)と諭す様に
「どちらにせよ、示しは付けねばならんだろうな。誰もが納得する方法で」
私は頷いた。
「東道輝…。あの男は申し分の無い男だった」
「はい」
「あの男と同等であると示すことが出来れば、皆納得するだろう…勿論、私もな」
星野家当主が膝を小さく叩いた。
嫌な予感がしたが、無茶は元より承知であった。
果たして私は、星野家剣術師範と三度勝負を行い二度の勝利を先取することで、もろは殿との婚約関係を結ばせて貰えるように約束を取り付けた。
ただ、私は東道輝殿はもとより、これまで一度として星野家剣術師範にも勝利したことはなかった。
勝てば良し、負けてももろは殿が諦めが付くだろうと私は少々楽観的に考えていたのだが、この話を又聞きしたらしいもろは殿は大層な喜びようであった。
期待するなとは言えず、私はただ「がんばります」とだけ答えた。
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